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もちろん、以下は『文豪ストレイドッグス』の世 『やってみ給えよ──やれるものなら』
「はぁーい、そこまでー」
その声が響いた瞬間、張り詰めた空気が一気に弛緩する。空間を包んでいた異能力の気配が、すぅっと音もなく霧散していった。
太宰治。
聞き慣れた声。ずっと、ずっと会いたいと思ってた。
けれど、私は──
「邪魔はするな」
そう芥川くんに言われて、物陰から静かにそのやり取りを見守ることにした。
太宰さんは、最初から樋口ちゃんの計画に気づいていたらしい。こっそり仕掛けた盗聴器で、全部聞いていたんだって。
(ほんま、こういうとこズルい)
「ほんと、女たらしやねんから……」
思わず漏れた呟きは、誰の耳にも届かず、夜の闇に紛れて消えていった。
芥川くんが静かに言う。
「人虎には、現在闇市で七十億の懸賞金が懸けられております」
(……え、あたしそんなの知らんかったねんけど)
衝撃に思わず眉をひそめたけど、声に出すことはできない。今は、黙って見届けるしかない。
「探偵社には、孰れまた伺います。その時、素直に七十億を渡すなら善し」
「渡さぬのなら────」
太宰さんが、笑った。
「戦争かい? 探偵社と? 良いねぇ、元気で」
その余裕。
その眼差し。
ああ、やっぱりこの人は、太宰治だ。
芥川くんが一歩、前に出る。
その背を見て、私は思う。
まっすぐで、不器用で、でも、どこまでも強くて。
だからこそ、彼はこの人に憧れて、追い続けるのだと。
「やってみ給えよ────やれるものなら」
一瞬の沈黙。
そしてまた、何かが動き出す気配。
(カッコ良いんねんよ……相変わらず)
心の中で呟いて、私は目を閉じた。
まるで、二人の行く先を、祈るように。