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「リアム様、もうすぐお食事の時間ですが、先ほども申し上げた通り陛下からお誘いがあります。行きますか?」
ルドヴィクが話しかけるとウィリアムは本から顔を上げる。
眼鏡をかけていたのか勢いよく顔を上げため、鼻から金色のブリッジが滑り落ちる。ウィリアムは慌ててかけなおしながらルドヴィクに返事をした。
「どうしよう…かな。うーん。…いくよ。…怖いけど……」
最後にぽつりと付け足したような言葉にルドヴィクは少しもやもやとした気持ちになる。
ウィリアムに悲しい思いや嫌な思いをしてほしくない。もちろん全力で守るつもりではあるが彼がどう感じるかは彼次第だ。
「大丈夫ですよ。俺がお守りします」
こういう言葉をさらりと言えてしまうのがルドヴィクだった。
せめてもの励ましでウィリアムに言葉をかける。するとウィリアムは小さく笑って優しく微笑む。
「ありがとう。ルイ。た、頼りに、してるぞ」
真っ赤な顔でお礼を述べてくる姿がまた愛おしい。不思議とルドヴィクの頬もみるみる熱くなっていった。
自分の中で何か不思議な感情が自分を支配する。
「……っあ、はい」
驚いたせいか自分でもわかるほどに動揺した声になってしまっていた。
しかし、ウィリアムも恥ずかしがってぷるぷると震えていたのでおそらく気づかれていないだろう。
「大丈夫ですか?」
焦ったルドヴィクは思わずウィリアムの頬に触れてしまっていた。するとウィリアムの体温がにわかに上昇し、首まで赤くなる。
ルドヴィクはもう片方の手で自分の頬をに触れ、体温を確認する。…がルドヴィクの頬もまた、熱かったのであまり役には立たなかった。
「ルイ…。大丈夫だ。僕は問題ない…よ?」
少し恥ずかしそうにそういうウィリアムは視線を横にずらしながらもルドヴィクの手を握る。それは自分の安心のようにもルドヴィクを安心させるようにも取れる優しくて柔らかい話し方だった。
ルドヴィクは堪えられなくなって慌てて話題を変える。
「リアム様、もうすぐお食事の時間なので早速準備をしましょうか」
そう言ってルドヴィクはウィリアムの着替えを持ってくる。
ウィリアムは真っ赤になったままその場に立ち尽くしていたが少し時間がたつと落ち着き、顔色も治まっていた。
◆◇◆◇
王族の服は男性といえど種類が多い。今回ルドヴィクが用意したものは真っ白なワイシャツとループタイ、ジャケットとズボンだ。かっちりしているが、普段とあまり変わらない。
ウィリアムはルドヴィクにされるがままに着替えをしていた。
「はい、ばんざーい。次は…ズボンですね」
ウィリアムは健気に動く。すっかり慣れたものなのか着替えもすぐに終わった。
ルドヴィクはウィリアムの白い肌が見えるたびにドキドキしていたのだがそれは無言で心の中にしまった。
「あとはループタイを止めて終わりです。髪型は…いつも通りでいいですか?」
「う…ん。ちょっとかっちりした感じ」
何とも曖昧な返しでウィリアムが答える。緊張しているのかウィリアムの声は少し硬かった。
ルドヴィクはウィリアムの軟らかい髪にやさしく触れる。
手に付けた少量のワックスが徐々にウィリアムの髪になじんでいった。ルドヴィクはワックスで固めていないウィリアムの髪のほうが気持ちよくて好きだが王がいるとなるとそうはいかない。
ウィリアムの髪を緩く横に流して整える。やはり自分の主人はいつ見てもかわいいと思ってしまう。
「できましたよ」
ウィリアムがぎこちなく振り向く。綺麗な丸い目がふにゃりと歪んでルドヴィクを映した。
安心したいようなそんな笑顔にルドヴィクは微笑んでウィリアムの頭をなでる。
「大丈夫ですよ。もしも苦しかったりその場にいるのが嫌だったりしたら遠慮なく俺を読んでくださいね」
ウィリアムは照れたように微笑んで「ありがと」といった。ルドヴィクがウィリアムの頭から手を離すと目を細めてウィリアムの胸元にピンをつける。
「…?な、なに?これ……」
きょとんと不思議そうにルドヴィクを見つめてくる。
「おまじない、ですよ。まぁ、怖いときはそれが俺だと思ってください。全力で守ります」
実はそのピンにはGPS機能に加えて防御魔法と簡単な攻撃魔法が仕掛けてある。ウィリアムに知られると気まずいのであえて言っていないが聡い彼はすべて見通しているような気もしていた。
「…ふへ。ありがとう」
ほおを緩ませ笑う姿は天使と見まがうほどに綺麗な笑顔だった。
本当はわかっているのだろうがそれを表に出さないのも優しい。綺麗で小さな唇が弧を描く。
ルドヴィクはそんなウィリアムの行動に悶えながらも姿勢を変えてに向き合う。
「リアム様、ピン、ずっとつけててくださいね」
ルドヴィクが念を押すとウィリアムは困ったように笑う。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと付けているし」
やはり気が付いているのだろう。本を好んで読むのでちょっとやそっとの魔術では簡単に読み取られてしまう。
ただウィリアムの顔は呆れてはいるものの本気で嫌がってはおらずその頬はほのかに薄紅色に色づいていた。
◆◇◆◇
「もう行きましょうかリアム様」
ルドヴィクがソファで本を読んでいるウィリアムに声をかけると本を置いてこちらへ振り返ってくる。
「…うん。」
そう答えてルドヴィクのほうへ駆け寄る。そしてぽつりと呟いた。
「…ちょっと…こわい。助けて?」
その顔は久ぶりに兄と会う嬉しさではなく、緊張で蒼白になっていた。握った手は冷たく、指の先は血が通っていない。
「大丈夫ですか?やっぱりやめます?」
体調が心配で話しかけると、ウィリアムは弱々しくふるふると首を横に振る。
「大丈夫…。頭…なでて?」
上目づかいで見つめてくるウィリアムにとうとう耐えられなくなり仕方なく、という風に優しくなでる。
ふわふわとした綺麗な髪は心地よく、いつの間にか緊張していたルドヴィクの心も和らげてくれた。
「あ、ありがとう」
すっかり夢中になって頭を撫でていたルドヴィクはウィリアムの言葉で我に返る。
少し恥ずかしくなったが、ウィリアムを見ているとそんなこともどうでもよくなった。
「じゃあ、行きましょうか」
声をかけるとウィリアムはもう怖がってはいなかった。決意に満ちた表情がルドヴィクを励ます。
「うん。がんばる」
ウィリアムの宣言は部屋中に反響し、ルドヴィクの心が熱くなった。
食事処へ着くと既にローレンスとアルベールはついていた。
ウィリアムは深呼吸をしながらドアを開ける。少し緊張しているのかふいに触れた手がとても冷たかった。
「お久しぶりです。ローレンス兄上、アルベール兄上」
ウィリアムが話しかけると、二人がウィリアムを一斉に見る。ローレンスは相変わらずの真顔で、アルベールは柔らかく微笑んでいる。
「久しぶり、ウィリアム。三ヶ月ぶりかな?」
にこやかにウィリアムのほうを見るとウィリアムは顔に隠し切れないといったような笑みを浮かべていた。頬が紅潮して、とてもうれしそうだ。
「ルドヴィク君も、久しぶりだね」
急にルドヴィクに話を振られた。ルドヴィクは少し驚いたが難なく答える。
「はい、特に変わったことはありませんでしたよ。ウィリアム様とともにお帰りをお待ちしておりました。」
そう話すとウィリアムが瞬時に顔を赤くする。「まっていた」と言われて恥ずかしくなったのかこちらを睨んでくる。
(…あなたが俺以外を見たりするからですよ?)
「…っ⁉」
「ど、どうしたんだ、ルドヴィク」
ウィリアムが心配そうにルドヴィクを覗き込む。アルベールも口には出していないが心配そうにこちらを見てくる。
「すみません、何でもないです。」
(……いま、なに、考えてたっけ?まぁ、いいか)
「そ、そういえば、ウィリアム様は算術が得意なんですよ?私にも時間がかかる問題をすぐ解いてしまうんです!」
すかさずルドヴィクは話すとなぜか周りの使用人が微笑ましそうにこちらを見てくる。
気が付いたら、ウィリアムがルドヴィクの背後に隠れてアルベールの様子をうかがっている。そしてルドヴィクにだけきこえるような小さな声で話す。
「も、もう、やめてくれ。恥ずかしい…」
耳がほんのり赤く染まり、目が潤んでいる。
「すみませんっ」
慌てて謝る。するとアルベールが近寄ってきた。
「私に内緒で、何を話しているんだい?」
からかっているのだろう。ニコニコと楽しそうに微笑んでこちらを見ている。
「殿下っ。な、何でもありませんよ?」
「兄様っ」
人前でこれほど動揺したのはいつぶりだろうか。
「ふふっ、二人は仲がいいね」
特にお咎めもなく、穏やかに話しかけてくる。少し安心して、ウィリアムが席に着いた。
「陛下が参ります」
ドアの前で控えている小柄なメイドが言葉を発する。
(年齢、推定20歳。黒髪、長髪、こめかみに黒子あり。)
ルドヴィクは職業柄人間観察をしてしまう癖がある。このような場に来ると無意識に観察してしまうのが欠点だ。
「皆の者、よく来たな。今日は久しぶりの食事だ。家族水入らず。今日は普段の忙しさは忘れて食事をしよう。」
この国の王、エルスウェイト・ノース・ロズヴェルトは気さくで国民から絶大な人気を誇る歴代でも有数の頭脳派王だ。
ウィリアムに雰囲気が少し似ていて、威厳があるが美しい顔をしている。
正直三十代にしか見えないというのがルドヴィクの感想だ。
「では、いただくとするか」
「……」
「はい、父上」
「はい、いただき、ます……」
各々側近がさらに盛り、毒見をしてから食べ始める。
ルドヴィクもスープを口に含み、ゆっくりと嚥下した。特に毒物の類は入っていないようだ。
今日のメニューはコンソメスープに米粉のパン、トマトのサラダ、カットステーキそしてウィリアム以外にはシャンパンが用意されている。ウィリアムは未成年なのでりんごジュースだ。
どれもとてもいい匂いがして、おいしそうだ。
「アルベール、今回の各伯爵への手配、ご苦労だった」
「ありがとうございます。騎馬大会についてはどの伯爵にも許可は取れました。今年はベルクス領で行うことになりそうです」
国王とアルベールが仕事について話し始める。
再来週ある騎馬大会はベルクス伯爵領で行われるらしい。広大な土地にのどかな土地柄はなるほど、騎馬大会にはもってこいだ。
騎馬大会とは貴族部門、平民部門の二種類の中で年齢別で行ういわゆる競馬大会のことだ。今年からは女性の参加も認められ、国の第一イベントだ。
「ウィリアムは、最近どうだ?」
国王が急にウィリアムに話しを振る。そのためかウィリアムは黙って固まってしまった。
ルドヴィクが周りに見えないように肩をたたくとウィリアムははっとして答え始める。
「そ、そうですね。そういえば、父上から頼まれた財務についての資料をまとめ終わりました。あとで届けさせますね」
口調が固く、緊張した面持ちだ。
「おお、そうか。がんばったなぁ」
アルベールに対しての態度とは打って変わってウィリアムには子供に向けるような慈しみに満ちた表情だ。末っ子だからなのか、ほかの兄弟よりも「かわいい」と思われているようだ。
「え、あっ…ありがとうございます……」
褒められて恥ずかしくなったのか視線を下に向け、恥ずかしそうにうつむく。
「くふっ」
アルベールが急に笑い出す。国王やローレンス、使用人たちも微笑ましそうにウィリアムを見ている。その表情は小動物を見るようでウィリアムのほうを見ている。
ルドヴィクはウィリアムを隠してしまいたい衝動に駆られる。今すぐ閉じ込めて、自分だけを見ていてほしい。
「ご、ごめんなさい……」
「よいよい」
国王がすかさずフォローをする。
そして会話に戻る。食事が食べ終わるまで微笑ましい雰囲気が漂っていた。
ただ、ルドヴィクは気が付かなかった。無口だったローレンスがじーっとウィリアムを見ていたことを……。