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だいぶグロい死に方です。
本人様と一切関わりありません!!!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
五人が揃い、再びレバーに手をかける。
「……せーの」
今度は、確かな手応えがあった。
重い音を立ててレバーが下がった瞬間――
ふっと、周囲が闇に包まれる。
次の瞬間、何事もなかったかのように
明かりが戻った。
部屋は、さっきまでと同じように見えた。
けれど全員が直感していた。
――何かが、確実に変わった、と。
不意に、重い駆動音が天井から
降ってきた。
嫌な予感に導かれるように見上げると、
無数のチェーンソーが、鎖に繋がれて
天井から垂れ下がってきているのが
見えた。
「……ぁ、…ッ」
こさめの喉から、かすれた声が漏れる。
その表情は、完全に絶望を映していた。
14⁄23
――次の瞬間。
床から壁がせり上がる。
鈍い音とともに仕切りが出現し、
五人は一瞬で引き裂かれ、
それぞれが“一人きり”の区画に
閉じ込められた。
「ちょ!どうしたらええ!?
すちくん!!」
みことの声が壁越しに響く。
すちは反射的にレバーを元の位置へ
戻そうとした。
その瞬間――
「っ……!」
手錠をつけた手首に、鋭い激痛が走る。
力を込めるほど、締め付けられるような
痛み。
「レバー、うえに上げればええん!?」
みことが必死に問いかける。
「だめ……」
すちは短く、でもはっきりと言った。
「それやると……腕、切られる」
冷静な声だった。
状況を理解しているからこそ、
余計な動揺を見せない。
「おい!すち!!」 いるまの声は、
焦りと苛立ちが混じっていた。
「大丈夫」
そう囁くように返しながら、
すちは頭を高速で回転させる。
視線を落とし、手錠をよく見る。
――鍵穴。
「……あ」
すちは自分の持っている鍵束を見る。
八個、同じように見える鍵。
一つずつ、手錠に差し込む。
合わない。
違う。
また違う。
そして――
一つだけ、抵抗なく回った。
カチリ、という小さな音。
手錠が外れた瞬間、
天井のチェーンソーがぴたりと停止した。
確信する。
すちは大声で叫んだ。
「みんな、よく聞いて!!」
声を張り上げる。
「今から真ん中の隙間から鍵を渡す!!」
「手錠に合う鍵が一つある、
それで外して!!」
「外れたらチェーンソー止まる!!」
少し息を吸って、続ける。
「みんなで順番に回せば、
全員助かる!!」
そう言って、
中央の隙間へ鍵束を差し出す。
すぐに、四方から手が伸びてきた。
「奪い合わないで!!」
「時間なくなるから!!」
声に、珍しく焦りが滲む。
このゲームは――
冷静さを失った瞬間に、終わる。
最初に鍵を掴んだのは、いるまだった。
無駄がない。
焦りを表に出さず、鍵を差し込み
――即座に外す。
その瞬間、
天井のチェーンソーの回転音が、
完全に止まった。
(……はぁ、止まった)
胸の奥で、短く息をつく。
(なつは……確か、この隣だ)
(大丈夫…なつさえ生き残れば…俺は)
(生きていける)
「いるまちゃん?」
「手錠外れた!? 鍵、急いで元の場所に
ねぇ、聞いてる!!」
壁越しに、すちの必死な声。
「今外れた。戻す」
いるまは余計な言葉を挟まない。
鍵と鍵がぶつかって音が鳴らないように
できるだけ重ねて
そして――
なつの手に、すっと渡す。
……贔屓だ。
その言葉が、すちの頭をよぎる。
かなりまずい状態だった。
2回の鍵の奪い合い。
疑心暗鬼。
怒鳴り声と震える手。
――もう、だいぶ時間を消費した。
全員が生き残る道は、もうないだろう。
(……死ぬ)
(みこちゃんか、こさめちゃんが)
「大丈夫」
そう声をかけることすら、
すちは諦めていた。
そんな余裕は、もうない。
「……外れた。今から渡す」
なつの声が聞こえる。
金属が擦れる嫌な音。
手錠が残ったまま、
鍵だけを掴もうとして、届かない。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
こさめの息が荒くなる。
過呼吸だ。
必死に、必死に腕を伸ばし、
鍵に触れようともがいている。
一方で――
みことのほうから、
ガチャという音がした。
覚悟が決まったのか、
それとも、もう考えるのをやめたのか。
みことの手が、ゆっくりと中央へ伸びる。
こさめの指先が、
ぎりぎり届きそうな距離。
その――直前。
みことの指が、鍵を掴んだ。
ーーー
俺は、こさめちゃんの正面の壁だった。
だから ――嫌でも、
こさめちゃんの顔がよく 見えた。
絶望で塗りつぶされた顔。
理解したくない現実を、
理解してしまった目。
目を逸らそうとする。
なのに、逸らせない。
別に、ずっと見ていたって――
意味なんてないのに。
(見届けよう)
なんて感情でもない。
(見ものだな )
なんて野人な根性でもない。
「うぁぁぁあッ……いやだ……いやだ……!」
こさめの叫び声が、部屋に反響する。
助かるわけでもないのに。
どうにかできるわけでもない。
それなのに――
「この、味おいしい」
そんな声が、
唐突にフラッシュバックする。
さっきまで。
確かに、ここにあった声。
生きている証みたいに、
近くにあった温度。
15⁄23
……そこにはただ、
そこには
目を離せないという細分不可能な
現象があるだけあった。
感情でも、同情でも、希望でもない。
ただ、視線だけが、張り付いたまま
動かなかった。
壁が、ゆっくりと下がる。
同時に、閉じていた扉が音もなく開いた。
……終わった。
視界の先にあるものを、
すちは直視しなかった。
代わりに、足元に落ちていたハンカチを
拾い上げる。
色は、もう元が何色だったのか
分からない。
そして何事もなかったかのように、
ポケットへ入れる。
(…レバーを上げたのか)
みことの片腕は切れていた。
みことはその場に立ち尽くし、
壊れたみたいに同じ言葉を
繰り返していた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……ごめんなさい……」
止まらない。
「みこちゃん……」 すちは低い声で言う。
「謝るのはいいけど、
口に出さないほうがいいよ」
みことが、びくっと肩を揺らす。
「弱みになっちゃうから」
それだけ告げて、視線を外す。
いるまは、なつの背中に手を置いたまま、
一定のリズムで撫でていた。
視線は――
あえて、そちらを見ないようにしている。
見たら、壊れると分かっているから。
誰も泣いていない。
誰も叫ばない。
ただまた一人分の欠落を抱えたまま、
次に進むしかなかった。
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ーーー