テラーノベル
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1. 転生進化論
この世には色々な哲学者とか教授だとかが唱えた様々な説がある
そんな中でこの世界中でもっとも広く知られ、信じられている説がある
それが『転生進化論』
簡単に言うとこれは、その生命を失い生まれ変わることでその生よりも上位の存在になれるという ものだ
内容は…どうだったかな
あぁ、そうだ、こんな感じ
『 生きとし生けるもの達は皆、1つの細胞から始まった
その生を終えることで次は植物として生を受けた
その次にこの世界においての知能の低い生物たち
そして今、我々は人間として生きている』
提唱者は誰だったか、正直、俺は知らない
けれど、この話は知っていた
俺の両親がそれを信じていたから
そういう人は、多くいると思う
実際「飼い猫が亡くなったあとに産んだ子供がその猫の記憶を持っていた」とか「実は犬だった頃の記憶がある」とか
そんな話、数えだしたらキリがないほどに溢れかえっている
だからこそ信じられてきたし、世界中に広まったのだ
…けど、俺はこれをよく思わない
だって、これのせいで、多くの人々が命を自ら捨てたから
2.今日もまた、生命が昇る
俺が高校生の時、仲の良かった友達がいた
名前は…そうだ、ゾム
ダメだな、いくら数年前の話でも友達の名前くらい覚えないと
あの時は、楽しかったな
今ある現実から目を背け、そんな楽しかった過去に沈む
それはそれは、よく晴れた日のこと
「おっす大先生、全然学校来てへんけど、どうしたんや?
てか、未成年やろタバコやめぇや」
そんな心配するような声をかけてきたのはいつもフードを目深に被っている1人の青年─ゾムだ
「…ゾム」
見たらわかることをわざわざ声に出して自身に落とし込む
タバコを地面に落とす…勝手に消えてくれるだろう
今、もっとも感じている疑問はわざと言わなかった
「…ちょっとな、疲れてん」
そう、疲れたんだ
下から舞い上がる様々な声がまるで俺を呼んでいるようだった
「そうか、別にええんやけどさ1人やと暇やねんけど」
相手もまた、言いたいこと、聞きたいことなんかいっぱいあるだろうにそれを聞きはしなかった
…きっと、分かっているから
ゾムが俺の近くに来て柵を掴む
そのまま空を見上げて彼はなんでもないように言う
「快晴やな、死んだとしたら神にでもなれそうや」
彼は冗談で言っているのだろう
実際、口元は笑っている
けれど、俺にはとても魅力的な提案に聞こえた
「…なぁ、ゾム」
ゾムとは反対に人々が渡り歩く下を見る
まるで、神にでもなったようだ
「もし、死んでさ、生まれ変わって神になれたら」
声が震える
言わなくてもいいだろうに、何故か口が言葉を紡ぐ
「…俺は、解放されるんかな」
どこからともなく風が吹く
まるで、引き止めているようで
それでいて、背中を押しているようで
この時は、救いがそれしかないように感じた
「…」
ゾムは何も言わない
言わないまま、柵を跨いで俺の隣に座った
「…大先生は、神になりたいん?」
目が合う
ほぼほぼ同じ高さにある黄緑の瞳は俺の真意を問うていた
「違うやろ?大先生がなりたい、やりたいのは」
分かっている
全部、分かっているんだ
ここに座っていながら、自分に死ぬ勇気がないことなんて
ここに座ってたら、ゾムが来てくれるって
疑問に思ってるフリをして、声に出さなかったのは全部、知っているから
「…せやなぁ」
こんな、醜い世界に生きたくない
だからこそ、変えるために俺は…
「…いつもごめんな、ゾム」
「これくらい、どうともないわ」
お互いに軽く笑いあって、そこからはいつもの話をした
学校ではこんなことがあったとか
最近、暑いとか
面白いやつが転校してきたとか
ゲームのランクの話とか
そんな、他愛もない話だった
…あぁ、ここからだ、この日、この時変わってしまった
日も傾いて、世界がオレンジに染まり始める頃
そろそろ帰ろうかと、2人で柵を越えた
「あ、ちょっと待ってスマホ」
どうやらポケットから落ちたようでゾムの座っていた場所の隣に黄緑のスマホがあった
再びゾムが柵を越えた時
屋上の扉の開く音がした
反射的にそちらを見ると、明らかに様子の可笑しい女がいた
その女は目を素早く彷徨わせ、ピタリと止まる
その先には、ゾムがいた
嫌な予感がして、女とゾムの直線上に立つ
チラリとゾムの様子を伺うと、女の生気の無さにビビったのかスマホを両手で持ったまま 動けないでいた
女の方に目を戻した時、目の前にソイツはいた
「なっ」
いくら女でも、大人だ
ずっと引きこもっていた俺は敵う訳もなくそのまま横に突き飛ばされた
そんな女の様子が俺の親と重なる
思い出したくもない、嫌な記憶
…この感じは、ダメだ、止めないと
分かっているのに、全部、分かっているのに!
「っゾム!はよそこから離れろ!」
距離が離れていて、俺は何も出来ない
ただ、叫ぶことしか
ゾムは慌てたように柵を越えようとするが、もう女が目の前だ
…ダメだ、頼む
予想が外れることを祈る
そんな祈りなんて通るはずもないのに
何やらゾムは手を動かして抵抗している様だが思いっきり突き放していない
それは、自分が落ちる可能性と女が落ちる可能性を考慮してだろうか
女はゾムごとそのまま地上へ落ちた
まるでスローモーションのように時間が流れる
ゾムの目が大きく見開かれるのが見えた
手を伸ばしてるのが見えた
手を伸ばしてみるけれど、距離があって届くわけもなかった
…女が笑っているのが見えた
…結局、あのまま2人とも亡くなった
あの場にはゾムのスマホだけが残っていた
そのスマホは俺が震える手で回収した
視界はぐちゃぐちゃで下を見たけれど赤と地面の色そして赤を囲うようにしてある様々な色が見えた
もう、見ていたくなくてそのまま走って帰ったのを覚えている
翌日、どうにかして警察に聞き出した話によると女の遺書らしきものがあったらしい
その一部を教えて貰えた
今でも、覚えている
『もう、生きているのが辛い、死にたい、死んで、アイツらよりも上になりたい
でも、ひとりで死ぬのは怖い
だから、誰か、誰でもいい、誰でも』
こういった話はよくある
俺の親は俺ごと心中しようとしたし、聞いた話だと恋人と一緒に死んだ人もいるらしい
この転生進化論は、多くの人々が死という行為に希望を持つきっかけとなった
…来世どころか1秒先の未来も分からないこの世界でそんな不確定なことをするのは何故だろう
俺もそれに縋っていたはずなのに、過去の自分ですらもう他人事のようにしか思えなかった
目の前のマンションで誰かが首を吊っている
…あぁ、今日もまた、生命が昇る
3.天からの祝福
屋上の柵に手をつき、紫煙を燻らせる
後ろから足音が聞こえる
「…昼間からこんなとこで何してんすか」
ゾムとは違い、そんな疑問を彼は零した
「ん〜、タバコ休憩」
タバコを落とすようなことはせず、手に持ったまま応対する
「そういう、ショッピは?」
「俺もタバコっすね」
そう言って彼は横に並んだ
その横顔はあの時から随分と大人らしくなったと思う
あの日、ゾムの言っていた転校生はゾムが死んだ数日後に突然俺の家に押しかけてきた
なんで知ってんの?
なにしにきた?
そんな疑問はあったけれど、ゾムの名前を出されすぐに開けた記憶は今でも鮮明だ
あの時は、本当にただただ生きているだけだった
何回も死んでしまおうと思ったし、ゾムが来る訳でもないのに彼処に行って死のうとした
死ぬ勇気もない癖に
扉を開けた先、彼はいた
目元は泣いたのか赤く少し腫れていて、それでも尚前を見ている彼が少し羨ましかった
そんなこんなで、彼─ショッピが来た理由はゾムからの伝言であった
なんで、そんなものがと思ったけれど何も言う気にはなれず差し出されたスマホを手に取った
画面にはゾムとショッピのトーク履歴が映っていた
遡って見てみると 所々にある遊びの約束
その中で断ることのなかったゾムが1度だけ断っている
それを最後に交わしたようだ
『今週の日曜日、遊びませんか?
ゾム:ごめん、行かなあかんとこがあるから
そうですか…俺も行っていいですか?
ゾム:いや、今回は俺だけの方がええと思う
そっすか
ゾム:またいつかショッピにも紹介するわ
…もしかして、それってゾムさんがよく話してる?
ゾム:そう、大先生!
仲良いんすね
ゾム:まぁ、せやねんけど…そうや!
どうしました?
ゾム:あんな、伝えて欲しいことがあんねんけど
…もしかして、大先生という方に?
ゾム:そう、文面にするのはあれやし明日学校で
分かりました』
最後まで見終わって、顔を上げる
目が合うと、彼は少し間をおいて話し始めた
「…次の日、ゾムさんといつものように過ごして、帰りの時に全部教えてもらいました」
全部というのは俺の事も含まれていた
その中で、俺が1番知りたかった所以外は正直、曖昧にしか覚えていないが
「それで、ゾムさん、は」
先程までゆっくりと、けれど途切れることのなかった話が詰まった
なんとなく察した
あぁ、ここから話すのは俺も知らないことなんだ
本来なら、何か声をかけるべきだろう
でも、言葉は出なかった
何かを噛み殺したような表情をしてから努めて平静を呼び彼は言葉を紡ぐ
「ゾムさんは、病気、だったらしいです
ずっと薬を飲んでいて、それでも、それは延命にし、かならないらしく」
所々詰まりながら彼は紡ぐ
言葉を紡いで必死に俺に伝えてくる
知らなかった
彼が病気?
しかも、延命とか、つまりそれは…
「…その中で、彼は本音を言ってくれました
こんな世界で、不治の病は天からの祝福とされている
それが気持ち悪かったって」
あぁ、そうだ、彼は嫌いだった
だからこそ、来世というものは信じていなかった
今を精一杯生きていた
だからあの時、死のうとしている俺に笑いながらあんなことを言ったんだ
これから死ぬ自分を嘲笑っていたんだ
「…そっか」
今日初めて出した声は多分、震えていた
それでも彼は笑ったりせずそのまま紡ぐ
「それで、あなたに、大先生に遺言として…」
そこまで言って、彼の瞳からゆっくりと透明な雫が滑り落ちた
きっと、改めて理解してしまったんだ
何処までも透き通ったそれはまるで宝物のようで
「…ゆっくりでええよ、 いっぱい泣きや」
彼のための言葉を出す
それでも彼は首を振った
「いえ、すみません
今泣かないためにいっぱい泣いたのに」
後半は小さかったけれど、それでも聞こえた
でも、聞こえなかったフリをして緩く微笑む
…表情筋を動かしたのは、あの日以来か
「強いんやな、よおやってるわ」
知っている、誰よりも優しかった彼もまたよく泣いていた
だから、こういう時はどうすべきか、俺は知っている
首を振りながらも、否定の言葉は出さず、そのままゆっくりと呼吸している
…もう、大丈夫だろう
「…すみません」
「ええで」
言葉を交わす
今思えば、これが彼と初めてちゃんと交わした言葉だ
「…それで、遺言なんですけど
『先にいってるから、2人で会いに来てな、きっと大先生ならできるから』と」
この言葉は、きっと俺にしか伝わらない
…いや、目の前の彼と俺以外に伝わることはない
「…やってやりましょう」
「そうやな」
ここからだ
きっと、やってみせるから
だから、だから
それまでは、バイバイ
外は晴れているというのに雨が降っている
雫はキラキラと光を反射し、誰かを祝っているようだった
4.人外通り
横顔を見ていると思いっきり顔を歪められた
「何そんなに見てきてんすか」
そんな言葉を吐いて、またタバコに口をつける
ん〜、と曖昧な返しだけして俺はそのまま無視した
そんな俺を見てショッピもそれ以上は何も言ってこなかった
…こんな関係になるのに時間はかからなかったなぁ
過去に思いを馳せることが増えたからかそんなどうでもいいことを考えた
「そういえば、進捗どうっすか」
ついでとばかりに聞いてくるのだから少しタチが悪いと思う
せっかくのタバコガ不味くなる
「まぁ、6割?」
「そっすか、全然か」
ほんと、関係が深まったもんだよ
無理やりタバコを剥ぎ取られそのまま屋内に引きずられた
パソコンを弄り、画面を表示する
そこに映っているのはどこの国にも属さない土地の情報
「く、国というには狭いけどこことかええと思うねん」
汗をダラダラ流しながら全くのゼロではないと説明する
説明の甲斐あってか納得してくれたようでショッピが画面を覗き込んだ
「…たしかに、元々誰も持ってへん所の方が楽やな」
どうやら選択はあっていたらしい
助かったと思い、そういえばと口にする
「実はやねんけど今日下見行くからな」
「えっ」
おっと雰囲気が…
やべぇなこれ、やらかした
「…『今 』言ってくれてあざす」
「アッハイ」
…あぁ、これはご機嫌取りもせなな
はい、そんなこんなで紆余曲折ありながらもたどり着きました、ここ!
それぞれの国からの呼ばれ方は違うが使う用途は一緒らしい
そう、ここは掃き溜めだ
ここには様々な理由で迫害された人々が集まっている
「見た目が違う」「考え方が違う」「必要がない」
そういった者が集まる
だからこそ、味方に引き込みやすいと考えた
「はえー、思ったよりも発展してるやん」
そんなことを言ったのはショッピである
声は少しウッキウキでこれから何をされるのかと戦々恐々である
「…あまり好き勝手せんといてや」
諦めながらももしかしたらという希望にかけて声をかける
まぁ、そこはちゃんと常識のある人間ショッピちゃんと言うことを…
「あっ、すみません、これください」
「ホンマに、頼む!」
完全に遊んでやがるコイツ…
しかし、主導権がアチラにある以上俺は何も出来ない
「なんや、見ん顔やな」
突然後ろから声をかけられた
振り返るとホームレスのような風貌の男とどうやら声をかけてきたらしい小綺麗な男がいた
「…えぇ、まあ」
はっきりとは答えずに曖昧に返事をする
スっと顔を確認していると不思議なものを見つけた
…きのこ?
「…なんや?ジロジロ見てきて」
「あいや、すみません!そんなつもりじゃ」
ホームレスみたいな男…長いから赤い男のニット帽についたきのこを見ていると訝しげに眉を顰められた
慌てて謝罪して、頭を下げる
気を悪くした訳ではなさそうだが、逆に怪しまれただろうか
「大先生〜、て誰この人ら」
「ショッピ!」
助けが来たと、勢いよく振り返る
そこには何か大きな鳩を頭に乗せたショッピがいて思わず吹き出した
「!?wwwなんやショッピその鳩w」
「可愛ええやろ」
頭に鳩を乗せたままショッピが真顔でポーズを取る
そして鳩もまたポーズを取るように羽を広げた
その様子にますます面白くなって余計に笑ってしまう
「いやぁ、うちの者がすみません」
笑って喋れない俺の代わりにショッピが対応しに行った
「いや、別にええんやけど…」
そう言って、2人は顔を見合せ再びこちらを見た
ようやく笑いも収まって話が進む
そう、思っていた
「…なんで頭にきのこ付けとるん?いじょ」
勢いよくショッピの口を塞ぐ
さすがにショッピのテンションが上がりすぎだ
「えぇ?あの?」
赤い男じゃない方が困惑して声を上げる
赤い男も少し困惑した様子だ
「いや、ほんとすみません!叱っとくんで!」
「いや、大丈夫やで」
あぁ、優しい
別に優しくもなかったけどオカンってこんな感じなんやろな…
「オカン…」
「誰がオカンや」
思わず声に出ていたようで赤い男にツッコまれた
まぁ、ともかく
ショッピの口から手を離し自己紹介をする
「お騒がせしました、私鬱と申します
大先生や鬱先生と呼ばれています」
俺の様子を見てショッピも俺の横に並んで挨拶を始める
「ショッピです」
短いがまぁこれが本来のショッピだ
先程までがバグっていたのだそうに違いない
俺ら2人の自己紹介を受け、相手2人も自己紹介を始めた
「エーミールです、みんなにはエミさん呼ばれとる敬語はいらんで」
「トントンや、エミさんの言う通り敬語はいらん」
赤じゃない方の男がエーミール
赤い男がトントンと言うらしい
…よし、覚えた!
「…それで、ここにはなんの用や? 」
エーミールと名乗った男が改めてというように聞いてきた
なんと答えるかショッピと目を合わせて考えているとトントンと名乗った男が先に口を開いた
「まず、ここがどんなとこか知らんやろ」
そんな言葉に首を傾げる
ちゃんと調べたし分かっているつもりだ
「あぁ、なるほど確かに」
納得したような反応のエーミールに何やら嫌な予感がする
思わず軽く後退りした
そんな様子を気にせず彼は言った
「ここは『人外通り』
人間と人ならざるものが過ごす町や」
5.人間と人外
人ならざるもの即ち、人外
本当に、そんなものが存在していたのか
逃げ出したいという本能に逆らってその場に留まる
ショッピの方を見ると汗を流しながらも好戦的な笑みを浮かべていた
「…2人は『転生進化論』知ってる?」
今必要なのは交渉だ
まだ、敵じゃない味方でもない
だからこそ、話し合わなければならない
「俺は知らんな、エミさんは?」
「俺は知っとるな、 あれやろ?
転生したら今の生よりも上位の存在に生まれるってやつ」
トントンは知らないようだったが、もう1人の方が知っていた
良かったと思い、話を進めようとして
「これな、俺あんま好きちゃうねん」
という言葉に遮られた
なら、話は早いだろ
「なぜ、好きじゃないん?」
俺が離そうとする前にショッピが話を振った
再び何も言えずに閉口する
「えぇ、やってこれって死ぬ事を勧めてるってことやで?
それにこれを言い出したんもどっかの軍やし」
「「え、そうなん?」」
ショッピとハモる
こんな、どこの国の誰もが知っている説が
そんな訳ないと思うのに、どこか納得する
「ほら、考えてみいや
君ら死ぬのは嫌やろ?でも死んだら来世でより上位の存在として生まれ変われる
そんな希望があるだけで死という恐怖は薄れる
だから、自身の国の軍人にそして軍人から人々にそこからどんどん広がったんや」
そうか、そう、だったのか
実際、死に希望を見出し死ぬ者は決して少なくなかった
死が来世へと向けられた
…そんな、どこの国とも分からん都合のせいで
悔しい
けれど、その時自分は何も出来なかった
できる力が無かった
「…実は俺ら、」
何も言わない俺の代わりにショッピが事情を話してくれている
ショッピだって悲しいだろうに、悔しいだろうに
「…事情は分かった俺はぜひ協力したい」
エーミールが力強く頷いた
久方ぶりにできた仲間に素直に嬉しく思う
「…せやな、けどその前に」
トントンも協力してくれそうだが、何かあったろうか
ズンズンとこちらに近づいてきて、目の前で立ち止まった
思い切り息を吸い込んだかと思うと
「おい、鬱!」
と胸倉を掴まれながら思いきり叫ばれた
「確かにお前の親友が死んだんは悲しいと思う、悔しいと思う、けどな」
更に胸倉をトントン側に引っ張りもう一度叫ぶ
「だからって、ソイツのことを想って足踏みしとったらそれこそソイツに失礼やろがい!」
その少し考えれば辿り着く言葉に思わず目を見開く
そんな様子を見もせず、トントンは俺のことを投げ飛ばした
「やるなら、まずそいつがどうとか、周りがどうとかやなくて」
また近づいてくるトントンを見上げる
その顔には様々な感情が浮かんでいた
「お前がどうしたいか考えろや!
なんでそうしたいと思ったん、キッカケはなんやねん!」
そう言われ、親の顔が浮かぶ
俺は、俺は!
「…そんな、真偽もわからん話に踊らされた親を見て、これ以上犠牲者を出したくなかったから」
色々と迷子になっていたらしい
なにも、完璧に出来るわけがない
かと言って、犠牲を増やせと言われている訳でもないんだ
「…やったら今届く奴らを守れよ、ショッピを守ったれよ
ソイツが今1番求めとるんはそれとちゃうんか!」
トントンがショッピを指差す
見ると、ショッピは色々複雑そうな顔をしていて、それでも悲しみや悔しさが滲み出ていた
「…すまん、目ぇ覚めたわ」
これは、俺が望んだから始まった物語
だったら、俺が好きなようにして物語を閉じよう
「…ええで、俺も協力する」
そう言って、トントンはニット帽についたきのこから触手をこちらに伸ばしてきた
それを掴むと思いっきり引っ張られその勢いで立ち上がる
目を合わせて、決意を固める
「俺が協力するんや
なんで人外が迫害されとるか教えたるわ」
目の奥には確かな狂気が宿っている
「人間なんかより、俺たちの方が強いからや」
これは、人間と人外が送るこの世界へのちょっとした反抗の物語
「…さぁ、始めようや」
これは、彼を弔うための宣戦布告だ
「この町から、世界中へささやかなプレゼントや 」
…あぁ、時間がかかるなぁ
ごめん、もうしばらくだけ待っていて
空はすっかり晴れ渡っていて、夜空に星が瞬いていた
??.黄色いたまと黄緑のたま
カランカランと、BARの開く音がする
「いらっしゃいませ」
今日のBARの担当は俺とショッピ
客は全然来なくて、2人で駄弁っていた所だった
入ってきた男は正に野球をしてきたという服装だが、汚れがないためただ着ているだけだと分かる
「シャオロンさんやん、何にする?」
タバコを吸いながらショッピが対応する
それに対して特に嫌な顔はしなかったが目が細められたのが見えた
「じゃあ、マスターいつものってある?」
予想通りのビールだが、たまには別のも飲めよ
そんなことを頭で考えながらビールを準備する
「あるで」
1人分のジョッキを用意して注いでいく
トクトクと注がれる黄色いシュワシュワは見ていて綺麗だ
「じゃあ、それ2つで」
持っていこうとして、引っ込む
…2つ?誰か連れでも来るのだろうか
そんな疑問を持ちながらももう1つ用意して注いでいく
綺麗に泡を作る技術にも慣れてきたな
注ぎ終わった2つを持っていく
「お待たせしました、ビール2つです」
そう言って前に2つ置くと彼の顔がよく見えた
何かを面白がるようにとてもニヤニヤしている
「…何か?」
「いや、ちょっとな」
勿体ぶったように、言葉を止めて、そして開く
「いつも頑張っているマスターにちょっとしたサプライズを
タバコを消すことをおすすめするで」
カランカランと扉の開く音がする
そちらを見れば、黄色いたまと黄緑のたま…?
「えっと…」
何も分からず困惑する
よく見れば黄緑のたまに黒い穴が3つあったし、黄緑のたまの上に乗ってる黄色いたまほ手足のようなものと顔が付いている…黄色の方、絶対野球ボールやろ
「いやな、たまたまそこであった寂しがり屋を引っ張ってきたんや」
中に入ってきたことでよりはっきりと分かる
たまの方に目がいったが、その下にはモコモコとしたコートがあった
袖の先には手袋が、下にはブーツがある
そう、ある
全ての物がその場に浮いているような感じ
その見た目から人外であることが確定した
全くもって知らないはずの彼を俺は、俺たちは何故か知っている
あぁ、わかるよ、分かっている
「…遅いわ、待ちくたびれたからこっちから来てもうたわ」
「…すまんな、ゾム」
せっかくまた彼の元気な姿が見れたというのに視界がぼやけていく
それでも、これだけは言わないと
ショッピの方を見る
距離が近いからまだはっきりと見えるこれもまた目を潤ませていた
一緒に頷いてから一斉に
「「おかえり」」
「…ただいま!」
これは、この世界への反抗の物語
でも、帰ってきたゾムの姿を見て『転生進化論』はあながち間違ってなかったのかも、なんて
これは、彼が帰って来るまでの物語
きっとまだ続くこの物語は俺らだけのものだ
はい、如何だったでしょうか?
すみません、長編書いてんのに短編書いて
なんかさ、設定が舞い降りてきてん、しゃーない
初めに思いついたのは『転生進化論』で、そこから派生し今回の物語となっています
この物語の設定についての質問は受け付けてます
矛盾とかがあったらごめんな
次会う時は、別の物語で
#mzyb
#切ない
コメント
3件
うわぁ…めっちゃ重くて、でも最後にめちゃくちゃ温かい気持ちになったよ😭💕 「転生進化論」っていう設定がもう切なくて、死にたいって思う人たちに希望を与えちゃってるのがリアルで怖かった…。 でもゾムの遺言「2人で会いに来てな」が、最後の「おかえり」「ただいま」で全部報われた気がした🥺✨ ショッピとの関係も、人外の町も、仲間が増えていくのも、全部ゾムに会うための伏線だったんだね…。 ペテンさん、第1話でもう胸がいっぱいです。続きが気になるけど、この余韻も大事にしたい…🌸