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「お疲れ様美夜ちゃん」
「お疲れ様です草田さん」
放課後、迎えに来てくれた草田さんの車に乗り込む。
「まず、みんなの反応はどんな感じだった?」
「そうですね。いろいろと覚悟はしていたのですが、びっくりな展開でした」
「見向きもされなかった的な?」
「まさかの真逆ですね。全校集会の後は校長先生とお話をしていてなにもなかったのですが、次の休み時間からクラスのみんなに囲まれていろいろと嬉しいことを言われました。『霧崎さん人助けなんて凄い!』とか『探索者ならもっと早く教えてくれよ。応援してたのによ』とかとか。もう、みんな順番なんて守らずに喋り始めるから聞き取るのが大変でした」
「あらあら、それは嬉しい悲鳴というやつね」
あんなに人の圧を感じたのは初めてだった。
順序とかいろいろ違うけど、もしも自分がアイドルで人気になったとしたらあんな感じになるのかな、なんて今更ながらに考えてみちゃう。
こんなことは滅多にないんだし、ちょっとぐらいは舞い上がってもいいよねっ。
「あら、随分と楽しそうじゃない」
「えっ」
「鏡越しでもわかっちゃうぐらいには頬がゆるゆるになってるわよ」
「つい嬉しくなっちゃって。あんなに沢山の人に褒められたりしたのが初めてで」
「大丈夫よ美夜ちゃん。美夜ちゃんは間違いなくこれからもっと大きな存在になる。そしたら褒められるとかそんなものでは済まなくなるわよ。それはもう名声ってやつね」
「そうなれるよう、私も今以上に頑張りますっ」
「その意気よ」
私今、多分物凄くニヤニヤしているんだろうなぁ。
「あっ、そういえば校長先生から、なんだかよくわからないアクセサリーをいただきました」
バックミラーに映るようネックレスみたいなものを取り出す。
「校長先生からのプレゼント?」
「どうやら違うみたいです。なんだか、私が助けた人との繋がりがある企業さんからの提供してもらった配信できる機材みたいです」
「あ~それが例のやつね。なるほど、そんなもので配信ができるっていうのは、確かに凄いわね。素人の私でも頷いちゃうわ」
いまいち話が読めない私は、勝手にモヤモヤを抱いてしまう。
「ごめんね。私も全部を理解しているわけじゃないから詳しく説明はできないんだけど、そのネックレスは今は世界で1つしかない代物なの。なにが凄いかっていうと、世界初のダンジョンで配信ができるって感じ」
「え、ダンジョン内って通信機器の類はほとんど機能しないで有名じゃないですか?」
「そうなのよ、だからすんごいの。まさにそれを実現させてしまったという、ね」
「全容はわからずとも、凄さを理解し始めました。じゃあ、この先端部分? についているこれがカメラとかの機能になっているってわけですね」
紐状の紐とは言えないものでできた部分の先端にある、親指の爪ぐらいしかないどこかでみたことのある輝きを放ちそうなものを眺める。
「もしかしてこれって魔鏡石を加工して作られているんですかね」
「ん~。私はそこら辺のことを知らないけど、たぶんそうなんじゃないかな。魔鏡石を加工する技術も今ではそういう物にも用いられ始めてるってことなんじゃないかな。よくわからないけど」
「魔鏡石といえば、燃料や発電とかのエネルギーになるから需要が永遠にあって、だからこそ探索者という仕事ができていますからね。私も全然わからないですけど、人類の進歩ってやつですかね」
「かもしれないわね~」
普通校に通っている私は、本当にそれぐらいの知識しか持ち合わせていない。
探索者育成学校でも、魔鏡石の使用用途はエネルギー関連のものだけしか習っていないから、こういう使い道もあるのを知れるとかなり新鮮。
「さてさて、美夜ちゃんは紆余曲折あったものの、堂々と探索者としての活動ができることになったわけだけど。これからはどうする? いろんな移動時間を短縮できたおかげで、ストレス発散以外にもダンジョンに行けるわよ」
「そうなんですけど、今のところは探索者としての目標は胸を張って掲げられそうにないので、今まで通りでもいいのかなって思ってはいます」
「まあそうだよね」
「だけど、少しだけ考えていることはあります。探索者として有名になってアイドルでも人気になって、いろんな人に元気や勇気を届けられるようになりたいって。だから、これから始まる配信者になるっていうのはそれを叶えるためには必要なのかなって」
元気を届けたい、勇気を届けたい、これだけは最初から変わらない想い。
それを叶えることができるなら、その手段があるのなら、挑戦してみたい。
「そしてここ最近のことを踏まえて思うのが、困っている人を助けるっていうのも、なんだかいいなって思い始めています」
「なんて凄いことを言い始めるの美夜ちゃん」
「え、マズかったですか……?」
「普通はそんなことを思う人っていうのはまず居ない。そして、危機的状況を目の当たりにして行動できる人っていうのは限りなく少ない。さらにはそれを生き甲斐だ、なんて言える人は全国を探してもそうそうみつけられないわ」
「そんな大袈裟な」
「ちょっと誇張しているけど、世間一般的にはそんな感じなのよ。だから行動するなとは言わないけど、無理はしすぎないでね。美夜ちゃんの代わりなんてどこにも居ないんだから」
「き、気を付けます」
途中までは明るい口調だったけど、最後の方は真剣な感じだった。
そだよね。
私は1人で活動しているわけじゃないんだから、周りの人に迷惑をかけるような真似はできるだけ避けないと。
トラブルに自分から飛び込むようなことは特に。
「これからどうする? 直で家に帰る?」
「そのつもりでしたけど、その様子だとなにかありそうです?」
「せったくならさ、ダンジョン配信をしちゃおうよっていう提案なんだけど」
「なるほど。たしかに、テストはしてみないとですもんね」
「そうそう。そしてこの時間だったらたぶん人は来ないし、いろいろと試せると思うから」
「たしかに、それは名案ですね。ではその方向で行っちゃいましょう」
「設定とかはあっちに着いてからにしましょう」
「わかりました」
「よぉし、テンション上がってきたぁっ」
「草田さん、テンションは上がってもスピードは上げないでくださいね」
「わ、わかってるわよ」
その様子だと、間違いなく高ぶり始めた気分のままスピードを上げようとしていましたね。
でも、こんなに早く配信者として活動できるようになるとは思ってもみなかった。
右も左もわからないけど、頑張ってみよーっ!