テラーノベル
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待機室のスピーカーが、次の出撃を知らせる音を鳴らした。
恒は、ひろの腕からそっと身体を起こす。
まだ少しぼんやりしているけれど、目の焦点は戻っていた。
ひろは、何も言わずに恒のギアを手渡す。
恒は、受け取りながら小さくうなずく。
「……戻ってきた?」
ひろの声は、静かで、問いというより確認だった。
恒は、ギアのバックルを締めながら答える。
「うん。たぶん。」
「無理しないで。」
「ひろがいるなら、だいぶ楽。」
ひろは、少しだけ笑った。
その笑顔は、恒の中に静かに染み込んでいく。
ふたりは、並んで立つ。
恒は、自然にひろの左側に立つ。
それは、もう言葉にする必要のない位置だった。
「干潮ステージ。霧、出るかも。」
「見えにくいときは、俺が前出る。」
「……じゃあ、私は後ろから見てる。」
「見ててくれるなら、安心。」
出撃のカウントが始まる。
ふたりは、静かに呼吸を合わせる。
恒の手は、まだ少しだけ震えていた。
でも、ひろの気配が左にあるだけで、
その震えは、少しずつ落ち着いていく。
ステージの扉が開く。
霧が、ゆっくりと広がっていく。
ふたりは、言葉を交わさずに前へ進む。
その足音は、静かで、確かだった。
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