テラーノベル
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第8話「ステージの裏で、息ができない」
ライブ当日。
楽屋の空気は、少しだけ張りつめていた。
衣装の擦れる音、スタッフの足音、遠くから聞こえる客席のざわめき。
「……もうすぐだな」
なつが、時計を見る。
「らん、準備は?」
「……うん」
返事はした。
でも、胸の奥がずっと落ち着かない。
(……心臓、早い)
深く息を吸おうとして——
「……っ」
途中で止まる。
「……は……」
浅い呼吸が続く。
「らんらん?」
みことが、すぐに気づいた。
「……大丈夫?」
「……大丈……」
言い切る前に、喉が詰まった。
「……っ」
肩が、小刻みに揺れる。
「らん」
いるまが、近づいてくる。
「今、何割くらいだ」
「……わかん、ない……」
正直な声だった。
「……は……っ」
息が、どんどん浅くなる。
「らんくん」
こさめが、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「こさめの声、聞いて」
静かな声。
「今、吸わなくていい。吐くだけでいい」
「……は……」
言われた通り、細く息を吐く。
「……そう」
こさめが、ゆっくり頷く。
「……ひっ……」
でも、喉の奥が震えて、嗚咽が混じる。
「……怖い……」
思わず、漏れた本音。
「……ステージ……」
「……らんらん」
すちが、そっと肩に手を置く。
「出られないなら、出ない」
迷いのない声。
「約束、したでしょ」
——苦しくなったら、止める。
「……でも……」
らんは、楽屋のドアを見る。
向こうには、待っている人たちがいる。
「……行きたい……」
声は震えていた。
「……最後まで……」
「“最後”って言うな」
なつが、少し強めに言った。
「まだ決めるな」
その言葉に、胸がきゅっとする。
「……っ、は……」
呼吸が乱れ、視界が滲む。
「らん!」
いるまが、すぐ支える。
「座れ」
椅子に座らされると、力が抜けた。
「……は……は……」
胸を押さえ、必死に空気を取り込もうとする。
「……ひっ……」
涙が、頬を伝った。
「……ごめ……」
「謝るな」
なつが、目線を合わせる。
「今は、選ぶ時間だ」
静かな声だった。
「出るか、出ないか」
「……どっちを選んでも……」
一拍置いて、
「……俺たちは、らんの味方だ」
その言葉に、らんの呼吸が少しだけ落ち着いた。
「……っ」
ゆっくり、息を吐く。
「……出る……」
小さいけれど、はっきりした声。
「……でも……」
顔を上げる。
「……苦しくなったら……」
「止める」
全員が、同時に言った。
「……うん……」
その瞬間、
ステージ袖から、名前を呼ぶアナウンスが聞こえた。
光が、楽屋の隙間から差し込む。
「……行こ」
なつが、手を差し出す。
らんは、一瞬だけその手を見てから、握った。
「……は……」
胸はまだ苦しい。
でも——一人じゃない。
そう思いながら、
らんはステージへ向かった。
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コメント
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感動万歳傑作すぎて泣く