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数年前の約束を、彼は覚えているだろうか。
小さな図書館に飾ってあった笹に掛けた、2人分の短冊。
「まいとしここで、ぜったいあおう!」
「……うん」
小指同士を絡め約束をした7月7日。
──その次の年、そんな約束はまるで最初からなかったみたいに7月7日は来なかった。
次の年も、次の次の年も、次の次の次の年も。あいつは顔を見せなかった。見せなかった、と言うより見せれるはずもないのだ。
今となってはあいつの所在も香りも姿も、声も。どこに行っても探しても絶対に見つけられない。手のひらに残った冷たく、まるで焼け跡のような肌の感触だけ。
あの日、あいつはこの図書館に来る前だった。手には赤い短冊、表面には歪なひらがなで書かれた「ずっといっしょにいれますように」と言う文字。まだ習いたての歪んだひらがなだけど、ところどころ気持ちを表すように筆圧の強い箇所が見えた。
ぎゅうっと握られていてくしゃくしゃで折り目なんかもついてそれがまるで、まるで、必死に生きようとしていた証拠みたいで。
「子供が轢かれたぞ!!」
「きゅ、救急車!救急車呼んで!」
「警察も…おいお前!さっさと車から降りろよ!!! 」
怒鳴り声と叫び声、色んな声で騒がしい交差点。
数分前に子供携帯にかかってきていた「ちょっとだけおくれちゃう、ごめんね」と言う声を聞いて迎えに行ったのに。
── その電話口の声が頭の中で反響する。
あたまがいたい。なにがあったの、なんであいつはまっかなの、なんで、なんで、なんで?
上下する胸が弱々しい。
目の前の黒と白の横断歩道に広がる、赤い花びらの花園
「ぁ、あ、……どうしたんだよ、なあ、どうした ──」
「っ…こ、子供は見ちゃダメだ!下がって!」
「や、やだ、おれ、あいつ、あいつおれのだちなんだよ!!!」
はなれたくない。あいつ、苦しそうだもん。おれが傍に行って「どうした?」って言ってやんなきゃいけないのに。絆創膏あげて「痛いの痛いの飛んでけ」って撫でてやんないといけねぇのに。
「( だいすき )」