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episode4 好きに
「お前、一人暮らしか?」
「はい。そうですが?」
「にしては広すぎるんじゃないのか?」
そう。この女の家は一人暮らしにしては大きい。
まんしょん?と言う建物らしいが、部屋がいくつもあるのだ。私からしたら城のようだ。
「あなたがいた時代は最低限生活できるような簡素な家が多かったですものね。」
「これでも、現代ではこの大きさは普通程度ですよ?」
そうだ。自分が過去から来た人間のことを忘れていた。
私が来た時代と現代では、この女の話によれば100年ほど間があるらしい。
通りで、街があんなにも綺麗でキラキラしているのだ。
そう考えていると、女の口が開く。
「名乗っていませんでしたね。私の名前は所夜千夜。仲良くしてくださいね♩」
自己紹介をされた。今までは契約書や名札だけで名前を理解するようにされていたから新鮮だ。
名前も尚、日本人らしい良い名前だ。
「あなたのお名前は……っと」
「ブライド・エモーション様でお間違いないですか?」
まただ。また私の事を言い当てた。
先程のことといい、偶然とは思えない。
本当にこいつは何者なんだ。
「お、間、違、い、な、い、で、す、か!?」
「あぁ、すまない。私の名は今お前が言った通りの名だ。」
返事をすることを忘れてしまっていたようだ。
考え事をしてたとはいえ、申し訳無い事をしてしまった。
「なら良かったです!」
「それでは、部屋へご案内致しますね!」
「あぁ。よろしく頼んだ。」
「今いた部屋……リビングの扉を開けて真っ直ぐ行って左に曲がります。はい。到着です。」
「やっぱり家で歩く量では無いな。」
「そんなこと言わずに!さぁ、扉はご自身で開けてくださいな♩」
そう言われたので、扉に手をかけて開ける。
少し開けられた窓から、暖かい風が入ってくる。
とても落ち着く。いい部屋だ。
そして広い。
「……広いな」
「そう!この家のリビング以外で1番広いお部屋です!」
女は万円の笑みで答える。
「使っていなかったので、どうぞご自由にお使い下さいね♩」
窓の縁にホコリが少し溜まっている。
若干掃除はしてくれたのだろうが、使っていなかった事は確かなようだ。
「すまないな、ありがたく使わせて貰う。」
「その口調も、やめませんか?」
……は?
「知っていますよ、あなたは兵長として育てられる際、言葉遣いを修正されたと。」
「私は兵団でもなんでもないんです。私の前でくらい、楽にしていいんですよ?」
楽に、という事はどう言う事なのだろう。
私の素の言葉遣いって、どんなのだったっけ。
そしてこれは選択肢なのだろうか。
必ず選ばなければならないのだろうか。
「……それは、絶対……なのか?」
無意識に口からこぼれ落ちてしまった。
「絶対、と言うと?」
「それは……その選択肢は必ず……絶対選ばなければならないのか?」
「むかしから選択肢は苦手なんだ……もし所夜がそうして欲しいならば極力直そう。これでも居候の分際だしな。」
「決めてもらわなきゃ……指示を出してもらわなきゃ分からないんだよ」
「自分がどうしたら良いのか、どちらが正しくてどちらが悪なのか。分からないんだ」
彼女がそう言うと、所夜は少し笑って言った。
「それじゃあ、今からお買い物に行きましょう!」
「……はぁ?」
「あなたのその服だと目立ってしまいますので、とりあえず服です!服を買いに行きましょう!」
「お前、自由人って言われたことないか?」
「よく分かりましたね!本当によく言われるんですよ♩」
「まあまあ、細かいことは気にせずに♩着いてきてくださいね♩」
「これは細かくない気がするのだが」
やってきたのは、大きなショッピングモール。
見るだけでも飲食店、服屋、雑貨屋、本屋……
ひとつの施設に沢山のお店が入っている
驚いている私の手を引いて、所夜は近くの服屋へと入店する。
「うーん、あなたは顔がいいからなんでも似合いますよねぇ、」
両手に数着、服を持ちながら割と真剣に悩んでいるようだ。着れればなんでもいいだろ。
「あ、!これも可愛いです!いや、カッコイイ系も絶対似合いますよね……!」
1人で何を妄想しているんだこいつは
「ねぇねぇ!どっちがいいですか?」
……こいつなぁ、
「先程選択肢は苦手と言ったばかりだろう……」
「まぁ……そうだな。今の髪型的にもこっちの方が良さそうだな」
所夜にはきっとこんな服が似合うのだろうと思った方を推薦した。
「確かに!では、購入してくるのでしばしお待ちを!」
片手に白い紙袋を持って戻ってきた所夜。
そしたらいきなり、着替えてこいと言われた。
わけも分からずトイレで着替えたが……
まあ……この服を着れば皆分かるのだが……
こいつ……何がとは言わないがでかい。
私が小さいのがバレるだろうが。
それから数時間、ショッピングモールの全ての服屋に連れ込まれ、何度も試着をさせられた。
その度に真剣に悩んでいたので、適当に選んで買って次の店に行くを何十回も続けた。
毎回選択肢を出してくるので、とりあえず安い方を選んだ時もしばしあった。
所夜と私の手にはそれぞれ全てロゴが違う紙袋が邪魔なくらいにある。
心身共に疲れた。
が、戦場にいる時よりはマシだ。
所夜もさすがに歩き疲れたようで、フードコートとやらへ入った。
空いている席を見つけて腰掛ける。ようやく座ることが出来たので、休憩だ。
そして、所夜が口を開く。
「どうですか?服選び。楽しかったですか?」
「まあ、当然疲れたよ。お前が真剣に悩むから口を出すにも出しずらいしな。」
「あら、そんなに真剣でした?w私」
「眉間にシワを寄せていたぞ」
「そんなとこ見てなくていいんですよ!!」
「それよりも、全ての店で選択肢を出したのにあなたが答えてくれたのが驚きです。」
「てっきり私に押し付けるものかと」
「?」
「押し付けた方が良かったか?」
「いえいえ。答えてくれて嬉しかったです」
「理由がなんにせよ、あなたが選んだ服の利益を見つけて答えてくれたのは事実です。」
「選択肢が苦手なあなたには少しイラつかせてしまったかもしれませんね。ごめんなさい。」
「でも、嬉しかったのは本心ですよ。」
「……」
「イラつく……というのはどう言う感情なのだ、?」
「すまない、服を選んでる間も、私は特に何も感じられなかったんだ。」
「試着した服を可愛いとも、服を買って良かったとも、所夜に対しての思いも、服の好みが合わないなんてことも」
「何も思えなかったんだ。」
「ただただ、お前が楽しそうに服を選ぶのをずっと眺めていただけなんだよ。」
すると、所夜が驚いたように身を丸くした。
が、すぐに怪しい笑顔に戻った。
「いいんです。何も思わなくて。」
「ただただ、このお出かけの事が記憶に残ってくれればそれで私は十分です。」
「今日はあなたの選択を聞けただけで良しとしましょう。」
「もうすっかり暗いですね。今日はそろそろ帰りましょうか♩」
「ありがとうございます!今日はすごく楽しかったです!」
「あ、ああ。」
「口調については、もう気にしなくていいです。」
「自分がどの口調でいるかなんて自分で決める事です。」
「今の口調でも、元の口調でも。好きにしていいんですよ。」
好きに……。好きに、か。
まあでも、今すぐに答えは出なくていいや。
いつかの自分に決めて貰おう。
ありがとう、私も楽しかったよ。所夜。