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「…………」
「特に馬車だよ。一目で高価だと分かるような装飾は避けた方がいい。王太子妃候補を乗せる以上、粗末なものを用意するつもりはないけど、旅をするなら目立ちすぎない方が――」
「嫌よ」
「ダフネ嬢」
「嫌ったら嫌!」
せっかく王太子妃として嫁ぐのに、どうして地味な馬車などに乗らなくてはいけないのか。
「私が乗る馬車なのよ? だったら、誰が見たって特別な人が乗っているって分かるものじゃないと嫌だわ」
「だから、それが危ないって言ってるんだ」
「護衛を増やせばいいじゃない!」
「そういう問題じゃ――」
「それに、どうせなら金の装飾も入れてほしいわ。窓枠も普通のものじゃ嫌。中だって広くして、長旅でも疲れないようにしてちょうだい。座席も一番いいものを使って――」
「ちょっと待って」
ウィリアムがとうとう片手を上げた。
「さっきから聞いていれば、どんどん話が大きくなってるよ」
「だって必要だもの」
「必要じゃないものまで混ざってる」
「私には必要なの!」
「ダフネ嬢。これは王都でのお披露目じゃないんだ。マーロケリーまでの長旅なんだよ」
「分かってるわよ!」
「だったら――」
さらに言い募ろうとして、ダフネはふいに声を落とした。
「……分かっちゃった」
そこで言葉を切り、じっとウィリアムを見る。
どうしてこの男が先ほどから反対ばかりするのか、ようやく分かった気がした。
「そういうことなのね」
「……何が?」
「私にお金を使うのが惜しいんでしょう?」
「は?」
ウィリアムが呆気に取られた顔をしたのを見て、『図星を突かれたに違いない』とダフネは確信する。
「さっきから、あれは駄目、これは必要ないってそればっかりじゃない! 私が侯爵令嬢だから仕方なくここに置いているだけで、本当は私のためにお金なんて使いたくないんでしょう!?」
「いや、俺が言ってるのは金の話じゃなくて――」
そもそもダフネの生活費全般を出しているのは自分ではないと説明されて、ダフネはフンッと鼻を鳴らす。
「だったら、あなたが反対するのはお門違いじゃない!?」
「え?」
「お養父さまに聞いて! 娘の嫁入りに恥ずかしくないものを用意してほしいって!」
きっとランディリック・グラハム・ライオールなら分かってくれる。
そう言外に含ませて、ダフネは勢いよくソファから立ち上がった。
「つべこべ言わずにお養父さまに話してくれれば済むだけの話よ!」
「ランディが許すと?」
「当たり前じゃない! 娘の嫁入り支度なんだから反対するはずがないわ!」
それは侯爵家としての沽券にも関わるはずだから。
「俺は……ランディも反対すると思うけどな……」
「だったら全部伝えてみたらいいわ! ドレスも宝石も嫁入り道具も、馬車も、私が望んだものを全部用意してほしいって! きっとウィリアムさまとは違う見解になると思うけどね!」
ウィリアムはさらに何か言おうと口を開きかけた。けれど、ダフネはそれすら許さなかった。
「もし――」
胸の前で腕を組み、ツンと顎を上げる。
「お養父さままで私にお金を使うのが惜しいって言うのなら、この話は無しよ!」
「……ダフネ嬢?」
「アレクト王太子殿下からのお話だろうが何だろうが、知ったことじゃないわ! ほかの令嬢を立てればいいじゃない!」
自分に拒否権などないと、つい先ほど聞かされたばかりだったことなど、もう頭から抜け落ちていた。
「そんな扱いで敵国へ嫁げなんて、絶対にお断りなんだから!」
言いたいことだけ言い切ると、ダフネは勢いよく踵を返す。
「ちゃんとお養父さまに伝えてよね!」
そう念を押し、返事も待たずに客間を出た。
扉を閉めてもなお、腹立たしさは収まらない。
けれど――。
(お養父さまなら、分かってくださるわよね)
曲がりなりにも自分は、ランディリック・グラハム・ライオール辺境伯の養女なのだから。
侯爵令嬢として相応しいものを欲しいと言って、何が悪いのだ。
ましてや、これから王太子妃になろうというのに。
#ハッピーエンド
高瀬船
885
#溺愛
星キラリ

6,282
#異類婚姻譚
和泉
420
そう自分へ言い聞かせながら廊下を歩いていくダフネは、知る由もなかった。
遠くヴァン・エルダール城でその要求を聞かされた養父が、どんな反応を見せるのかを――。
コメント
2件
ランディ、どんな反応するのー!?
キャッ!!ダフネさん完全にヒートアップしちゃってるやん😭 馬車の装飾から始まって「金使うの惜しいんでしょ!」ってウィリアムに食ってかかるところ、自分に拒否権ないの忘れて我が道行く感じ、もうダフネ節全開で笑ったけど最後の「養父さまなら分かってくれる」が超不安フラグすぎる、、、ランディリックの反応待ち遠しすぎるよ!!🏃♀️💨