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「指揮、来たぞ」
「来たと言われましても、今何時か分かっていらっしゃる?」
「……10時、ですかねぇ……」
「私はいつにここに来てと言いましたか?」
「……9時、ですかねぇ……」
「1時間も何をしていたんですか?」
「……睡眠、ですかねぇ……」
「天に召されてください」
「すみませんでした」
久しぶりにぐっすり寝れたので、指揮の部屋に着くころには集合時刻一時間後だった。
今までマジで5時間くらいしか寝れてなかったのもあり、9時には起きれるだろと思っていたのだが。
体調って不思議。
「で、話って?」
「結論から言いますと、貴方に殺してほしい相手がいるのです」
「お断りしまーす。法は犯したくない」
「まあ最初から承諾されていたら驚いていましたけれども、きっと話を聞いていただければ理解を得れると確信しております」
「いや無理だって。殺人委託に納得したら終わりだよ本当に。んでも、話は聞いとくか。殺してほしい相手って誰だ?」
「複数居ます」
「ふざけんなよ……。一人ならまだしも複数って、まともに完遂させる気あんのか?」
「あります。理由はたくさんありますが、第三ゲームで私達参加者とネームドとの戦いがありますよね。その時に、わざとターゲットを殺させればいいのです」
「無理」
「簡単ですよ。勝てないような雰囲気を出して、逃げ回っとけばいいんです。それでターゲットを殺せば」
「あのな?俺は方法が分からないから無理って言ったんじゃなくて、単純にお前の復讐に付き合いたくないって意味で無理と言った。俺に身内の問題を押し付けないでくれないか?」
「ああ、そういうことですか、失礼いたしました。では、逆にお伺いいたしますが、木更津さん側に利があれば協力して下さるのですか?」
「まあそうなるけど」
「では簡単ですね。このターゲットを殺すことで、私にも貴方にも利がありますから」
「は?んなことある?」
「木更津さんが今一番やりたいことってなんですか?」
「えー、やっぱ兄ちゃん2人と脱出することかな」
「ですよね。実は今回殺してほしい人物は、そのお兄様の重要な秘密を握っていて、かつ私達の敵、と思われる人物です」
「そんなやついるのか?」
「ええ。とても簡単な答えですよ。楊梅花芽さんとtearさん。いえ、正確には楊梅花芽さん、ただ一人です」
「……は?え?いやだって花芽もtearも死んでるだろ?しかも正確には花芽一人って何?」
「驚く気持ちも分かります、私だって未だに信じられません。しかし、花芽さんとtearさんが同一人物で、かつ今も生きていないとおかしいのも事実なのです。そして、彼女こそ最も殺すべき存在であることも」
「いやいやいやいやいや。納得できるかよそれ!!」
「一つ一つ整理して行きましょうか。まず、第一ゲームで花芽さんは、あなたと貴志さん、そして天神さんと一緒に動いていた。そして、その最中に貴志さんを殺害した。その認識は平気ですよね」
「そりゃあそうだな。で、花芽は俺達に敵対してきた」
「ええ。ですが、それよりも重要なのは花芽さんが貴志さんを殺したという点。貴志さんは輝煌グループの御曹司ですし、先ほどのCDから察するに、彼女は神化人育成プロジェクトに多大な貢献をしているのではないでしょうか。そんな貴志さんを一番最初に殺した。しかも、花芽さんはネームドですらない、ただの参加者なのに。おかしくはないですか?」
「確かに、今思えば、参加者同士で戦うなんて珍しいよな。大体ネームドが襲ってくるイメージだし」
「今日、花芽さんの部屋から最下層への通路が見つかったことで確信したのですが、彼女は間違いなくネームド側の人間ではないかと」
「それだとおかしくないか、だって貴志はネームド側の奴だろ?同士討ちしてることになっちまうし」
「そこでお話したいのが、私の名前が書かれたCDの内容。良ければここで一緒に見たかったのですが、残念なことにここではCDを見れないので……端的に話しますね」
指揮の話を簡単に要約すると、まずhappyが指揮の母と話していた。
ここの内容は俺のCDと同じ感じだが、一点だけ違う点があった。
というのも、俺の方では最初から参加者を希望していたが、指揮の方はネームドを希望していたらしい。
そして、ネームド希望者専用の部屋に連れていかれた。
そこに「楊梅花実」という人物がいた。おそらく花芽の母に当たる人物だ。
花実も花芽をネームドにすることを望んでいて、指揮は花芽のライバルになる、なんて言う話が出ていた。
どういうことかと指揮の母が聞けば、なんとネームドの枠が一つしか開いておらず、その枠に滑り込む人たちが専用の部屋に入れられていたらしい。
そのネームドの名前はtear。彼女は並外れた身体能力や分析能力を保持した人物が選ばれるらしく、明らかな人外有利だった。
そして人外である花芽は当然条件を満たし、指揮を抜いて晴れてtearとなれたのだ。
だが、花芽はその時斬人でなかったらしい。
彼女はその時卯人の姿をしていた。
……というのがCDの内容だ。
「……は?えだって花芽は斬人のはずだろ?それなのに……卯人?」
「ええ、確かに彼女の腕に刃は生えておりませんでしたし、頭に生えた兎の耳に下半身に生えたしっぽが卯人であることを物語っていましたよ。なんなら、CD内で花実さんが花芽は卯人だと紹介していました」
「え、でも斬人ってのも事実だよな?もしかしてそれがおかしい?」
「いえ、彼女は卯人でもあると同時に斬人でもありますよ」
「はぁぁぁ??でしかもネームドの姿と参加者の姿両方あるのおかしいし……blossomとかがあいつら別人だって言ってたぞ?」
「そうですね。blossomさんはそのころ「クソ女」ですとか「仕方なく協力する」ですとかおっしゃっておりませんでしたし、その頃は敵だった可能性はありますよ」
「いやまあ……確かにそうだけどさ、一番デカい問題が解決してないだろ??なんで姿が二つ、いや三つあって、種族を変えることができるんだ?」
「思えば、非常に簡単なことです。彼女の正体は、人間でも斬人でも卯人でもなくーー」
「ーー黄落人です」
「……黄落人?」
「黄落人をご存じですか?」
「そりゃ知ってるけど。他人の姿に変身できる人外のことだよな……ああそれで、卯人とか斬人とかに変身してたってことか?」
「ええ、それならありえるのではと思うのですが、いかがでしょうか」
「まあ確かに」
「しかも、tearさんが登場したのは花芽さんが亡くなってからすぐ。二人が同時にいたことはないんです」
「確かに……でもtearは死んだだろ」
「いえ、花芽さんは今も生きています。そもそも花芽さんは亡くなってからtearとして再び登場していますから、なんらかの回復手段を持っているのではないでしょうか。その手段をtearとしての自分が死んでからまだ使っていないなんてこと、ありますかね。花芽さんを黄落人とすれば、今も誰かに変身している可能性も」
「じゃあ、花芽は今も生きてる可能性が高いってことか。……会いに行きたいな、ただただ純粋に」
「ええ。私も会いたいです」
「……でも俺に殺せって言うんだよな」
「別に、今までの話を聞いて殺す必要はないと感じたのであれば殺さなくて構いません。私も正直かなり混乱していまして、正常な判断ができなくなっている可能性がありますから、第三者の意見が聞きたかった、というのが一番大きな目的です」
「俺は……そうだな、正直殺さなくていいと思う。ネームドと繋がってるって言うのも事実だけど、上と繋がってるとは必ずしも限らないからな。現に上以外のネームドは概ね味方、みたいな話もblossomがしてくれてたし。ネームドと繋がってるイコール兄ちゃんたちともかかわりがあるかもだしな。一回話してみるのも大事かなって思うけど、逆にお前はなんで殺そうと思ったんだ?」
「怖いからです。黄落人で、しかも色々な顔を持っているし、卯人に変身すれば身体能力と二つの能力で、天神さんレベルに匹敵するかもしれません。そんな人物がネームドともつながっていて、おまけに私に関しては過去のライバルですから、何か特別な感情を抱かれていても不思議ではない。思考が読めないからこそ、リスクもあるなと」
「言われてみれば、ネームドと繋がってて姿も自由自在なやつが過去のライバルって怖いな……そりゃあ他人に殺してきてほしいわ」
「そういう気持ちもあって、なるべく戦闘が出来て信用がおけそうな方に話しておきたいなと思ったのですが、私の事信じてくださいますか?」
「まあ……普通に花芽の事も気になるし、最下層にも行ってみたかったからいいぜ。その代わり、俺の兄ちゃん探しに協力してくれよ。あと、俺は誰が花芽なんだろうとか、そういう推理は苦手ジャンルだから、それはお前が頑張ってくれ」
「ええ、当然です」
*
「……な、んで、お前、が……」
「別に簡単な事じゃないですか。”黄落人は二人居たっていい”んですよ」
「嘘だ……そ、んな……ぁ……」
目標が息絶えるのを見て、私はほっと安堵のため息をついた。
そんな安心もつかの間、ドアをノックする音が聞こえる。
十中八九霧斗さんだろうし、命の危険はないが、この死体を隠ぺいする時間がないのはまずい。
無暗に人を殺すなとか言われる予感がするし、あの人は”死体が嫌いな殺し屋”。
多分私に強烈なアッパーを食らわせた後捨ててこい!なんてものすごい剣幕で言われるんだろう。
「あー、霧斗さんですか、今そのちょっと立て込んでて」
「人様の部屋で立て込むなよ、花芽。で、なんだこの酷いにおいは」
「あ、いや立て込み臭みたいな」
「開けます、強行突破です、部屋主の権限です」
ありえないレベルの音でドアを開けた霧斗さんは、私の目の前に転がる死体を見て「あちゃー」というような効果音が聞こえてきそうなジェスチャーをした後、私に強烈なアッパーを食らわせた。言わんこっちゃない。
そして大声で「捨ててこい!!」。言わんこっちゃない。
「外に捨てておきました」
「今回は本当に良くないんだが。どうして天竺を殺した?あいつの持つ能力を忘れたのか?」
「バグを追加する能力。これをambitionくんに使ってもらいhappyとbloodを弱体化して、星斗くんの能力の大幅強化をするんでしたよね。確かもうこの三人のやつは終わってるんじゃなかったんでしたっけ」
「そうだけどさぁ、まだあいつが残ってるだろ?」
「あいつって、もしやambitionくんですか?」
「そうだよ馬鹿野郎。いや確かにあいつには勝てるけど、失うものがデカすぎるだろ」
「例えば?」
「あいつ代償で感情無くしてくるだろ!!あの代償にバグ起こしたかったのにふざけんな!」
「まあ喜怒哀楽全部消えたらやばいですけど」
「本気で冗談じゃねえんだよ!!俺はともかく……切斗はどうする?!切斗の感情が消えたら、それこそ俺はなんのためにここまで頑張ってきたんだよ!お前のせいで俺の弟たちが!!お前も俺の計画を邪魔すんのか?!」
「違う!!私はただ、貴方が、貴方がここまで頑張ってくれてるんだってこと知ってほしくて……!!」
「黙れ、そんな広報活動はいらないって前から言ってんだろ!!お前の自己満のために兄弟が死んだら、俺は一体どうすれば!!」
「自己満なんかじゃなくて……!!」
「っるっせえなー!!お前は結局何がしたいんだよ!!貴志殺したぐらいでお前のお役目は終わってんのか?!」
「だから!!私は貴方が計画を遂行することより、貴方に生きてもらいたいの!」
「……は?」
「だって……あんな計画実行したら、貴方は……!」
「……最期までみんなの敵になっちゃうから!!」