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#ローファンタジー
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19-1◆影の帝王と俺の共通点◆
その日は、意外なほど平穏に過ぎていった。
三好からの報復はない。
彼は時折、俺に憎悪の視線を送ってくるだけ。
そのたびに、俺のスカウターは彼の小物っぷりを正確に表示した。
そのデータを確認するたび、俺の三好を潰す決意は、より冷たく研ぎ澄まされていった。
放課後、俺は山中と帰路についていた。
彼はずっと、昨日のホームルームでの俺の「反逆」について興奮気味に語っている。
俺はそれを右から左へと聞き流す。
俺の思考は、すでに来るべき「処刑」のシナリオ構築に費やされていた。
その時だった。校門へと向かう道。
周りの生徒たちの空気が変わった。
彼らは、まるでモーゼの前の海のように、左右に割れ道を開ける。
その道の先から、五人の生徒たちがこちらへ歩いてきた。
このエリート校にはあまりにも不釣り合いな暴力の匂い。
着崩した制服。鋭い目つき。
その中心にいる男は特に巨大だった。熊のような体躯。
彼こそがこの学園の影の支配者「番長」轟木剛造。
「おい音無。やべえよ」
隣で山中が震える声で囁く。
「轟木一派だ。絶対目を合わせるなよ」
轟木の隣には一人の男が静かに歩いていた。
轟木とは対照的な涼しげな目元。
しかしその瞳の奥には、轟木剛造以上の冷たい光が宿っている。
NO2の坂元要介。
(こいつらのことは、詳しく知っておいたほうがいい)
俺は直感的にそう判断した。
俺はカーストスカウターに意識を集中させる。
もっと深く、もっと詳細なデータが欲しいと。
俺はスカウターのレベルを無理やり、一つ引き上げようとした。
その瞬間、俺の脳に軽い痛みが走った。
俺は轟木剛造へと焦点を合わせる。
機能:キャリア・ディグ
【Target: 轟木 剛造】
【役職:学園番長(非公式)】
【脅威レベル:A+(接触回避推奨)】
【部活動:元柔道部(一年時廃部)】
【出身中学:京都市立鴨川西中学校】
【特記事項:スポーツ推薦(奨学金受給者)】
視界のUIが明滅し、新しい項目が追加される。
(なんだ?新しい項目が追加されている)
(経歴?部活動?こんなことまで分かるのか?)
(鴨川西中学)(元柔道部)
いくつかの興味深いデータが、俺の脳に記録される。
(そして奨学金受給者?)
(俺と同じ?)
その事実に俺、の思考が一瞬停止する。
この学園の影の王が?俺と同じ立場の人間?
轟木一派が、俺たちの横を通り過ぎていく。
その圧倒的な威圧感。
山中は、息を殺している。
俺はただ無表情に、彼らの背中を見送った。
頭の中では、先ほど手に入れたばかりデータを必死に反芻しながら。
19-2◆王の庭への潜入◆
俺はそこでカーストスカウターのチャットウィンドウを起動してみた。
忌々しくも、今や、俺の唯一の相談相手である「ミラー」との対話ウィンドウを開く。
奏:「ミラー 轟木剛造はスポーツ推薦。そして奨学金受給者だったようだ」
俺は観測した事実だけを、無感情に思考で打ち込む。
すぐに返信が来た。
ミラー:「それがどうした?ただのデータだろ。お前にとって、重要なのはそれか?」
奏:「いや。何か、ひらめきそうな気がするんだ」
ミラー:「ただ自分と同じ境遇の人間がいたことに、驚いているだけなのでは?」
奏:「同じ境遇?」
その言葉。
それは、まるで俺自身の心の奥底を、見透かしたかのようだった。
ミラー:「同じ奨学金受給者なんだろ?」
奏:「待て。もし、これが轟木だけの特例では、なかったとしたら?」
ミラー:「轟木は元柔道部。運動部には、他にも奨学金入学者がいるかもな?」
俺の脳内で、一つの仮説が形作られる。
そして、その仮説を証明するための最適なターゲットが、一人だけ浮かび上がった。
奏:「そうだ。バスケ部の大物ルーキー、1年の長峯昌吉。こいつもそうかもしれない」
ミラー:「仮説か。ならやることは一つだな。証明しろ」
奏:「さきほど轟木をみたとき、俺のカーストスカウターはレベルアップしたよな?」
ミラー:「ああ。その性能なら、長峯のことが、詳細に把握できるのではないか?」
その言葉。それが俺の背中を押した。
俺は隣を歩く山中の肩を叩いた。
「おい山中。この後、暇か?」
「暇だけどなんでだよ?音無」
「体育館に行くぞ。噂のバスケ部の大物の1年生を見にだ」
俺のその唐突な提案に、山中は一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。
だが、すぐに彼の目は好奇心に、爛々と輝き始めた。
「おう!行く行く!長峯昌吉だろ?あいつマジでヤバいらしいぜ!」
俺たちは、連れ立って体育館へと向かう。
本館の喧騒が、嘘のように遠ざかる。
渡り廊下を抜けた先。
そこにそれはあった。
俺たちの教室がある校舎とは、まるで違う。
最新の設備と、巨大なガラス窓が、特徴の近代的な建物。
洛北祥雲(らくほくしょううん)学園高等部バスケ部専用の第二体育館。
通称「天宮記念アリーナ」。
もちろん正式名称ではない。
生徒たちが畏敬の念を込めて、勝手にそう呼んでいるだけだ。
俺と山中は二階の観覧席へと足を踏み入れる。
その瞬間。俺は息をのんだ。
(なんだ、ここは)
眼下に広がるのは、もはや高校の部活動の練習風景ではなかった。
眩いほどのLEDライトに照らされた美しいコート。
壁にはプロの試合で、使われるような巨大なデジタルスコアボード。
そして規則正しく、響き渡るボールの音とシューズのスキール音。
そこはもはや一つの「王国」だった。
「嘘だろなんだよここプロのチームかよ」
隣で山中が呆然と呟く。
「あのスコアボード、プロのアリーナにあるやつじゃねえか」
彼の言う通りだ。
異常だ。この設備。この熱気。
ここだけ、学校の中の別の国だ。
(あの高名な“元プロ”の顧問と天宮 蓮司が君臨する独立国家)
俺は初めて、この学園の本当の権力の中心地へと、足を踏み入れたことを理解した。
コートの中では、選ばれた者たちが、神業のような練習を繰り広げている。
俺はその光景を、ただ冷たい瞳で観測していた。
俺の仮説を証明するための最後のピース。
長峯昌吉の姿を探して。
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