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「そんな……動物園より酷い…」
源田さんがそう言って遥香に腕組みをしたので、私は笑いそうになったのをうつむいて隠した。
うまいこと言い過ぎ……
「…今日出て行くのが……無理なのよ……」
「どうぞもう一泊、と言えるようなホテルではないので、申し訳ないね」
遥香の言葉に応えたのは、ゆっくりと現れたご主人様だった。
「自分の言葉には責任を持つ、ということを覚えた方がいいですね。さあ時間じゃないですか?見送りに来たのですが?」
「お疲れ様でございます。間もなくトラックが出発します」
ご主人様に頭を下げた運転手さんの言葉を、彼女たちは分かっているのだろうか?
「あの……遥香様たちは、トラックとは別移動になると……分かっています?大丈夫ですか?」
「真奈美さん、そこまで親切に言わなくても一般常識の範囲内ですから。さあ、業者さんにも挨拶してこよう」
「私も行きます。配達員さんへ、心付けを用意しましたので」
ご主人様に続いて動く篤久様は、私に第一家事室のドアを開けて行ってくれた。
運転手さんは一歩下がって、遥香たちを見張っているようにも見える。
私は
「では、さようなら」
二人にそう言うと、救急箱を片付けるために後ろを向いた。
「待ってっ、まって、マッテ、真奈美っ!」
悲愴感と絶望感を含んだ声が私の背中に当たり、私は顔だけ振り向く。
「……あの……真奈美ならどうする?」
顎先から汗を滴らせた遥香が、私を窺うように言う。
「何のことですか?」
「あの……真奈美が今の私なら……どうする?」
「私はアナタと違って、高卒で人に使われるだけの底辺の人間ですから、アナタになんかなれないし絶対になりたくない。今のアナタならなんて、考えたくもないです」
自分の言ったことが丸々返ってきたと、さすがに気づいた遥香は唇を噛んで震え始めた。
「そんな言い方…」
「アナタの娘が私に言ったこと、そのまんまですけど?アナタの娘は、人にお願いをする時には土下座しろって言った上に、土下座した者の頭にワインをかけるような人です」
「そうでしたね、見ましたよ…奴隷家政婦のアカウント。あなた方が真奈美さんに何か教えて欲しいなら、同じように乞えば教えてもらえるのでは?」
運転手さん……二人が死んだ魚の目になりましたけど?
え……するの……?
「川辺さん、ワイン用意しましょうか?開けて持ってくるわよ?2本?」
えぇ……?
廊下の向こうから、広瀬さんの声がする。
「いえ……清掃が大変なのでやめておきます」
って……広瀬さんが買ったワインじゃないのに、2本って……
そう思う間に、私も前に遥香親子が膝をついた……膝をついただけだけど……手もついたな……
「真奈美ならどうするか……どうするのが一番いいか教えて欲しい……」
「お願いしま……す……」
「…お願いっ……ボロボロの家で水もないとか、ネットも使えないとか無理だからっ!」
そうよね……私も遥香にはネット環境の整ったところにいて欲しいのよ。
誹謗中傷が届くところ、華やかなセレブが目に入るところにいて欲しい。
「私ならとりあえず、マンスリーマンションかウィークリーマンションに入居しますね。家具付きで、即日ライフラインは使えますから。お二人ではあの荷物が入らないかもしれないから一部屋ずつ借りないといけないかも。貸倉庫を借りるほどの荷物ではないですし……二部屋借りるのが現実的だと思います」
「なるほど……ママ、そうするわよ」
「そうね…」
「すみませーん。出発してもよろしいでしょうか?」
「あ、行き先を……」
引っ越し業者さんの声に二人が立ち上がると
「お礼のひとつも言えない親子……見ていて恥ずかしいですね。あ、今さらは必要ありませんよ」
運転手さんの言葉の途中にソワソワした遥香たちだけれど、何も期待していないから大丈夫……それよりもこれからだもの。
「行き先、分かります?」
私が聞くとブンブンと首を横に振る二人を追い越して、私は引っ越し業者さんに聞いた。
「行き先なんですけれど、貴社が斡旋しておられるとか提携しておられるマンスリーマンションかウィークリーマンションがあれば、そちらに変更したいとのことですが、いかがでしょうか?」
コメント
6件
厚顔無恥もここまでくればいっそ天晴🤣 誰もいない僻地に行っても地獄、 衆人環視の都会は更に地獄!!って、理解してるのかな〰
運転手さんと中瀬さんノリノリじゃーんꉂꉂ🤣𐤔𐤔日頃の恨み晴らしてやる状態🤣🤣 篤志様も塩対応😂やっと出て行ってくれるとせいせいしてるのに、きちんと出てきて業者さん達にご挨拶をする。さすか中園建設工業社長様でいらっしゃる✨ 温厚そうな方こそプチンと切れたら1番怖いよね! 真奈美ちゃん、源田達にはもうこれ以上は…ここでやめとこう☺️潮時だと思うよ。
誰も住んで無い?曰く付きのマンションなら空いてるかもね