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第六章
初陣①
― 四神の試練 ―
「初陣」
「世界を護る……巫女?」
煉華は神父の言葉を繰り返した。
あまりにも現実離れした話に、頭が追いつかない。
「待ってください……」
詞葉が恐る恐る手を挙げる。
「私たちは普通の高校生です……。急に世界を護れと言われても……」
その言葉に、蒼紫と琥珀も静かに頷いた。
「当然の反応です」
神父は穏やかな笑みを崩さず答える。
「ですが皆さまが授かった神器は、四神様が認めた者にしか扱えません」
四人は改めて、それぞれの武器へ視線を落とした。
「神器には神力が宿っています」
神父は静かに続ける。
「その力は皆さまを護り、導いてくださるでしょう」
一拍置き、表情が少しだけ曇る。
「ですが……神力には代償があります」
神殿に静寂が流れた。
「代償……?」
煉華が小さく呟く。
「神力を使い続ければ、皆さまは少しずつ五感の一つを失っていきます」
その一言に、四人は息を呑んだ。
「えっ……?」
琥珀の表情から笑顔が消える。
「そんな……」
詞葉は錫杖を抱き締めた。
蒼紫も言葉を失い、静かに俯く。
「それでも皆さまには、世界を護る使命があります」
神父がそう告げた――その瞬間だった。
ドォンッ!!
神殿全体が激しく揺れた。
「きゃっ!」
「な、何!?」
天井から砂埃が舞い落ちる。
続いて、獣のような咆哮が神殿中へ響き渡った。
「グルルルル……!!」
神殿の入口が激しく砕け散る。
その向こうから、黒い霧を纏った異形の魔獣たちが次々と姿を現した。
赤く光る瞳。
鋭い牙。
人を喰らうためだけに生まれたような禍々しい姿。
「魔獣……!」
羅刹の表情が初めて険しくなる。
「結界が破られたのですか……!」
十体……二十体……。
魔獣は次々と神殿へ雪崩れ込んでくる。
「み、みんな……!」
詞葉が震える声を上げる。
その時だった。
煉華の心へ、誰かの声が静かに響く。
『恐れるな』
蒼紫には、
『風を信じよ』
琥珀には、
『迷わず前へ』
詞葉には、
『護るのだ』
姿は見えない。
それでも、不思議と温かく力強い声だった。
「今の……誰?」
四人が同時に呟く。
しかし答える者はいない。
魔獣たちは、もう目の前まで迫っていた。
第六章
初陣②
― 四神の試練 ―
魔獣は一斉に四人へ襲い掛かった。
「来るっ!」
煉華は反射的に太刀の柄を握る。
(どうしよう……戦い方なんて分からない……!)
そう思った次の瞬間だった。
身体がひとりでに動き出す。
「えっ……!?」
太刀が鞘から抜き放たれ、流れるような一閃が魔獣を切り裂いた。
「ギャアアアッ!!」
魔獣は黒い霧となって消えていく。
「な、なんで……」
煉華は震える手で太刀を見つめた。
「初めてなのに……身体が勝手に……」
その横では蒼紫が魔獣に追い詰められていた。
「きゃっ……!」
目の前まで迫る鋭い牙。
咄嗟に扇を構える。
(扇……風……。)
頭の中に、一つの考えが閃く。
(扇ぐ……!)
大きく扇を振ると、神殿を駆け抜けるような突風が巻き起こった。
「えっ!?」
風は刃となり、魔獣たちをまとめて吹き飛ばす。
「これ……私が?」
驚く蒼紫の耳へ、あの声が再び響いた。
『その風は、人を護る風だ』
「……!」
一方、琥珀は双剣を握ったまま魔獣を見据える。
「やるしか……ない!」
剣道とは違う。
一本ではなく二本の剣。
それなのに、不思議と違和感はなかった。
踏み込み、かわし、斬る。
身体が自然と次の動きを選んでいく。
「初めてなのに……分かる!」
双剣が閃くたび、魔獣は次々と倒れていった。
『迷うな』
白虎の声が心へ響く。
「うん!」
琥珀は力強く頷いた。
その頃、詞葉の前には数体の魔獣が迫っていた。
神殿で逃げ惑う人々が目に入る。
「だめ……っ」
ぎゅっと錫杖を握り締める。
「お願い……みんなには近づかないで!」
叫んだ瞬間、錫杖の先から翠色の光が溢れた。
幾重もの光が円を描き、人々を包み込む。
ガァン!!
魔獣が結界へ体当たりする。
しかし結界はびくともしない。
「守れた……」
詞葉は安堵の息を漏らした。
『それでよい』
玄武の穏やかな声が静かに響く。
やがて最後の一体が煉華の太刀によって斬り伏せられた。
静寂が神殿を包む。
四人は息を切らしながら互いの顔を見合わせた。
「みんな……大丈夫?」
琥珀の問い掛けに三人は小さく頷く。
「怖かった……」
煉華がぽつりと呟く。
「でも……」
蒼紫が扇を見つめる。
「私たち、本当に戦えた」
「初めてなのに……」
詞葉も信じられないというように錫杖へ視線を落とした。
「身体が勝手に動いた……」
四人は同じ気持ちだった。
戦い方など知らない。
それでも、この武器は自分たちを導いてくれた。
羅刹は静かに四人へ歩み寄る。
「皆さま……これが神器に宿る四神様のお力です。」
その言葉に、四人は改めて武器を握り締めた。
まだ分からないことだらけだ。
それでも一つだけ、確かなことがある。
もう、元の普通の高校生活には戻れない。
四神の巫女として生きる運命は、今この瞬間から始まったのだった。
コメント
1件
読み終えたよ……。 代償、か。力を使うたびに五感を失っていくって、重い設定だね。それでも「護る」って選択をした四人の強さが、初陣なのにちゃんと感じられたのが良かった。 それぞれの神器に宿る声——青龍、朱雀、白虎、玄武——が導く感じとか、詞葉が「守れた」って安堵するシーン、すごく好きだな。 もう戻れない日常。その一歩を、ちゃんと踏み出せたんだね。 続き、気になるよ。