ヴィオラが、1歩、歩けた日から半月。ヴィオラは周囲が驚く程、上達した。まだまだ、よたよたはしているが、1人で立つ事は出来ている。
「ヴィオラ嬢は、凄いですね。上達が早い」
「確かに早いね……」
これまで全く歩けなかった人には、到底見えない。
「テオドール様、手をお貸し頂いても宜しいですか?」
ヴィオラがテオドールに声を掛けると、テオドールは歩いて行って、手を差し出す。
「仰せのままに、お姫様?」
「もう、テオドール様!ふざけないで下さい」
テオドールの軽口にヴィオラは恥ずかしいのか、顔を背ける。だが差し出された手は確りと握った。
「テオドール様、ちゃんと支えていて下さいね?私を、離さないでください」
上目遣いでそう言うヴィオラの可愛さに、テオドールは頭がくらくらしてくる。これは、反則だ……と思う。
「大丈夫、絶対に君を離したりしないよ」
テオドールは、ぎゅっとヴィオラの手をキツく握り返すと笑った。
千里の道も一歩から、ヴィオラは1歩、また1歩と毎日訓練を続けていった。
そんな懸命に頑張るヴィオラをテオドールは側に付き添い、支えた。そんな日々が更にひと月余り続き……。
「テオドール様!おはようございます」
いつもの様に、朝方テオドールはヴィオラの滞在する屋敷を訪れた時だった。
門を潜り、屋敷までの僅かな道を歩いていた。すると朝から自分を呼ぶ愛らしい声が聞こえ、声の方向へと視線を遣る。
「ヴィオラ……君」
ヴィオラは、1人庭に立っていた。朝日を浴び、銀の髪色が美しく輝いている。まるで、天使でも舞い降りて来た様な……それ程美しい光景だった。
魅了され動けずにいるテオドールの元へ、ゆっくりと歩いてくるヴィオラの顔は、自信に満ちていた。これまで、部屋から出る事も叶わず、1人では何一つ出来なかったヴィオラが、今は確りと1人で立ち、歩いている。
「おはようございます、テオドール様」
もう1度、ヴィオラから挨拶をされたテオドールは、我に返った。
「おはよう、ヴィオラ。……そして、おめでとう」
おめでとう、という言葉は違う気もしたがテオドールは思わずそんな風に口にしてしまった。
「ありがとうございます!」
ヴィオラの喜ぶ姿に笑みが溢れるが、一抹の寂しさも感じた。それは。
「これで、準備は整ったね」
ヴィオラの望み通り、彼女はレナードの元へと会いに行く。ヴィオラはレナードに会いたい一心で今日まで必死に朝から晩まで頑張ったのだ。レナードの為に。分かっていた。分かっていたが……。
「はい!」
お役御免だな。
テオドールは自嘲気味に笑った。テオドールは、嬉しそうに笑うヴィオラの頭を優しく撫でた。以前ならこんな事をしたら、怒って頬を膨らませていた。だが、今は恥ずかしそうに頬を染めて笑ってくれる。
彼女との距離は近くなった筈なのに、遠くなった気がした。
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