コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
牛魔王の記憶の世界ー
牛鬼と悟空の間に、白い光が放つ中、その光景を黙って見ている人物がいた。
白金の髪を靡かせ、筆を走らせている男。
「そうか。お前は生まれ変わる事をやめ、悟空を助けるのだな。」
シャッ、シャッ。
「愛とは、些(いささ)か興味深い感情であるな。」
白金の男はそう言って、口元を少しだけ緩ませた。
孫悟空ー
白い光が目の奥まで光らせる。
眩しいが、どこか心地の良い光だと感じさせられた。
金木犀の香りが、フワッと鼻を通る。
目を開けなくても、目の前にいる事が分かる。
「爺さんなんだろ、俺をここに呼んだのは。」
「だったら、目を開けたらどうだ?悟空。」
爺さんに促されるまま、目を開ける。
目の前にいたのは、やはり爺さんで、俺の知っている姿のままだった。
白髪の髪と髭、顔は皺だらけで、低い声。
「爺さんが、俺を助けたのか。」
「あぁ、そうじゃ。見たじゃろ?わしの過去を。花
妖怪達を殺し、妻を化け物にし、息子を殺され。牛鬼は、宇轩の残りの意識に名前を付けたんじゃ。」
「残りの意識って…?」
「宇轩の、わしに対する憎しみの意識。憎しみと言うのは、死んでも尚、生きている意識なんじゃよ。」
憎しみ…、負の感情とも言える意識。
呪術に使われる最もな材料だ。
だから、牛魔王は爺さんを殺したのか?
「あの時、わしは牛魔王に殺され、成仏するだけだと思っておったがな…。お前が心残りじゃったよ、悟空。」
爺さんはそう言って、俺の顔を見つめた。
「だから、成仏せずに彷徨ってたのかよ。」
「なぁ、悟空よ。わしに聞いてくれんか?牛鬼が、
妻に言った言葉を覚えておるか?」
爺さんの言っている意味は分かってる。
牛鬼が交わした誓約を、爺さんは俺と交わそうとしている。
「爺さん、アンタは生まれ変われなくても良いのか。この記憶が残らないまま、違う道で生きた方が…。爺さんは幸せになれんじゃねーの。」
俺は、爺さんを化け物にしたくない。
化け物にしてまで、こんな世界に残したい訳じゃない。
「わしは、もう生きる事に未練はないんじゃよ。」
「は…?」
「お前や、妻、宇轩に関する全ての記憶が残らないまま、生きる事を望んでおらん。それに、今までして来た事に対しての罪滅ぼしにもなっておらん。」
爺さんは言葉を続ける。
「今、花の都に牛鬼が来て、美猿王と戦争を始めとる。そこに、小桃ちゃんやお前の仲間達も巻き込まれ、戦場に立っておるんじゃ。」
「せ、戦争!?ど、どうなってんだよ…。」
「どうやら、美猿王はわしが小桃ちゃんに渡した経文を奪いに来たんじゃ。三蔵と言う坊主も、小桃ちゃんが経文を持っている事を知った様子じゃな。」
「おい、爺さん。前に花の都を行った時に渡したんじゃねーだろ。俺が知らない間に、また行ったのか。何で、おチビに経文を渡してんだよ。」
そう言って、爺さんに尋ねる。
「小桃ちゃんが経文に選ばれたからじゃ。」
「選ばれた?経文が、人を選ぶって言うのかよ!?意味が分かんねーよ。経文って、ただの巻き物だろ?」
「経文は、普通の巻き物ではないよ。あれは、異能な力を持つ巻き物であり、神に等しい力を持つ。経文が全て揃ってしまえば、世界を変える事が出来る。また、使い方を変えれば、全ての人類をも滅ぼす事が出来る。悟空、お前が集めている経文は、ただの巻き物ではないよ。」
「だからか。観音菩薩や毘沙門天が必死こいて、探してんのか。それだけの力があるんだったら、欲しいに決まってる。」
爺さんの話を聞いて、経文に対する疑念が晴れた。
観音菩薩と毘沙門天が、経文を手に入れ、何をしようとしてるかは知らないが…。
どちらにせよ、世界を変えたいと言う事だ。
「なぁ、悟空や。お前は早く、仲間の所へ行った方が良い。」
「ここから出る方法を知らねぇ。爺さん、知ってんのか。」
「この札を使って、わしに誓約をしろ。」
爺さんは1枚の青色の札を取り出した。
札には誓約術と書かれてあり、どうやら誓約をする時に必要な札のようだ。
「悟空や、時間が無いぞ。わしの作った結界が壊されようとしておる。早くした方が良い。」
バキッ!!
爺さんの言葉の後に、何かか割れる音がした。
上を見上げると、白い空間に黒いヒビが入って来ている。
牛鬼が、この結界を壊そうとしてるのか。
バキッ、バキッ、バキッ!!
空間は音を立てて壊れ始めて来ている。
青い札を手渡した爺さんは、俺の肩に触れる。
トンッ。
「悟空、お前は何にも悪くない。お前を守るれるなら、わしは喜んで化け物になる。」
「何で、そこまでして…。俺を守ろうとするんだよ。」
「覚えておるか、わしがお前に悟空と名を与えた時の事。わしはぁ…、あの時の子供みたいに、照れてるお前の顔を忘れた事はない。」
「爺さん、本当に良いんだな。」
俺の言葉を聞いた爺さんは、黙って首を縦に振った。
青い札を爺さんの額に貼り、呪文のように言葉を放つ。
「爺さん、俺の事を愛してるか。」
「あぁ、愛してるよ。」
何て、重い言葉なんだ。
自分への愛を確かめているだけなのに、体に重圧が伸し掛かる。
「俺の事を守れ。例え、爺さんが愛した相手だとしても、殺せ。俺の為に、化け物になってくれ。」
そう言うと、青い札が光り輝いた。
バキバキバキバキバキバキ!!!
パリーンッ!!!
白い空間に大きなヒビが入り、先程までいた空間が広がる。
牛鬼は向日葵の女の化け物の髪を撫でながら、悟空
に向かって言葉を吐く。
「アハハハ!!お前も化け物にしたのか!?俺と同類じゃねーか!?」
悟空の体を包み込むように、大きな白い手の甲が見えた。
黒い法衣を着ていて、顔には大きな札が数枚貼られ、長い舌と牙、頭には白い布が掛けられている。
悟空よりも遥かに大きな体をした化け物は、威嚇するように奇声を上げた。
「キィエエエエー!!!!!」
ドコドコドコドコドコ!!!
奇声の影響で地面に大きな割れ目が入り、割れた地面が浮き上がる。
ビュンビュンッ!!
浮き上がった地面は、牛鬼に投げ飛ばされる。
シュルルルッ!!!
向日葵の女の化け物は、頭を振り回し、髪の毛を操る。
「ギィエエエエー!!!」
「アギャァァァァァァァァァ!!?」
ブシャッ!!
化け物になった須菩提祖師は、長い爪を向日葵の女の化け物の顔に突き刺す。
タタタタタタタ!!!
悟空は黙ったまま、牛鬼に向かって走り出す。
牛鬼は手のひらを広げ、影を操る。
シュシュシュシュッ!!
タタタタタタタ!!
牛鬼の目の前まで距離を積めた悟空は、如意棒に付いた刃を突き刺さす。
ビュンッ!!
悟空は陰の攻撃を如意棒に当たらないように、わざと体で受け止める。
怯んだ牛鬼の体に、如意棒に付いた刃を突き刺さした。
グサッ!!
「テメェと一緒にすんなよ、変態野郎が。」
その瞬間、悟空達の居るであろう空間が歪み始めた。
同時刻ー
小桃が美猿王の所に到着する少し前ー
源蔵三蔵 二十歳
戦場に着いた俺達は、目の前で起きている現状を目にした。
2つの強い妖気がぶつかり合い、血生臭い匂いが充
満している。
立っているだけで吐きそうだ。
「スッゲー事になってんな。」
「天界に居た時みたいな戦場だな、これは。おーおー、やり合ってますなぁ。」
猪八戒と沙悟浄は呑気に戦時を見て、話をしている。
「呑気に話してる場合かよ!?2人共!!」
「美猿王さん達が居るのは、中央です!!僕達は両側の敵にバレないように、進みましょう。」
「中央か…、分かった。」
俺達は黒風の指示の通り、息を潜めたまま、中央に向かって歩き出す。
キンキンキンッ!!!
「グァァァア!!!」
ブシャッ!!!
俺達の側で、妖怪達が斬り合い、黒いマントに飛んで来た血が付着する。
ブシャッ、ブシャッ!!
「うげ、手首が飛んで来たんだけど…。」
陽春は飛んで来た手首を払い除け、嫌な顔した。
トンッ!!
勢いよく誰かが俺にぶつかって来た。
「痛ってぇ…なぁ!?あ?」
ぶつかって来た妖は、俺の顔を見てハッとする。
「おいおい…、嘘だろ?」
「ッチ!!」
カチャッ!!
俺に気付いた妖が叫び出そうとしているのを見た猪
八戒が、紫洸盧銃口を向け、引き金を引いた。
「源蔵三蔵が居るぞおおおお!!ガハッ!!」
パァァァァン!!
ブシャッ!!
銃弾は妖が叫んだ後に、頭に当たった。
シーン。
急に静まり返った戦場は、一気に騒がしくなった。
「源蔵三蔵だと!?」
「まさか、美猿王様を封じに?」
「だとしら、黒いマントの連中は、三蔵一行か!?」
「殺せぇぇ!!」
ドドドドドドドッ!!!
妖怪達が一斉に、俺達向かって走り出した。
「隠れてもしょうがないだろ。」
パサッと黒いマントを脱いだ百花は、向かって来た妖の体を毒花の蔦で縛り上げる。
シュルシュルシュルッ!!
妖怪達は口から泡を吹き、意識を失った。
タタタタタタタッ!!
ガブッ!!
ブシャッ!!
走って来た白虎が、妖怪の頭を噛み、引っこ抜いた。
「仕方ないねぇ、頭。ここは、俺に任せて。」
緑来はそう言って、自身の体を煙に変え、妖怪達を取り囲む。
いつの間にか加減に変幻した陽春は、緑来の作った煙の中に入って行く。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
「ギャアアアア!!!」
「どうなって…、うがぁぁあ!?」
妖怪達が次々に、斬り刻まれて行く。
「あれ、やってんのは陽春達か?」
「うちの連中もやる時はやるからなぁ。」
猪八戒の問いに沙悟浄は、誇らしげに答えた。
ドォォォンッ!!
「っ!?」
足に鉛が付いたかのように、足が重くなった。
これは…、妖気の重圧か?
どうやら、この妖気の異常さを感じているのは、俺だけじゃないようだ。
沙悟浄や猪八戒、小桃、黒風の額に冷や汗が流れる。
周りの妖怪達は、この妖気が体に耐えられず、その場に倒れ始めた。
バタバタッ、バタバタ!!
俺は霊魂銃を構え、体勢を整える。
「あれぇ?!あそこに強そうなのが居るよぉ?」
目の前に現れたのは、返り血塗れの中華包丁を持った女だった。
その女に見覚えがあった。
「あの女って…。もしかして、美猿王の仲間か?」
「あれぇ?何で、僕の事を知ってるのぉ?おかしいなぁ、僕は会った覚えはないよ?あ、そこのピンク髪。王が殺すって言ってたよぉ?じゃあ、僕が殺しても良いよねぇ?!」
タンッ!!
そう言って、女は小桃に向かって走り出した。
物凄い速さで、あっという間に小桃の目の前まで、到着した。
まだ、小桃は刀を抜いてねぇ!!
俺は慌てて、小桃の前に出ようと走り出す。
「小桃っ!!」
「あははは!!」
ブンッ!!
キィィィン!!
小桃は刀を素早く抜き、中華包丁を受け止めていた。
「あれぇ!?いつの間に抜いたのぉ?」
「美猿王はどこ。」
「えー、王の居場所は教えないよ?」
キンッ!!!
中華包丁を弾いた小桃は、白虎の背中に飛び乗った。
ヒョイッ!!
「白虎、中央まで駆け抜けて。」
「…、分かりました。」
タタタタタタタ!!!
小桃は俺達を置いて、白虎乗って走り出してしまった。
「こ、小桃!?」
「あ、追い掛けなきゃっ。」
ビュンビュンッ!!
女は小桃の後を追い掛けるように走り出した。
「小桃はどこに行ったの!?」
異変に気が付いた百花は、大声で俺に尋ねて来た。
「まさか、美猿王の所に行ったの!?」
「あ、あぁ。」
「何で、行かせたの!!?ッチ、アンタも来なさい。」
「ちょ、ちょっと!?」
百花は俺の手を引き走り出した。
源蔵三蔵と百花が走り出した後、取り残された沙悟浄達であった。
「行っちゃったよ…!?」
「追い掛けるしかねぇだろ!!」
「は、はい!!」
急いで三蔵達の後を追い掛けようと、走り出した時だった。
黒風の体の中には、異変が起きていた。
早まる鼓動、頭の中には牛鬼の声が響き渡っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……、や、めろ。」
「ん?どうしたんだ、黒風?」
突然、足を止めた黒風の異変に気付いた猪八戒は、声を掛ける。
だが、黒風は頭を押さえながら、地面に膝を付いた。
「お、おい!?」
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。」
同じ言葉を何度も何度も、繰り返す黒風は正常では
なかった。
「黒風、マジで大丈夫…っ。」
グサッ!!
猪八戒の体を黒い何かが、突き刺さる音がした。
その音を聞いた沙悟浄は足を止め、猪八戒の方に視線を向けた。
ポタ、ポタッ。
「猪八戒!?」
「ガハッ!!」
ビチャッ!!
沙悟浄の問い掛けに答える前に、猪八戒は血を吐き出した。
「お、前…。どうしたんだよ、その体はっ…。」
猪八戒は、黒風の背中から出ている黒い棘を指差す。
「あ、あ、ああああああああああああああ!!!」
ゴギコギコキゴキゴキゴキッ!!!
黒風の体が音を立てて、変形し始めた。
もはや、元の黒風の面影はなく、細い体から沢山の棘が出ている化け物へと変貌した。
「ど、どうなってんだよ!?な、何で、黒風の体が、こんな事になってんだ!!?」
「黒風も牛魔王の血を飲んでたんだ。」
「飲んでた…?何で、お前が知ってんだよ。」
そう言って、猪八戒は戸惑いながら沙悟浄に尋ねた。
「ここに来る少し前、緑来から聞いた。黒風は、自分の体が牛魔王に操られるかもしれないって。そうなったら、自分を殺して、天地羅針盤を取って欲しいと言っていたそうだ。」
「お前が緑来と話していたのは…、この事だったのか。何で、黒風がこんな目に合わねぇといけないんだ!!」
スッ。
猪八戒が叫び終わった後、沙悟浄は鏡花水月を取り出した。
「沙悟浄…、お前。黒風を殺る気か。」
「猪八戒、1番苦しいのは黒風だ。俺は、黒風の願いを聞くつもりだ。お前はどうする?」
沙悟浄の言葉を聞いた猪八戒は、体から棘を抜き、紫洸を構える。
カチャッ。
「黒風…。俺は、お前を化け物のまま死なせねぇ。戻って来い、黒風!!!」
「キィエエエエー!!!」
ドドドドドドドッ!!!
化け物になった黒風は、沙悟浄と猪八戒に向かって走り出した。