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第ー章 光と影のゆりかご
1話 新しい朝と見慣れた日常
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次の日。
まどろみの中で最初に耳に届くのは、隣のベッドから聞こえる大きな寝息だ。
(タッちゃん、今日もうるさいな……)
ゆっくり目を開けると、朝日が窓から差し込んでいて、部屋を柔らかい光で満たしていた。
その光の中、タカシの寝顔からは金色の光が、もくもくと立ち上っている。
僕はそっとベッドを降りて洗面所へ向かう。鏡に映る自分の顔は少しぼんやりしていて、思わずため息が漏れた。
冷たい水を手ですくい、頬を叩くように洗うと、背後からいつもの声が響く。
「おっはよー、アキちゃん!」
「ん、おはよ……タッちゃん」
タカシはニヤニヤしながら僕の隣に立つと、勢いよく僕の背中を叩いた。
「今日の朝メシなんだろなー?俺はパンケーキ希望!」
「そんなの、まだ分かんないでしょ」
タカシの周りには朝の光に負けないくらい鮮やかな金色が渦巻いていて、思わず目を細めた。
(タッちゃんの光は、いつも元気だな)
食堂はいつも通りにぎやかだった。
みんな好き勝手に話しながら食べていて、僕とタカシは隣合って席に着いた。
「ちょ、タッちゃん、それ僕の分!」
「いいじゃん、アキちゃんは小さいから、これくらい俺が食ってやるって!」
「だめだってば!返してよ!」
僕が必死に皿を引っ張ると、ガタン!という大きな音とすぐ近くから冷たい声が飛ぶ。
「ちょっと、うるさいんだけど」
音の方をむくと、そこにはリオナが腕を組んでこちらを睨んでいた。
その周りには赤黒い光がピリピリと立ち上っていて、見るだけで胸がざわつく。
「はあ?なんだよブス女、文句ばっか言うなよ!」
「は?誰がブスだっての。あんたこそ黙れよ、十円ハゲ」
タカシとリオナの光がぶつかり合って、火花みたいに散っていた。
(まただ……)
「二人とも、ケンカやめよ……?」
僕の声はかき消されるみたいに小さくて、二人はお互いににらみ合ったまま。
その空気は食堂全体を逆に賑やかにしてくれた、周りの子たちもいつものようにくすくすと笑いながら2人を見ている。
午前中は聖典の読解と歴史の授業。
歴史と言ってもほぼ同じ内容を淡々と続けているだけで学ぶ要素も何も無い 。
先生は
「えぇ、かつて人類は創造主『クリエイト・オリジン』の真意を理解せず、『邪の子』を処刑し、世界を分断しました。その結果、大地は荒廃し、絶望と呼ばれる負の感情が世界を覆うことになったのです。皆さんここはとても重要なのでしっかり頭に入れておくように。」
そういい昨日と同じ内容をまた学ばせてきた。
(またこの話だ……)
ノートを開いたまま、視線は窓の外へ。
空はどこまでも青いのに、世界は「絶望」に覆われてるっていう。
(神さまなんて……)
ふと、昨日の夜のことを思い出す。
特別教室の前で見た、黒く深い霧。
それはどの感情の光とも違っていて、冷たく、重くて。
(あれも絶望なのかな……でも、 どこかで見たことがある……でも思い出せない)
授業が終わったあとの午後はほとんど自由時間。
タカシはニヤニヤしながら僕の方へ寄ってくる。
「なあ、アキちゃん!外で鬼ごっこやろーぜ!」
「え、やだよ……部屋にいる」
「つまんねーやつだなぁ、ほら来いって!」
タカシの金色の光が勢いよく伸びて、僕の手を引っ張る。
「やだってばー!」
必死に抵抗する僕を、タカシは笑いながら引きずっていった。
ふとグラウンドを見ると、グラウンドの隅では、リオナが一人で木に水をやっていた。
黒の手袋をはめた手から、淡い灰色の光がゆらゆらと漏れている。
(そういえば、リンちゃんっていっつも一人でいる気が……)
前に、彼女が世話していた花が翌日には枯れていたのを思い出す。
その時の彼女の光は、あの黒い霧と同じように重く深かった。
(でも……そんなはずない)
「あれ、アキトくんだ!」
優しい声と共に近づいてくるのはこの施設で1番の人気者の女の子エリカちゃんだ。
あまりエリカちゃんとは会わないけど久しぶりに会った気がする。
僕はすぐにタカシの手を振り払いエリカちゃんの所に行った。
「あ、えっと、エリカちゃん…やっほ、」
「やっほ!アキトくん!今日もタカシくんに連れてかれてたんだ。仲良いね2人とも」
「いや、別に、そ、そこまで……えへへ」
エリカちゃんと会うと何故か胸が暖かくなる。でもエリカちゃんと話せる時間は長くなかった。
廊下の奥の方で別の女の子がエリカちゃんを呼ぶと共にエリカちゃんもそれに応えてすぐにどこか行こうとした。
「あ、アキトくん。ちゃんとご飯食べなよ?いっつもパンばっか食べてたらいつか身長抜かしちゃうぞ?」そういい僕のおでこに指で優しく押しながら友達の元へと走っていった
(あ、エリカちゃんに……。でももう少し居たかったな。まぁ、人気者だし…話せただけいいかも)
そう思い後ろを向いたらそこに居たはずのタカシは居らず気づいたらもうグラウンドに出て遊んでいた。
夜。
タカシはベッドで大きないびきをかいていて、金色の光は小さく穏やかに揺れていた。
その横で、僕はスケッチブックを開いた。
今日のタカシの笑顔。リオナの水をやる横顔。みんなの楽しそうなとこ。 クレヨンを滑らせて、光の色を再現する。
描くたびに、少しだけ心が軽くなる。
でも、ページをめくった瞬間、ふと昔のことを思い出した。
胸がぎゅっと締め付けられる。
両親の怒鳴り声、泣き顔。
そして、真っ黒な闇に覆われた
なにか…
慌ててスケッチブックを閉じた。
鉛みたいな重さが胸を沈める。
(あれは……違う。違うんだ。僕のせいじゃない…。)
布団を深く被って、ぎゅっと目を閉じる。
「明日は……今日みたいに、ちゃんと笑える日になりますように」