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デヴィール国の城へと迎えられたエリーゼは、まずその城の外装を見上げて驚く。床も壁も全てが黒色が基調で、まさに魔王の城と言うべき禍々しさがある。
「驚いた……前世と同じなのね。あの頃の魔国に来たみたい」
「そうだ、懐かしいだろう。魔国を再現したからな」
アゼルが隣で誇らしげな顔をするが、エリーゼは彼の意図が恐ろしく感じる。前世と同じ国を再現してエリーゼを取り込もうとしている事は確実。この城を見るだけで前世の記憶が呼び起こされてしまう。アゼルを溺愛して生きた前世の記憶が今のエリーゼに干渉してくる。
二人並んで城門を通りエントランスを通り抜けると、アゼルがエリーゼの手を握って先導する。その仕草だけでも呪いに縛られたエリーゼの恋心は刺激されて震えてしまう。
「腹減ってるだろ、まずはメシだ。このまま食堂に行くぞ」
時刻は昼過ぎなので空腹なのは当然だが、それだけではない。アゼルはエリーゼを見て思う事があった。
そうして連れて行かれた食堂は、やはり壁も床もテーブルすらも漆黒。全ては金髪碧眼のエリーゼを引き立てるための色なのかと思うほどに彼女だけが浮いている。
大きな四角いテーブルに向かい合って座ると、執事が食事を運んできた。豪華な料理がテーブルの上に並べられると、部屋の色などは気にならなくなってしまった。
「すごく美味しい! こんなに柔らかいお肉は初めて!」
一心不乱にステーキを口に運ぶエリーゼだが、正面に座るアゼルはそんな彼女を見て笑ってはいない。
エリーゼは公爵令嬢なのでステーキで感激するのは不自然に思える。それに、フォークやナイフの使い方などの礼儀作法も知らないようであった。ただフォークに肉を突き刺しているだけで上品とは言えない。
「エリーゼは家でステーキ肉を食べた事がないのか」
「え? あ……あんまり、ないかも……」
急にエリーゼの声が沈んで食事の手を止めてしまった。その細い手首を見てアゼルは眉をしかめる。
「そうか。あの家では虐待されていたのだな」
「虐待ってほどじゃないけど……」
アゼルは馬車の中でエリーゼの体を抱いた時に気付いていた。エリーゼの体は極端に痩せ細っていて顔色も良くない。積もる話はあるが、それよりも先に食事にしたのはエリーゼへの気遣いであった。
「貴様の実家はセイクリッド国のフェーリス公爵家だったな」
「そうよ」
次の瞬間、アゼルの赤い瞳が鈍い光を放つ。テーブルに片肘をついて悪魔のような微笑みを浮かべる。
「よし。ならばセイクリッド国を潰す」
「ふぅん……って、はぁ!?」
食事中だというのに、エリーゼは勢いよく立ち上がってしまった。そして両手を突いて前のめりになる。
「あんた本気!? だって平和協定を結ぶという条件で私は……!」
「エリーゼを虐待した家など国ごと潰す」
(こいつ……本気でヤバい!!)
転生しても魔王は魔王。アゼルは理屈ではなく愛と感情で動く男であった。どの道、アゼルは前世と同じように世界征服に乗り出すだろう。
「まぁ落ち着け、エリーゼ。オレを愛してるなら座れ」
「あ、あんたなんか愛してないけど座るわよ……!」
ちゃっかり誘導するアゼルと、ツンデレ全開のエリーゼであった。とにかく、この男を暴走させてはまずいと思って話題を変える。
「えっと……あんたは完全に前世の記憶があるのよね?」
「あぁ。しかし記憶だけだ。残念な事に転生した今のオレは魔力を持たないただの人間だ」
「へぇ……」
それは今世で聖女の能力を持たないエリーゼも同じであった。そう考えるとアゼルもエリーゼと同じで、能力が覚醒していないだけの可能性もある。
しかし魔力を持たなくても、アゼルは最強の軍事力を持つデヴィール国の王。武力で世界征服は可能だから恐ろしい事に変わりはない。
「実は、私も……」
「ん? なんだ?」
「……いえ、なんでもない」
エリーゼは言いかけた言葉を飲み込んで心を悟られないようにする。今の自分には聖女の能力がないと知られてしまえば、平和協定も政略結婚も無意味になる。
それよりも聖女の能力が目当てであるアゼルに捨てられる事の方が怖かった。溺愛の呪いは強気なエリーゼを臆病にさせる。
アゼルはワイングラスを片手に持つとエリーゼの前に掲げてみせる。そのグラスの中ではアゼルの瞳と同じ色の赤ワインが揺れている。
「オレとエリーゼの運命の再会、そして結婚を祝して乾杯だ」
「祝う気分じゃないんだけど」
そう言いながらもエリーゼはワイングラスを手に持つ。そして二人のグラスがカチンと音を立てて触れ合う。
そうしてエリーゼは赤ワインを口に含むが、大した量を飲んでいないのに喉が熱くなってきた。次第にそれは胸の熱さとなり、意識までもが熱に浮かされて朦朧としてくる。
(しまった……何か……変な薬を盛られた……?)
油断した事を薄れていく意識の中で悔やむが、もう遅い。エリーゼはテーブルに突っ伏して完全に意識を手放してしまった。