シンデレラが家を出ると、そこには魔法使いが困惑した様子で立っていました。「誰」
言葉をかけられた魔法使いは我に返って尋ねます。
「え、えっと……あなたがシンデレラ……?」
「あ?なんか私に用?」
「えっと……舞踏会に行きたいんじゃ……」
「舞踏会?そういえばあったね。でももういいかなー」
「えっ……」
予想外の返答に魔法使いは一瞬呆然としましたが、すぐに言葉を紡ぎました。
「その、それは私が困ります……」
魔法使いは毎日継母達に意地悪をされているシンデレラを哀れんで、彼女の前に姿を現したのです。何もせずに帰るわけにはいきません。
「何?私に行けって?」
「い、いえ!とんでもない……」
すっかり怯えきっている魔法使いに、シンデレラは言いました。
「まあいいよ。腹減ったから飯目当てで行くことにする」
「ご飯目当て……変わった子だなぁ……」
「あ?今なんて?」
「なっ、なんでもないです!」
これ以上彼女を不機嫌にしてはならないと、魔法使いは急いで杖を振り上げます。
「とりあえず、ビビデバビデブー!」
お得意の魔法で、シンデレラに綺麗なドレスを着せました。
「は?」
ところが、シンデレラは喜びません。それどころかさらに顔をしかめて言いました。
「ドレスじゃん。動きづらいからパス」
「えっ……こんなにうまくできたのに……」
「いやそんなの知らないし、もっと動きやすい格好にして」
「わっ、わかりました……ビビデバビデブー」
魔法使いは恐怖と悲しみで涙目になりながらも呪文を唱えました。
「ズボンか。楽でいいわ」
「よ、良かったです……」
「それじゃ行ってくるー」
シンデレラはその場から全速力で駆け出しました。
「えっ……馬車は……?」
その場に残された魔法使いはシンデレラの小さくなっていく背中をただ呆然と見ることしかできませんでした。
「やっぱズボンだと走りやすいなー」
シンデレラは軽い足取りで駆けていきます。それもそのはず。これまでずっと継母たちの命令で身体をたくさん動かしてきたのです。体力は人一倍にありました。
それ故にシンデレラは舞踏会が行われる城へ到着しても、全く息切れをしませんでした。
そして会場に入った瞬間、シンデレラは多くの人の視線を集めることとなりました。なぜならこの時代の女性はドレスやスカート、ワンピース等を着ているのが当たり前だったからです。そのため、女性であるにも関わらずズボン姿であるシンデレラに視線が集まるのは当然のことと言えました。
けれども当のシンデレラは周りの目など一切気にしません。
「さて……一応王子に挨拶だけするか。そんでその後は飯食おうっと。てか、王子って誰だよ」
シンデレラは辺りを見回してみますが、誰が王子なのか検討もつきません。
そこでシンデレラは声を張り上げました。
「出てこい王子!」
「はい、呼びましたか?お嬢さん」
そんな返事をしながらやって来たのは王冠を被った一人の男性でした。いかにも王子という格好をしていましたが、ほぼ箱入り娘状態だったシンデレラにはよくわかりませんでした。
「あんたが王子?」
「そうですよ――ってあれ、君……」
「私はシンデレラ。よろしくー」
「あ、はいよろしく……?」
「じゃ」
シンデレラは彼女の風貌を見て固まっている王子に構わずその場から離れようとしました。
けれども直後我に返った王子に呼び止められてしまいました。
「あ、ちょっと、君!待ってくれ!」
「あ?なんか用?」
そう言ったシンデレラは明らかに不機嫌な顔を王子に向けますが、彼の方は全くと言っていいほど気にしていないようでした。
「はい、聞きたいことがありまして……」
「あー……早くして。飯食いたいから」
「はい、すいません」
謝罪の言葉を発しつつも一切物怖じしない王子の様子に、シンデレラは内心驚いていました。
「それで、あの、君はどうしてそんな格好を?」
「あーこれ?動きやすいからだよ」
「それは確かに」
王子は初めて出会う性格のシンデレラに興味を抱き始めていました。一方シンデレラは食事のことしか頭にありません。
「もういい?私あんたに興味無いから」
「そ、そう言わずに!」
シンデレラを逃すまいと王子は必死の思いで彼女をダンスに誘います。
「僕、こういう女性を初めて見て、興味が湧いたのでぜひ一曲踊ってくれませんか?」
その言葉にシンデレラの心は初めて揺らぎました。
「……後で、飯奢ってくれんならいいけど」
「もちろんですとも!もしもの話ですが、結婚もするのであれば毎日たくさんのご馳走も食べれますよ」
「ふぅん、ならいいよ」
「本当ですか?!」
「ただし、自由が欲しい」
「もちろんですよ!自由なんていくらでも差し上げます!」
王子のあまりの必死さに、シンデレラは思わず吹き出しました。
「どっ、どうしました?」
「あんた面白いね。私と踊りたいなんて」
「ほ、本当ですか?なんか、気になって……」
「そう」
シンデレラは自ら手を差し出して言いました。
「ほら、踊るんだろ?」
「はい、よろしくお願いします」
王子が彼女の手をとった瞬間、まるでこの時を待ちわびていたかのように楽団の演奏が始まりました。
「上手ですね」
「小さい頃から教養はある方だから」
「そうでしたか。さぞかし素敵なご両親なのでしょうね」
「今はいないよ。一人ぼっちなんだ」
「それは失礼なことを。でも――」
「何?」
「いえ、なんでもありません」
一曲踊り終えたシンデレラは王子に尋ねます。
「ふう。こんなんでいい?」
「はい!踊ってくださり、ありがとうございました。一緒に一曲踊ってさらに興味が湧きました」
「へぇ、変わった奴だな本当に」
「それで、ぜひ、僕と結婚してくれませんか?」
「結婚かー」
シンデレラの返事は決まっていました。
「まあ、いいよ。自由さえ保証してくれれば」
「自由なんていくらでも与えますとも!結婚してくれるだけで嬉しいです」
「じゃあ今後ともよろしくー」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、王子とシンデレラは結婚し、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
コメント
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日本語が変になったところあったから、上手く修正してくれてて助かるw このグレデシラ、何回見ても見飽きない!!w チェンカの文のセンスと物語のカオスさが合体して更に面白くなってる!
口調はともかく元の童話より平和(((((お姉さん口縫われたけど