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「じゃあ、カンナ送ってから帰るから」
「気をつけてねー」
姉に見送られ、来斗は店を出た。
どんなことがあっても、いつも、ほよん、としている姉は、今日も緊張感のない顔で手を振っていた。
……いや、身内にこんなことを言うのもなんだが。
一応、ねえちゃん、かなりの美人なんだか。
なんか見てると、気が抜ける顔なんだよな。
まあ、この緊張感のなさが、いつも気を張ってる社長にはいいのかもしれないけど……。
口ではいろいろ言ってはいるが。
あれだけ大変なことがあったのに、ちっとも変わらず、ぼんやりしている姉を実は尊敬している。
そんなことを考えながら、来斗は車に乗る。
助手席のカンナが、あかりに頭を下げたあとで言った。
「あのお茶」
「え?」
「相当ぐるぐる回ってますよね」
よそでも見ました。
カンナは、そう言ったあとで、
「でも、誰も飲む気にならないお茶を作って発売するって、ある意味すごいですよね」
と感心したように言う。
いや、『感心したように』というのは、表情の動かないカンナの心を勝手にこっちが読み取っているだけなのだが。
だが、いつも、カンナは、
「違います。
そんなこと思ってません」
とか言ってこないので、自分の読みは大体当たっているのだと思う。
「まあ、誰も飲みたくならないものを作るのもすごいけど。
誰も捨てる気にならないのもすごいと思うよ……」
そう言いながら、来斗は車を発進させた。
「おねーさーん、喉乾いた」
翌日の夕方、店の前を掃いていたあかりの許に、子どもたちがやってきた。
……最初は『呪文教えて』だったのに。
要求がずいぶん変わってきましたよ、と思いながら、あかりは、子どもたちによく冷えた氷入りの水をやる。
勝手にジュースとかあげたら、親御さんたちに怒られそうだしな、と思いながら。
そこで、あかりは思いつき、店の奥から茶色い紙袋に入ったものを持ってきた。
「あ、ねえねえ、君たち、このお茶いらな……」
「いりません」
「ごちそうさまでしたー」
……子ども、勘がいいな、と思ったとき、買い物帰りらしい小さな子どもを連れたママさんがやってきた。
「あっ、こらっ。
また、おねーさんにたかったりしてっ。
すみませんっ」
いつも見る男の子が、ぴゅっと物陰に隠れる。
「いえいえ、いいんですよ」
「すみませんっ」
もうっ、と隠れている子どもの方を睨んだあとで、
「あっ、そうだっ。
今度、なにかお店で買わせていただ……」
とママさんは言いかけたが、店の中を見て困る。
「あ、えーと……
ここ、占いのお店ですか?」
「……違います」
何故、占い。
なんかちょっとランプで怪しい雰囲気だからだろうか。
「あらそうなんですか。
占いのお店だったら、占ってもらおうかと思ったのに」
と笑うママさんに、
「……占いましょうか」
と言って、
「え?」
と言われる。
「そういえば、仕入れたけど、売れないタロットがあるんですよ。
綺麗な柄なんで使ってみたくて」
あ、もちろん、タダですよ、とあかりは笑った。
あかりは、なんだかんだで、そのママさん、|大島穂月《おおしま ほづき》を占うことになった。
よく話を聞いてみると、穂月が今、連れている女の子は、日向と同じ、入園前のクラスに通っているらしい。
「うちは、毎度行ってるわけではないんですけど。
あかりさんが来られるのなら、次は行ってみようかな」
と言って、穂月は笑う。
確かに。
なんだか穂月とは気が合いそうだった。