確かに、言われてみればナオに似ている気がする……って、そうか、この人が本人なんだ。
「って、え? 何でナオがこんな所に居るの!? っていうかナオって女装趣味があったの!?」
「ちげーし!」
正直、何が何だか分からない。
何故、人気バンドのボーカルが私の目の前に居るのか。
そして、女装しているのは何故なのか。
突っ込みどころがあり過ぎてついていけない。
それに、極めつけは次の言葉――。
「実は俺、暫くバンドから離れたくて事務所にもメンバーにも黙って出てきたんだ」
「えぇ――!?」
色々驚かされてきたが、これが今日一番の驚きだった。
つまり彼の話を纏めると、バンドから暫く離れたくて事務所や仲間に内緒で行方をくらませて、唯一頼れるのが知り合いの芝田さんだったものの、その芝田さんはアメリカへ行ってしまって他に行く宛のない彼は私の部屋で暫く厄介になろうとしていると。
「その、事務所にもメンバーにも内緒ってことは、今頃――」
「騒ぎになってるだろーな」
私の質問を先読みし言葉を被せた彼は、おもむろにテレビのリモコンを手に取ると電源ボタンを押してチャンネルを回し始める。
「ほらな、やっぱり」
そして、あるニュースを見て何故か誇らしげにそう口にした。
そのニュースの内容は……言わなくても分かると思うけど一応。『人気ロックバンド、久遠-クオン-のボーカル、ナオが失踪!!』という内容だった。
「あの、こんなことして大丈夫なんですか?」
「さあ?」
「さあって……やっぱり良くないですよ。それに、あなたが男となると流石に……」
私が何を口にするか分かっていた彼は、ぐっと身体を近づけ、
「何? 約束、破るわけ?」
まるで脅しともとれる態度で迫ってくる。
「だ、だって、仮にも私たち、男と女ですよ? 付き合ってもいない男女がひとつ屋根の下なんて……!」
「そんなモン気にしなきゃ平気だって」
能天気というか何というか……そんなこと全然問題じゃないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「気にします!」
「何で? ……ないと思ってたけど……もしかしてお前、彼氏いるの?」
信じられないと言った表情で聞いてきた上に、とてつもなく失礼なことを言ってくる。
「なっ! ないと思ってたって失礼なっ! そりゃ、いないですけど、それが何か?」
彼氏なんてここ最近いたことないけど、それにしても初めからいないと思うなんて、失礼極まりない。
「じゃあ、いいじゃん」
ニッと、まるで悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべながらそんなこと言うとか、私は馬鹿にされているのだろうか。
「良くないです! 大体こんなの、詐欺じゃない……」
いくら人気ロックバンドのボーカルだからって、何をやってもいいなんて法はない。
私がナオの熱狂的なファンだったら泣いて喜ぶほど嬉しいんだろうけど、本当に興味ないから全く喜べないし、寧ろ面倒ごとに巻き込まれることが確定している未来しかなくて、非常に迷惑だ。
いつまでも首を縦に振らない私に彼は、
「あっそ。そんなに言うならもういいわ。俺がのたれ死んだらお前のせいだからな。化けて出てやる」
冗談か本気か分からないけど、恨めしそうな目付きでそんなことを言ってくる。