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#くらげの寄り道
海月 凛@夏ツ大阪二日目行くど
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#桃
꒰ঌ朧懸໒꒱
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白青・青白
ロイヤルトラップ。
それは、恋する罠。
古くから王宮に伝わる、奇妙な言葉だった。
誰が最初にそう呼んだのかは、もう誰も知らない。
ただ、ひとつだけ。
この王国には、誰もが目を奪われる瞳を持つ者がいる。
紫水晶――アメジストのように透き通った瞳。
その瞳を見た者は、知らず知らずのうちに心を奪われていく。
だから人々は、その瞳をこう呼んだ。
――ロイヤルトラップ。
王族が持つ、恋の罠。
けれど。
僕は、そんなものが存在するなんて知らなかった。
少なくとも、五歳のあの日までは。
「ショウ様」
その声で、僕は顔を上げた。
大きな窓から差し込む午後の光が、部屋いっぱいに広がっている。
僕は王宮の中庭で摘んできた花を、小さな花瓶に挿していた。
まだ五歳だった僕には、花を綺麗に飾ることくらいしかできなかった。
剣術もできない。
政治の勉強も難しい。
王子としての礼儀作法だって、先生に何度も怒られていた。
そんな僕の隣には、いつも一人の執事がいた。
僕が生まれたときから仕えてくれていた人。
僕にとっては、執事というよりも家族に近い存在だった。
転んだら手当てをしてくれた。
眠れない夜には、昔話をしてくれた。
父上に叱られた日には、何も言わずに頭を撫でてくれた。
だから。
その人がいなくなった日のことを、僕は今でも覚えている。
事故だった。
王宮へ戻る途中の馬車が事故に遭った。
大人たちは僕に詳しいことを教えてくれなかった。
ただ、
「もう、戻ってきません」
そう言われただけだった。
意味が分からなかった。
戻ってこない。
明日になれば帰ってくるんじゃないのか。
次の日になっても帰ってこなかった。
三日経っても。
一週間経っても。
それでも帰ってこなかった。
僕は毎日、扉の前を見ていた。
もしかしたら、今日こそ。
そう思っていた。
けれど。
ある日。
「ショウ」
父上が僕の部屋に入ってきた。
その顔は、いつもの王様の顔ではなかった。
国王としてではなく。
父親としての顔だった。
「今日から、お前には新しい専属執事がつく」
「……新しい?」
「ああ」
僕は小さく首を傾げた。
「前の人は?」
父上の表情が、ほんの少しだけ曇った。
「……もう、戻ってこない」
「……そっか」
五歳の僕は、それ以上聞けなかった。
聞いてはいけない気がした。
そして。
父上の後ろから、一人の子どもが入ってきた。
僕より少し背が高い。
青い瞳。
青みがかった髪。
年齢は六歳だと聞かされた。
小さな身体には、僕の部屋には少し不釣り合いなほど立派な執事服が着せられていた。
けれど、その姿には妙な落ち着きがあった。
その子は僕の前まで歩いてくると、深々と頭を下げた。
「これからショウ様の専属執事になります」
そして、顔を上げる。
「イフ・メレアです」
その青い瞳が、僕をまっすぐ見た。
「……ショウです」
僕も名乗った。
王子だから、本当はもっと堂々としていなければならなかった。
けれど。
その日は、どうしても無理だった。
僕は新しい執事を見ながら、前の人のことを思い出していた。
嫌だった。
この子に罪はない。
分かっている。
それでも。
前の人がいなくなった穴を埋めるために来たように見えてしまった。
だから僕は、少しだけ距離を置いた。
「……よろしくお願いします」
「はい」
イフは笑わなかった。
ただ、静かに頭を下げた。
それが、僕と彼の出会いだった。