テラーノベル
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夏休みが始まった。
青空。
強い日差し。
蝉の声。
あの日、文化祭の帰りに“今世を生きよう”と約束してから、ライは少し変わった。
前より自然に笑うようになった。
不安そうにマナを見る回数も減った。
もちろん、百年前の傷が完全に消えたわけじゃない。
でも。
「ライー!」
駅前で大きく手を振るマナを見ると、ちゃんと“今”を感じられる。
「遅い!」
「五分」
「恋人待たせるな!」
「ごめん」
そう言いながら笑うライに、マナもつられて笑った。
今日は夏祭りだった。
浴衣姿の人で街は賑わっている。
「人多っ」
「はぐれるなよ」
ライが自然に手を握る。
マナは少し照れながらも握り返した。
百年前には叶わなかった夏。
こうして並んで歩けることが、今でも夢みたいだった。
「りんご飴食べたい!」
「さっきかき氷食べた」
「甘いのは別腹」
「胃袋どうなってんの」
笑いながら屋台を回る。
射的で盛り上がって。
金魚すくいで騒いで。
写真を撮って。
ライは何度も思った。
あぁ、自分はこれが欲しかったんだ、と。
特別な奇跡じゃなくていい。
ただ隣で笑い合える日常。
それだけでよかった。
夜。
花火が始まる少し前。
二人は人混みから離れて、川辺に座っていた。
風が気持ちいい。
遠くで祭囃子が聞こえる。
「……ライ」
「ん?」
マナが空を見ながら言った。
「百年前さ」
ライは静かに耳を傾ける。
「俺、最後ちょっと後悔してた」
胸が小さく痛む。
「もっと一緒にいたかったなーって」
「……うん」
「もっとデートしたかったし」
マナは笑う。
「もっとライに好きって言いたかった」
ライは目を伏せた。
その願いが、どれだけ叶わなかったか知っているから。
でも。
「だから今、めちゃくちゃ楽しい」
マナが笑う。
その笑顔は、百年前の最後の日よりずっと明るかった。
「今度はちゃんと未来あるし」
ライは静かにマナを見る。
浴衣姿。
風に揺れる髪。
幸せそうな横顔。
ちゃんと生きている。
ここにいる。
「……マナ」
「ん?」
「俺、前まで怖かった」
花火を待つ夜空を見ながら、ライはぽつりと言う。
「また失うのが」
マナは何も言わずに聞いていた。
「でも最近、思う」
ライは少し笑った。
「未来って、怖いだけじゃないんだなって」
マナの目が柔らかくなる。
「それ、今更?」
「うるさい」
二人で笑う。
その瞬間。
夜空に大きな花火が咲いた。
ドン、と音が響く。
赤、青、金色。
光が二人を照らす。
マナは花火を見上げながら、小さく呟いた。
「綺麗」
ライは、花火より先にマナを見ていた。
そのことに気づいたマナが吹き出す。
「なんで俺見てんの」
「……好きだから」
「うわ出た」
「本当だし」
「はいはい」
照れながら笑うマナ。
その顔が愛しくて、ライはそっと肩を引き寄せた。
マナも自然に寄りかかる。
静かな温度。
安心する重さ。
百年前、最後に病室で交わした約束。
“来世でもまた恋人になろうね”
あの願いは、ちゃんと叶った。
でも今は、もう“来世”なんて言葉はいらない。
ライはマナの手を握る。
温かい。
生きている温度。
「……マナ」
「んー?」
「これからも、ずっと隣いて」
マナは少し笑って、握り返した。
「当たり前じゃん」
次の花火が夜空に咲く。
眩しい光の中。
二人は静かに寄り添った。
百年前、終わってしまった恋。
だけど今度こそ。
その恋は、未来へ続いていく。
コメント
1件
うわー、最終話か…読み終わってじんわりきたわ。百年前の約束を「来世」じゃなく「今ここ」で叶えていく感じがすごく良かった。花火のシーンでライがマナ見てるところとか、「なんで俺見てんの」「好きだから」の流れ、青春の甘さがエグい。そして最後の「ずっと隣いて」「当たり前じゃん」で完全に持ってかれた。過去に縛られず未来に怯えず、ただ今を生きる二人、めちゃくちゃ刺さった🔥