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#溺愛
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「あの女のことだ。このままいけば、寝ている間に彼女に何をするか分かったもんじゃない」
アレクが、苛立ちを隠せずに吐き捨てた。彼の周囲では、物理的な殺気が黒い靄となって渦巻いている。
アレクとレオンの脳裏には、全く同じ「最悪な未来」がフルカラー4K画質で繰り広げられていた。
【以下、アレクとレオンの妄想】
深夜、女子寮・最上階。月明かりがカーテンの隙間から差し込む、静まり返った部屋。
バイオレッタは、ネグリジェ姿でベッドに横たわり、無防備な寝息を立てている。その枕元に、音もなく忍び寄る影。フローラだ。
彼女は眠るバイオレッタの顔のすぐ隣に身を寄せ、月の光に照らされたその美しい横顔を、じっと、見つめる。
フローラの手が、バイオレッタの長い茶色の髪を、指先で愛おしそうに、撫でた。
やがて、彼女は音を立てずに布団の中に滑り込むと、バイオレッタの背中にぴったりと体を寄せた。フローラは、バイオレッタの首筋に顔を埋め、その匂いを深く吸い込む。
そしてフローラは、バイオレッタの耳元でこう囁くのだ。
「お姉さま……愛しています。お姉さまのすべて――寝顔も、寝息も、温もりも、そして心も……その全部が欲しいですっ♡」
バイオレッタは、眠りながらもその囁きに応えるように、フローラをぎゅーっと抱きしめる。
「ふふ。フローラは……やっぱり可愛いわ……。ずっと、一緒にいましょうね……」
フローラの頭を愛おしそうになでるバイオレッタ。その瞬間、フローラは男たちへの勝利の笑みを浮かべるのだ。
「ええ、ずっと。一生、離しませんわ。愛しています、ビビお姉さま……♡」
【妄想終了:二人の精神的ダメージは最大値】
(……あり得る。)
アレクは額に青筋を浮かべながら思った。レオンの表情にも余裕はない。
(いや、普通にあり得るでしょ、それ……っ!)
二人は我に返ると同時に、周囲の空気を物理的に凍りつかせるほどの殺気を放った。その濃度は、もはや魔力を持たない一般人なら、視線が合っただけで気絶しかねないレベルだ。
二人は無言で深く頷き合った。この瞬間、最強の「光」と「闇」が、一つの目的のために手を取り合ったのだ。
「急ぐぞ」
「うん」
「……レオン。その無駄に目立つ手の光魔法をしまえ。見つかるだろ」
「はいはい。甲冑のガチャガチャ音を殺すのに、消音魔法を無理やり使ってる人に言われたくないなぁ」
カチッ。
レオンが光魔法を細い針のように変形させ、窓の鍵を器用にこじ開けた。
「よし、窓が開い――」
その瞬間。室内から『巨大なマンドラゴラ』の蔦が、音速を超えたスピードで飛び出した。
「――ッ!? 」
「うわっ! 」
バルコニーは一瞬にして、巨大食虫植物が蠢く「密林(ジャングル)」へ変貌した。アレクは蔦にぐるぐる巻きにされて柵から逆さ吊りになり、レオンは食虫植物の巨大な粘液まみれの口に半分飲み込まれかけ、窓ガラスに白目を剥いてベチャリと貼り付いた。
「これ……っ、僕たちを食べようとしようとしてない!?」
「……今、焼き切る……っ!」
***
「……あら? 窓の外で何か、大きな音が?」
部屋でハーブティーを飲んでいた私は、カップを置いて耳を澄ませた。
「ええっ? お姉さま本当ですかっ?」
部屋の奥から、白いパジャマに水色のカーディガンを羽織ったフローラが、不安そうに顔を出した。彼女は怯えたように私の腕に縋り付く。
「お姉さまーっ! それ、もしかして不審者かもしれないです! 寮にときどき変態が出るって、私、上級生から聞いたんです! とっても、とっても怖いですぅーーっ!!」
「なんですって……っ!?」
私は、椅子を引いて立ち上がった。窓を勢いよく開けると、そこには無惨な姿のアレクとレオンがいた。 彼らは蔦を焼き切るために魔法を放った直後のようで、髪はボサボサ、煤にまみれてボロボロだ。
「……あなたたち、夜中に人の部屋のバルコニーで一体何をやっているのかしら?」
「……これはセキュリティチェックだ」
「そうそう、僕たち、防犯パトロールのボランティアをしていて……あはは……」
私は、彼らに氷のような視線を浴びせた。深夜の冷気よりも冷たいその視線に、二人の言い訳は虚しく霧散していく。
「さっさと出ていって! フローラが怖がってるじゃないの! いくら可愛い彼女が見たいからって、夜中に壁をよじ登るなんて、王族と公爵の品位が聞いて呆れますわ!!」
バタン!!
私は、窓をピシャリと閉め、鍵を二重にかけた。
***
窓が閉まる、その瞬間。 バイオレッタには絶対に見えない死角。
フローラは、外で呆然とするアレクとレオンに向かって、これ以上ないほど「お下品で、最高にキュートなあっかんべー」を披露した。
そして、声に出さず、唇の動きだけで言葉を浴びせる。
(――べーっだ! お姉さまの隣は、一生私の指定席だもん。負け犬さんは、お外で指をくわえててください♡)