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stpl 紫赤 様
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ステージの照明が落ちた瞬間、ようやく息ができた気がした。
汗で重くなった前髪を指で押し上げながら、僕は袖に戻る。
「お疲れ」
低くて落ち着いた声。
振り向くと、最年長メンバーの彼――グループの“お兄さん”が、いつもの余裕ある笑みで立っていた。
「……お疲れ、さま」
そう答えるだけで、胸の奥がきゅっとなる。
僕はこの人が、昔から少しだけ、怖い。
優しくて、かっこよくて、ファンにもメンバーにも等しく手を差し伸べる人。
でもその優しさが、時々、近すぎる。
「今日の最後の表情。すごくよかったよ」
耳元でそう囁かれて、心臓が跳ねた。
褒められるのは慣れてるはずなのに、この人からだと別だ。
「……ありがとうございます」
泣き虫で、初心で、愛されキャラ。
そういう役割を与えられて、期待されて、守られてきた。
でも彼の前では、その“殻”が簡単に揺らぐ。
「終わったら、少し話せる?」
その一言で、今日一日分の疲れが一気に押し寄せた。
断れるわけがない。
楽屋を抜けて、人気のない個室に入る。
ドアが閉まった瞬間、空気が変わった。
彼はジャケットを脱ぎながら、僕をじっと見る。
その視線が、ステージのときよりずっと熱を帯びていて、思わず視線を逸らした。
「緊張してたでしょ」
「……バレてた?」
「そりゃ。最年少だもんな」
頭に手が乗る。
くしゃ、と軽く撫でられただけなのに、目の奥が熱くなる。
「俺の前では、無理しなくていい」
その声が、ずるい。
優しいのに、逃げ道を塞ぐみたいで。
「……泣いても?」
気づいたら、そう聞いていた。
「いいよ」
その瞬間、抱き寄せられる。
広い胸、落ち着く匂い。
涙が勝手に溢れて、衣装を濡らした。
「よく頑張ったな」
耳元で囁かれるたび、胸の奥が痺れていく。
優しさだけじゃない、熱を含んだ声音。
気づけば、彼の指が顎に触れて、顔を上げさせられていた。
視線が絡む。
「……可愛い顔、してる」
それは、アイドルとしてじゃない言い方だった。
唇が触れそうな距離で、一瞬、ためらいが見えた。
でも次の瞬間、そっと、確かめるみたいに口づけられる。
頭が真っ白になる。
深くはしない。
でも、離れた後の沈黙が、やけに甘い。
「ごめん」
そう言いながら、彼の手はまだ僕の背中にある。
離す気がない。
「……嫌、じゃない」
声が震えた。
それだけで十分だったみたいに、彼は小さく笑って、僕を抱きしめ直した。
それ以上のことは、詳しく覚えていない。
ただ、触れられるたびに、声を殺して、必死に彼に縋ったこと。
優しくて、余裕があって、それでいて逃がさない腕。
終わったあと、ベッドの上で、彼の胸に顔を埋めていた。
指で髪を梳かれながら、鼓動を聞く。
「明日からも、変わらない」
そう言われて、なぜかまた涙が出た。
「でも」
顎を持ち上げられて、目を合わせられる。
「俺にだけは、甘えていいよ」
最年長で、お兄さんで、ずるい人。
かっこよくて、えっちで、優しい人。
その腕の中で、僕は小さく頷いた。
アイドルとしてじゃない“僕”を、知ってしまった夜だった。
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