「お邪魔しまぁす」
手をかければギィと軋む音がする古い扉をゆっくり開く。俺が足を踏み入れるまで暗かった室内も、声をかければパッと灯りがつき数匹のラタミが出迎える。
いや、ラタミだけじゃない。あの日、お祭りのときに買った変な置物も玄関に飾られていた。それに少しほんわかしながら靴の泥を落として廊下を歩く。彼はいつも通り寝ているのだろう。今日の差し入れをラタミに渡して、寝室へ起こしに行く。
「ぺいんと?」
「オワァーーーーーーーーー!?!?!?!?」
「うっるせ!?」
まさか起きているとは露も思わず、暗い部屋からのそのそと動くらっだぁに気づくことなく声をかけられたため心臓が止まるかと思った。
眠そうな瞳を瞬きさせながら耳を塞いでいた彼は少し経ってから手をどけ、俺の背後にあるクローゼットへ手を伸ばす。起きていたことは驚いたが、いうて寝起きか。この時間帯に起きるのは変わらないらしい。
「珍しいじゃん、俺が起こすより先に起きてるの」
「ん〜、まぁねぇ」
そう言って大きく欠伸をする彼はとても眠そうで、よく見れば目の下にクマもできている。ラタミも普段より面倒見がいい…?おぼつかない手でシャツのボタンを留める彼の口にせっせとポーションを流し込んでいる。
「建国祭ぶりだけど、何かあった?急に建国祭のあと当分来るなって言って」
「ん、と…まぁ色々とあんのよ」
建国祭の日、ラタミへのお土産を選んだ後一段落したクロノアさんトラゾーと合流して、様々なアメニティで遊び、最後の〆である花火の100連発を初めて見るというらっだぁに最高の景色を見てもらうために、4人で山のてっぺんまで行った。その時のらっだぁの瞳の輝きようといったら…大変な山道を歩いた甲斐があるというものだ。
そして、余韻に浸っている中らっだぁは当分森に近づかないで欲しいと告げた。一瞬二度と来るなという意味だと勘違いしてしまった俺が大変取り乱したのだが…よくよく聞けばやることがあるからというだけで、それが終わったらまた来ても大丈夫ということらしい。やること、というのが何かはわからないがまぁ出禁でないなら良かった、と安堵したのだった。
そして建国祭から数日後、ともさんを通して来訪可の連絡が来たのでその翌日に突撃しているというわけだ。
「あー…ぺいんと、悪いけど、俺ちょっと寝るから。なんかあったらラタミ使って」
「えっ!?あ!寝るの早ぁ…」
起きたかと思えば、リビングのソファで布団を被って眠りについてしまった。だが彼の目元には確かに濃いクマがあることも事実。少しやつれている気もするし…ラタミとも顔を合わせ、寝かせてやってくれ的な表情をされたので仕方なく大人しくしていよう。
「えっ、あーー!!くそぉ、負けたぁ…」
「ピィッ♪」
らっだぁが起きるまで、ラタミとチェスをしたりカードゲームをしたりして時間を潰していたが、らっだぁが起きる気配はない。そうこうしているうちにもう帰らなければならない時間だ。俺のために置かれたこの時計はもう日の入りの時間を指し示していた。名残惜しいが無理をさせてまで遊びたいわけではない。それよりも早く彼の疲れが取れてくれればいいなと思う。
サラリと彼の藍色の髪を撫で、ラタミに感謝を込めたハグをして玄関をくぐった。見えなくなるまで手(羽)を振ってくれるラタミに何度も手を振り返し、森を1歩出たところ。あまり見かけない、しかしとびきり美しい翡翠の瞳を持った少年が立っていた。
「…あれ?君どうしたの?」
「………」
少年はじっとこちらを見つめるだけで話そうとしない。…本当に綺麗な翡翠だ、思わず飲み込まれてしまいそう…はっ、知らない子の顔を見続けるなんて不審者では!?
だが放っても置けない、一瞬視線を外しもう一度向き直れば少し顔がしかめっていた。え?俺なんかした?
「あ、あの…お父さんとお母さんは?」
「…ラダオクン…」
「え?」
「……ナンデモナイ、それより早く帰らないと日が暮れチャウヨ」
「えっ、あ、ほんとだ…君は───」
日の傾きを確認するために視線を上に向けて、視線を戻せばあの少年は消えていた。…幻覚でも見ていたのだろうか?でもそれにしてはリアルだったような…
「うーん…?何だったんだ…?」
「あ、やっほー。人間界行ってたの?」
「ウン、ラダオクン結界強化シテタ。また解析し直サナキャ…シカモあのニンゲンに魅了かけて色々話して貰おうとしたのに失敗シタ…クソ」
「あはは、やっぱり?会いに行くのは焦燥だったかなぁ、ねぇ、きょーさん」
「…うるせ、何百年ぶりにあいつが森から出たんやぞ、行きたくもなるやろ」
「更に警戒されちゃ意味ないでしょうが!!しかも俺ら会えてないし…」
「まぁ落ち着けや鈴木」
「鈴木言うな」
コメント
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うがぁぁぁぁぁ!!!運営だぁぁぁぁぁ!!!鈴木ぃぃぃぃぃ!!!(???)