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「エリドの態度の悪さは知らなかったけど、わたくしたちは仲良くやってきたわよね?」
キオタス侯爵夫人がミュリム家のご令嬢に訴える。
「年に二回ほどでしたが、侯爵夫人とのお茶会はとても楽しいものでしたわ」
キオタス侯爵夫人は胸を撫で下ろす。
「うちの娘は学園のテストに手を抜いていたのですよ」
キオタス侯爵がビクリと肩を揺らす。キオタス侯爵夫人はそれを目敏く見つけた。
「貴方っ! 何かご存知ですの!?」
キオタス侯爵はプルプルと首を振る。
「娘は入学時、エリド殿よりも良い成績でした。それを知った侯爵になじられたのです」
「ななななんと?」
「『女が頭がいいなど小賢しい。三歩後ろに下がり夫に媚びていればよいのだ』と言われました。これからはエリド様より下の成績であれとのご命令も……」
令嬢は震えながら言った。キオタス侯爵夫人とは目を合わせたのに、侯爵のことは見ることもできないようだ。
これにはエリドも驚いている。
「この一年はエリド様が大変成績を落とされ、これ以上は無理だ考え致し方なくエリド様より順位を上にしてしまいました。
エリド様がわたくしのとのお茶会をずっとお断りしてくださいましたので、キオタス侯爵にお会いすることもなかったため、叱責を受けることはありませんでした。
もしお会いしていたらどんな叱責を受けるかと考えると怖くて」
「嘘でしょう……」
「キオタス侯爵家は夫人が手腕を発揮なさっていると評判ですよね」
ミュリム家当主は前を見れない娘の肩を抱いた。
「そうですわ。わたくしは幼い頃より勉学は得意でした。それを見初めてくださった前侯爵様が旦那様とわたくしの婚姻をお決めになりましたの。今では前侯爵様のご指導を受けたわたくしが取り仕切っております」
キオタス侯爵家の領地は数年前天災被害にあいその回復を図るため侯爵夫人はほとんど領地で過しており息子のことは夫に任せていた。
「大変素晴らしい領地経営だと聞いております」
「お褒めいただくほどのことではございません」
「そうですね。領主なら能力のあるなしに関わらず皆が努力していることです。女性だから素晴らしいわけではない」
「ええ。女だからと褒められたくはありません。だからこそ、お嬢様の聡明さはわたくしには嬉しかったのです。お嬢様の成績にまで気を配れず申し訳ありません」
令嬢は寂しそうに笑いかぶりを振った。
キオタス侯爵夫人が姿勢を正し直してキオタス侯爵を見やる。
「貴方のお気持ちを存じ上げず失礼いたしました。今後のことは改めて考えてさせていただきます」
「母上……」
母親の言葉に動けない父親を見たエリドは不安そうだ。
「大切なお嬢様を傷つけていたとは知らず、失礼いたしました。愚息の非礼も含め謝罪いたします」
キオタス侯爵夫人はしっかりと謝った。
「ここではなんですので、また後で」
「はい」
キオタス侯爵夫人は目を伏せて了承した。
「うちは! うちは何もないよなっ!?」
イエット公爵は公爵夫人の肩を揺らす。公爵夫人は目を合わそうともしない。
「我が娘が生意気だっただけですよ」
これまでの話の流れを読んだイエット公爵はその言葉を言葉通りには受け取らず顔を青くしてネヘイヤ家当主を見た。
「妻の実家は美術に詳しい家系でしてね」
「ああ。存じている」
「娘は勝手にそちらのお宅の美術品を鑑定してしまったようなのです」
ルワン家の令嬢が俯く。
「申し訳ございませんでした。気がついても指摘するべきではありませんでした……」
「何を指摘したのですか?」
イエット公爵は聞きたくはないが聞かなければいけないと覚悟する。
「何点かは模造品であると見受けられました」
「まったく。模造品とわかって飾られる方もいらっしゃるというのに、わざわざ指摘するなど。頬を張られても当然だ」
ネヘイヤ家当主は困り顔で娘を見る。
「は?」
イエット公爵とティスナーは目を見開き、公爵夫人は震えた。
「今何と?」
「ですから、模造品でも美しいものはあると」
「それではないっ! 頬を張られた……?」
「まあ、それは数回だけですよ。頬を赤くして帰って来たとメイドから報告がありまして、本人に確認したところ、模造品を指摘して以来マナーで叱られたとか褒め言葉が上手く出ず叱られたとか。
仕方がありませんよ。うちの娘が未熟で無知だからでしょう」
「ごめんなさい……」
ネヘイヤ家の令嬢は悲しげに俯く。
「そんなわけはないっ! 俺も何度かご令嬢にお会いしているが、幼いながらに立派だった」
「ですがっ! 公爵夫人になるのですからっ!」
イエット公爵夫人がつのる。
「ご令嬢はいくつだと思っておるのだっ! それならそれでネヘイヤ公爵家に家庭教師を打診すればいいだけだ。
それに彼女は公爵令嬢として評判も良かったではないかっ! ティスナーより余程公爵家の子女としての教養も矜持もお持ちではないかっ! 自分の息子を顧みてみろっ!」
イエット公爵は舞台の上の息子ティスナーを指さした。
「ですが……ですが……」
公爵夫人はまだ言い訳を言おうとイエット公爵の袖を掴んでいる。ティスナーは青い顔を覆うように両手を頬に当て呆然と立ちすくんでいた。