テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……るい。疲れた」
「…っ!リアム様っ?」
ウィリアムがだらりとルドヴィクの体にもたれかかる。急な出来事にルドヴィクの体は緊張と罪悪感でびくりと固まる。
「ルイ、ぎゅーっ」
ふわりと抱きしめられると同時にほのかな温もりに包まれる。ウィリアムの表情は夕食の場にいる時とは違い、ふにゃりと崩れていた。
ルドヴィクはたまらず抱きしめ返す。柔らかくて、暖かくて優しくて。これを手放してしまうと自分はどうにかなってしまいそうだ。
「ふへっ。ルイ、くるしい」
いつの間にうでに力が入ってしまったようだ。ルドヴィクが力を緩め、腕をほどこうとするとウィリアムが強く抱き返し、ルドヴィクの胸に軟らかい髪をぐりぐりと押し付ける。
「ふふふっ。仕返し」
からかうように細められたその瞳には嬉しい、楽しいといった感情が映し出されていた。
「……は、離れてください。ほかの人に見られたらどうするんですか」
「うーん……。僕はそれでもいい。ルイと離れたくない気分」
ルドヴィクが弱々しく説得するもウィリアムはそれをものともせず寄りかかってくる。その姿が愛おしくもルドヴィクは深い罪悪感の海へと突き落とされる。
(……あぁ。こんなに近寄っても何もない。自惚れるな、俺。)
そう自分に言い聞かせ、ルドヴィクは顔を真っ赤にしながらそれを悟られないように少し顔を傾けウィリアムをソファに座らせる。
「うわっ……!」
「ひうっ」
ウィリアムがバランスを崩し、ソファへ倒れる。その時ウィリアムの服がルドヴィクのボタンに引っ掛かりウィリアムに覆いかぶさるように倒れこんでしまった。
慌てて手をつき、つぶしてしまわないような体制をとるが、気が付けばウィリアムとルドヴィクの鼻と鼻がくっついていた。
深いアクアマリンのような瞳が驚いた表情のルドヴィクを映す。ウィリアムはとたんに頬を赤くして、恥ずかしそうに目線を逸らした。
「あ、う。ルイ。お風呂、入ってくる……」
「い、行ってらっしゃいませ……」
慌てて離れるとルドヴィクの口からは勝手に呆けたような声を発していた。ルドヴィクはしばらくその場を動くことができなかった。
◆◇◆◇
ルドヴィクは簡単にシャワーを済ませるとウィリアムの布団を整える。ウィリアムの寝台は天蓋付きでさらさらとしたマットレスが敷いてある。
ルドヴィクが来る前、ウィリアムは布を重ねたような粗末な布団だったが、ルドヴィクがそれを見かね、特注で仕入れたものだ。
(……リアム様がかわいすぎて、どうしよう……)
ルドヴィクは今日の失態を振り返りながら落ち込む。もうすぐでウィリアムも帰ってくるだろうが、嬉しいと同時に申し訳ない気持ちにもなってしまう。
(はぁ……もっとちゃんと、しないと)
「ただいま。ルイ」
にこにことした表情でウィリアムが戻ってくる。いつも以上に機嫌が良く体からはホカホカとした湯気が立っている。
「マーサがね、べっこう飴くれたんだ!いつも頑張ってるご褒美って。ねぇ食べていいっ?食べていいっ?」
マーサは三十代後半のメイド長だ。きつい言動故に人嫌いな性格だと思われがちだが小さな子供にめっぽう弱く、甘やかしてしまう癖がある。いわゆる、おかんのような性格だ。
ウィリアムは褒められたことが嬉しいのかはしゃいだ様子でねだってくる。…がルドヴィクとしては許すわけにはいかない。ウィリアムに虫歯なんてできたら最悪だ。
「もーっリアム様。今はダメですよ。虫歯になっちゃいます。明日、食べましょうね」
「…ふぇっ。はぁい……」
(……マーサが思うように確かに小さな子供のようだ)
ウィリアムがしゅんとして落ち込む。どうしても食べたかったようだ。明日目いっぱい甘やかしてあげよう、と思う。
「ねぇ、じゃあ寝る前にちょっと本、読んでい?」
「…一時間だけですよ?」
マーサは子供に弱いがルドヴィクはウィリアムに弱いらしい。ルドヴィクは見つめてくる小さな生き物にあっさりと承諾を出してしまった。
「わぁい。やったぁ。ルイ大好き!」
(……ゔっ。)
軽く抱き着いてくるウィリアムの無邪気さにあてられ、鼓動が早くなる。
ウィリアムはというと、書見台に本を広げ、読み始めていた。
しばらくページをぺらぺらと捲る音だけが部屋に響く。その様子にルドヴィクは微笑み、自分も執務の仕事をすることにした。
◆◇◆◇
「ふぁぁふ……うにゅ」
「ふふっ。もう寝ましょうか」
ウィリアムがあくびをするとルドヴィクは近づき、優しく頭をなでる。
時刻はもう十一時。約束の一時間をはるかに過ぎ、二時間近くたってしまっていた。
「んひ」
ルドヴィクの腕にウィリアムが巻き付く。寝ぼけたような表情でルドヴィクに笑いかけていた。
「り、リアム様、ほら、ベッド行きましょ?」
「……さみしいから、一緒に寝て?一人で寝るの、怖い」
本当なのか嘘なのかわからない声で話しかけてくる。ルドヴィクは呆れたような表情でウィリアムに話しかけた。
「もう、ダメですよ。…手、握ってあげますから。」
「んふふ。ありがと。ぎゅーっ……すぅー」
ウィリアムがルドヴィクの手を握る。そして安心したのかそのまま眠ってしまった。
「リアム様?……はぁ」
ルドヴィクは眠ってしまったウィリアムの膝に腕を通し、抱き上げる。
小さなウィリアムは体重も軽く、それほど重くはない。
「おやすみなさい、リアム様」
暖かい掛け布団をウィリアムにかける。布団に下ろしてもルドヴィクの手を握ったまま話さない。
(……これは、違う。忠誠だから……)
――ちゅ
そして優しくウィリアムの額に唇を寄せる。
「大好きですよ」
それからルドヴィクはいつまでもいつまでもウィリアムの手を握ったまま愛しい主人の寝顔を見つめていた。