コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「藤澤君てさ、不思議だよね。」
「そう、なんか不思議。」
学生時代からずっと言われ続けてきた。
「何と喋ってるの?」
これも、よく言われた。
人には見えない何かが見えている。
それに気付いたのは、もっと昔。
「だって、そこにいるじゃん。羽の生えた女の子。」
「うわっ、キモっ。」
幼かった自分が傷つくには、十分な言葉だった。
他の人には見えない、何ならその存在も信じてもらえない。
それが分かってから、見えることを話すのは止めた。
「あなたはきっと、人より純粋なのね。」
そんな僕を否定せず、育ててくれた親には感謝してる。
今日も僕の足元に、昔の記憶と変わらずにいるフェルと共に。
「フェル、僕ね、音楽の道に行く事に決めたよ。」
『そうか、ここから遠いのか?』
「うん、この家を出て、違う所で住むようになるかな。フェルはどうする?」
聞くまでもない質問を、フェルに向かって問いかける。
『お前のいる所が、我のいる所だ。』
昔のように頬のあたりを鼻先で突かれて、思わず笑う。
「だはっ、くすぐったいよ、フェル。」
ここは自分の部屋だから、何をしてても誰も変な目では見ない。
でも、もう僕に見えるのはこのフェルと、たまにやって来るユニコーンと、たまに姿を見せる日本の神の眷属たちだけ。
ユニコーンって男嫌いじゃなかったっけ?とも思うんだけど。
「きっとね、住む所狭いから窮屈だけど、頑張るね。」
フェルを撫でながら、呟く。
自分で決めた道、自分で信じた道。
だから…
「頑張ろうね、フェル…。」
怒涛の日々が始まった。
バイト、事務所、ライブハウス巡り…。
でも、どこもしっくり来なくて。
それでも!と今日も予定のライブを見に行こうとした時だった。
『これを見に行け。』
フェルが口を挟むのは珍しい。
「これ?」
無名の小さなバンド。やるのも小さなライブハウス。
「分かった、行ってみるね。」
フェルの好みなのかなぁ…なんて思いつつ、その小さなライブハウスへ向かう。
よかった、ちょうど始まるとこだ。
ギターがキュインと鳴って、ボーカルの口が開く。
その瞬間の衝撃を、僕は一生忘れない。
この声に出逢うために、この道を選んだんだ。
そう思えた。
あの外見の年齢からしたらびっくりするくらい努力してる、ギター。
オリジナルであろうその曲は、しっかり完成してて。
「いいなぁ…こんなバンドでやりたいなぁ…。」
気がついたら周りなんか気にせず、自分も手を上げてた。
足元のフェルのことも忘れて。
ライブの余韻も抜けないまま、ドアにあるチラシのバンド名を検索する。
「…同じ事務所じゃん。」
それだけ、覚えて。
「いけね、バイト遅刻しちゃう。」
バタバタと走り出した。