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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第十三話 少しずつ、近く
それから数日。
二人は、相変わらず夜になるとサイトで話していた。
特別なことがあるわけじゃない。
むしろ、何もない日の方が多かった。
『今日、授業中寝そうだった』
『寝た?』
『寝てない』
『ほんと?』
『たぶん』
『それ寝てるじゃん(笑)』
そんな会話をして、笑う。
いつからか、
二人にとって「話すこと」は
目的じゃなくなっていた。
何を話すかより、誰と話すか。
それだけで十分だった。
その夜も、しばらく話したあと、
『そういえば』
と相手から届いた。
『なに?』
『前に言ってたじゃん』
『何を?』
『本当の名前』
彼女は少しだけ画面を見つめた。
まだ覚えていたらしい。
『覚えてたんだ』
『忘れないって言ったじゃん』
『そうだった』
『会った日に教えるって約束したし』
『うん』
少し間が空いた。
『なんか緊張するね』
『名前教えるだけなのに?』
『それが一番緊張するかも』
彼女は笑った。
今までなら、ネット上の名前で呼び合えばよかった。
それで困ることなんてなかった。
でも、本当の名前を知ったら。
今までとは少し違う関係になる気がする。
『じゃあさ』
彼女が送る。
『ん?』
『もし名前知ったあとも、今みたいに話してくれる?』
返事はすぐに来なかった。
少しして、
『当たり前じゃん』
と届いた。
その一言に、胸の奥が少しだけ軽くなった。
『ならよかった』
『なんでそんなこと聞くの?』
『なんとなく』
『またそれ(笑)』
『便利なんだよ』
『便利じゃない(笑)』
二人で笑った。
その後、会う日の話になった。
待ち合わせ場所。
時間。
当日、何を目印にするか。
『服装どうする?』
『それ聞く?』
『だって分からないじゃん』
『確かに』
『じゃあ、当日まで秘密』
『それ一番困るやつ(笑)』
『会えば分かる』
『まあね』
少しずつ、具体的になっていく。
今まで画面の中だけだった関係が、
現実の予定に変わっていく。
そのことが、楽しみでもあり、少し怖くもあった。
でも二人とも、その不安を深く話すことはなかった。
ただ、
『楽しみだね』
『うん』
それだけで十分だった。
しばらくして、相手から一通届いた。
『ねえ』
『なに?』
『会ったらさ』
『うん』
『最初になんて言えばいいと思う?』
彼女は少し考えた。
『普通に「こんにちは」でいいんじゃない?』
『それは他人すぎる(笑)』
『じゃあ何?』
『分かんない』
『考えてなかったの?』
『今考えてる』
『遅い(笑)』
しばらく二人で考えた。
結局、答えは出なかった。
『そのときになったら何とかなるよ』
彼女が送る。
『そうだね』
『今までだって何とかなってきたし』
『うん』
画面の向こうで、
相手も同じように笑っている気がした。
そして、いつものように「おやすみ」を送る。
サイトを閉じる。
彼女はスマートフォンを置いた。
会う日は、もう遠くない。
でも、今はまだこの時間が好きだった。
顔を知らないまま。
声を知らないまま。
それでも、誰よりも近く感じる。
そんな不思議な関係が、
少しずつ形を変え始めていた。
コメント
4件
そうなんです! どんどん予定が鮮明になってきてますよね! なら良かったですー!
読み終えたよ〜!第13話「少しずつ、近く」、めっちゃ良かった…! 「何を話すかより、誰と話すか」ってフレーズ、心に刺さったわ。顔も声も知らないまま、それでも誰より近く感じるって感覚、すごく繊細に描かれてて、読んでてこっちまで温かい気持ちになった。 本当の名前を教えるって約束も、会う日の具体的な予定も、全部が「少しずつ近づいてる」感じが伝わってきて、この距離感の描き方、めちゃくちゃ好き。次の展開が楽しみすぎる🔥