コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
初めてヴィオラとテオドールが散歩した翌る日から、2人の距離は妙に近くなったと、デラは感じた。
相変わらず、テオドールはヴィオラを揶揄って遊んでいるようだが、ヴィオラは愉しそうにしている。以前までのヴィオラなら、頬を膨らませて、拗ねたり怒ったりしていたのに。
物理的にも、精神的にも距離が近い。
「ヴィオラ、ゆっくりで大丈夫だからね」
テオドールはヴィオラを抱き上げると、ベッドから床の上に降ろした。無論1人では立てるはずはない。テオドールに掴まり震える足で何とか床の上に立つ事が出来る。
歩く訓練を始めた頃は、主にニクラス主導の元、訓練を進めていた。
だが、最近ではテオドールが直接ヴィオラに手を貸し、ニクラスは側で見守っている。
ニクラスからの話では、精神的なものが大切との事で、自分が手を貸すよりテオドールが手を貸す方が歩けるようになる確率が高いとの事だ。
デラは医師ではないので、その辺りの話は分からないが、昔からよくいう、病は気からという事だろうか。
何れにしても、歩けるようになるならどんな方法でも構わない。ただ、もしヴィオラが本当に訓練を得て、歩けるようになれば自分は必要とされなくなってしまう気がして、そこは複雑な想いではある。
◆◆◆
「テオドール、様……」
「大丈夫だよ、僕が支えてるから。足を動かして?」
テオドールに支えて貰いヴィオラは震える足を前にゆっくりと、1歩出す。
後、ちょっと……。
そして、時間をかけてようやく1歩進む事が出来た。
「あ……出来た」
「本当だ」
「テオドール様!今、私、歩きましたよね⁈」
「あぁ、歩けたね」
「私!歩けました‼︎」
ヴィオラはたった1歩だが歩く事が出来た。その事に歓喜して思わずはしゃいでしまう。
今はテオドールに支えて貰った状態で歩く事が出来た。だが、自分の努力次第で歩けるようになると、希望が見えた瞬間だった。
「テオドール様‼︎」
ヴィオラは嬉しくてテオドールに抱き付き喜んだ。テオドールのお陰だ。彼がいたから、こうしてたった1歩だが歩く事が出来た。これなら、きっと自分1人で歩ける日が来る筈。
「テオドール様、私頑張ります!頑張って、1人でも歩けるようになります!だから、これからも、私を支えてくれますか?」
テオドールはその言葉に、顔を背けた。デラは驚いた顔をし、ニクラスは吹き出しそうになっている。
「ヴィ、ヴィオラ、それはそのままの意味、だよね?」
テオドールは、顔を背けながらそう聞いてきた。その顔は赤くなり、かなり動揺している事が見て取れる。
「へ……は、はい。そうですが、何かおかしかったですか?」
おかしいと言うよりは、捉え方を履き違えれば、結婚の申し出とも受け取れる発言だ。だが、ヴィオラはよく分かっていない様子で、首を傾げている。ヴィオラは本当にそのままの意味で言ったに過ぎない。
訓練をする上で、テオドールに身体を支えるのをお願いしただけだ。
「いや……やっぱり、そうだよね。ハハッ……だよね」
一瞬でも、もしかしたら……なんて思ってしまった自分が情けないやら、虚しいやらとテオドールは肩を落とした。