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#ローファンタジー
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21-1◆役者の尋問、そして神の視点◆
俺の思考の海に一つの結論が浮かび上がる。
確信が欲しい。
そのための方法は単純明快だ。
練習の終わりを待って、直接、長峯昌吉に話しかける。
俺は体育館の脇で、一人息を殺してその時を待った。
やがて練習終了のホイッスルが鳴り響く。
数十分後、部員たちが一人また一人と、体育館を後にして帰宅していく。
俺はその中から、長峯昌吉の姿だけを眼で追った。
彼が体育館から出てきた瞬間。
俺は静かに、彼のあとを追い、話しかけた。
「君が長峯昌吉くんだね。今日の練習見ていたよ。僕は2年の音無奏!」
俺はできるだけ、穏やかな先輩を演じて声をかける。
長峯は驚いたように振り返った。
「え?あ、はい!見てたなんて、恥ずかしいです」
「いや。本当に素晴らしいプレイだった。見ていて気持ちがいい。一瞬で君のファンになったよ」
俺のスカウターが、彼の反応をデータ化する。
【Target: 長峯 昌吉】
【感情:困惑、しかし、好意的反応(70%)】
【警戒レベル:低下】
(称賛する。これが一番効く)
俺は、さらに畳み掛ける。
「天宮くんの次のエースは、君で決定だね」
「滅相も無いです!俺なんて天宮さんの足元にも!」
【思考スキャン:”天宮”への絶対的な崇拝】
(なるほど。王への忠誠心は本物か。この学園は天宮を崇拝する者だらけだ)
俺は、駄目押しの一言を放つ。
「はは。謙遜するなよ。実は、俺も奨学金でこの学校に来ているんだ。だから君みたいな努力家は、つい応援したくなる」
【感情:驚き、そして強い親近感(90%)】
(最大の弱みを晒す。それが相手の懐に入る最短距離だ)
彼の警戒心が、完全に解けたのを俺は確認した。
そして俺は初めて、本題の呪文を唱える。
「俺の中学にもいたんだ。不器用で力任せだけど、絶対に仲間を裏切らない”熊”みたいなヤツが。俺はそういう馬鹿正直な『強さ』も嫌いじゃない」
本題の呪文とは?「中学時代」「熊」というキーワードだ。
その瞬間、長峯の瞳が大きく揺らぐ。
俺のスカウターが、彼の深層心理をハッキングした。
機能C:思考残響観測を発動
【思考トリガー:”熊””中学時代”】
【連想対象:轟木 剛造(鴨川西中・柔道部)幼馴染】
【深層感情:畏怖、尊敬、そして絶対的な信頼】
(ビンゴだ)
「轟木剛造」という名前が表示され、
そこに「畏怖、尊敬、絶対的な信頼」という感情が連想され、すぐに結びついていた。
やはり「轟木剛造」と「長峯昌吉」は親密な間柄のようだ。
俺は目的を達成すると、にこやかに長峯に別れを告げた。
「じゃあまたな。試合、楽しみにしているよ」
長峯は、よくわからないながらも、新たなファンの登場に、嬉しそうに、その場に立ち尽くしていた。
まさか自分が今、魂の奥底まで、丸裸にされたとは夢にも思ずに。
俺は、一人静かにほくそ笑んだ。これで全ての駒は揃った。
21-2◆計画始動、そして最初の罠◆
翌朝。俺は誰よりも早く、教室に足を踏み入れた。
朝日が差し込む前の静かで青い光。
それが教室全体を支配している。
まるで深海の水底のようだ。
俺はまっすぐに、三好央馬の席へと向かう。
ポケットから取り出したのは、一枚の小さなメモ用紙。
昨日、俺が全ての情報を分析し、そして練り上げた完璧な脚本の招待状だ。
俺は、それを誰にも見られることなく、彼の机の奥深くへと滑り込ませた。
自分の席に戻り、俺は静かに目を閉じる。
(賽は投げられた)
俺の今回のゴール。それは
「三好央馬という存在が、虎の威を借る、ただの滑稽な道化であるという事実を、学校全体の共通認識に変えること。そして三好を1軍から降格させ、観客席に座らせること」
そのための最初の罠は、もう仕掛けた。
やがて教室に、生徒たちが集まり始める。
喧騒が戻ってくる。
そして三好が、取り巻きの富田と田原と共に現れた。
彼は自分の席に着くと、机の中のそのメモに気づく。
怪訝な顔で、それを開く。
そして数秒後。彼の口元に下劣な、そして満足げな笑みが浮かんだ。
「フッ。なるほどな」
彼はそのメモを取り巻きたちに見せる。
彼らもまたニヤニヤと、汚い笑みを浮かべた。
俺は観客席から、その一部始終を観測していた。
スカウターが、彼の愚かな内面を映し出す。
【Target: 三好 央馬】
【感情:優越感、独占欲、愚かな自信】
【思考:”好機チャンス到来”】
(単純な野郎だ)
俺は心の中で、吐き捨てる。
(これが罠だとは、微塵も思わない。自分が選ばれたと信じ込んでいる)
(ああ本当に馬鹿で、そして哀れな道化だ)
俺は静かに、読んでいた本のページをめくった。
ショーの始まりまで、あと数時間。
俺はただその時を待つだけだ。
21-3◆特権階級の食べ残し◆
昼休み。カフェテリアの喧騒。俺は一人、隅の席で昼食を摂っていた。
少し離れたテーブルでは、三好が取り巻きの冨田と田原たちと、騒々しく食事をしている。
彼らの周りだけ、空気が違う。
自分たちが特権階級であるという傲慢な空気。
やがて食事を終えた三好たちが席を立つ。
しかし彼らのテーブルの上には、食べ終えた食器や、パンの袋がそのまま放置されていた。
貴族の食べ残しのような無残な光景。
ある生徒がおずおずと、彼らに近づき、声をかける。
「あの三好くん。ゴミはゴミ箱へ、食器は返却口までお願いします」
その言葉に、三好は心底、不思議そうな顔で振り返った。
そしてこう言い放った。
「は?俺が?なんでだよ。それ、お前らの仕事だろ」
「つーか俺たち『Elysion』が、ここで飯食ってやってるだけで、ありがたいと思えよな。俺たちがいるから、この食堂の格も上がるんだぜ?」
彼は自分が、ゴミを片付けないことが、さも当然の「特権」であるかのように語る。
そのあまりにも、腐りきった論理。
俺はその一部始終を観測していた。
俺のスカウターが、無慈悲なデータを表示する。
【Target: 三好 央馬】
【感情:傲慢(80%) 特権意識(90%)】
【思考:”雑用は下の人間がやれ”】
その生徒は何も言い返せず、一人で彼らのゴミを片付け始める。
その光景を眺めながら、俺は静かにパンの最後の一口を飲み込んだ。
そして俺は、自らの食器を手に立ち上がる。
返却口へと向かう。
三好たちの汚れた食器の横を、通り過ぎる。
そして心の中で冷徹に最後の審判を下した。
(確認完了。情状酌量の、余地なし)
(被告人、三好央馬。お前の”実刑”は確定した)
(これより刑を執行する)
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