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「それで、僕が何回も嫌だって言ってもやめてくれなくて、最初は殴らないでって思ってたんですけど……ちゃんと傷が残らないと先生が怒ってくれないから、一発でいいから強く殴ってくれって、学校休めるくらい大きい傷を作ってくれって、そう願うようになってて……きっと、僕が最初に殴られそうになった時に、思いっきり押しのけられてたら、そこまで虐められることもなかったのかなって思うとーー」
「ーー僕って本当に何もできない人だな、って、ずっと思うんです」
「……そうか。面白いものじゃな、現代の人間はそこで自分を責めるようになるのか。まあ、そこで他人を責められるようになっておれば、虐められないであろうということなのかもしれんが」
「やっぱそうですか」
「これはあくまで持論じゃが、初めに虐められる、虐めるというものは、きっと運なんじゃと思う。運が悪かった奴が、みんなのイライラのはけ口になるんじゃと。だから、お前がいじめられている原因はお前になかったと思う。でも、その後の振り返りがいじめられた被害者の唯一のチャンスで、そこで自分を責め始めたら、二回目以降もまた同じ目に会ってしまう。そういうものじゃと思っとる」
「……つまり、僕はもうチャンスがないんでしょうか」
「そうじゃな……まだ挽回できるかもしれん。……今、ほとんどの人間は最下層に居て、第三ゲームでの最終決戦に備えとると思うんじゃが、お前は、上を倒す側の人間を応援している。違うか?」
「合ってます。でも、僕的には……あの計画は流石に……」
「実行させたくないのか?」
「……だいぶ複雑です。確かにあの計画を実行すれば、神化人育成プロジェクトは中止になり、輝煌グループの悪事も明るみに出るでしょう。でも、それで勝ってどうなんだって気持ちがあって」
「そうか?彼の計画が実行され、上に打ち勝てば、それこそ少年の医療ミスの話も出てくるのでは?」
「僕の医療ミスが、輝煌グループによって故意に行われていて……ってことですよね」
「悔しくはないか?今の日本人はそんなことも知らずのうのうと輝煌グループ製品を使っておるのじゃぞ」
「……悔しいですけど……。僕はもう死んでますけど、せめて今生きてる人には生き残ってほしくて……」
「衣川は計画を確実に実行するじゃろう。もし計画を阻止するもんなら、もしかしたら衣川と戦わなくてはならんかもしれんぞ?そうしたら全生存は不可能じゃ。それに実行しなくて上に勝てなかったらどうする?200回完遂されれば、輝煌グループは英雄として語り継がれ、神化人育成プロジェクトは一般に普及する。そうなれば、もっと犠牲がでるかもしれんぞ」
「う……で、でも、あんなひどい計画は……」
「まあ確かにあの計画は酷いというか、雑というか。上を倒すための障害のことを一切考えとらん。上を倒す、上に対する対策だけを考えて、厄介なambitionや敵対する可能性がある兄弟たちに関しては無策で突っ込む、だなんて、戦神の私にも理解できん」
「ですよね……」
「ふむ。まあいずれにせよ、少年は今の幽霊状態を脱却せんとな」
「え、出来るんですか?」
「少年、まず今どういう状態か分かるか?」
「ええっと、まだよくわかってないんですけど、今僕は生きている状態と死んでいる状態の狭間にいる。普通の人は一回死んだら幽霊になんてならないけど、僕の場合死んだ状況が酷いから、お情けで幽霊の状態になってる。で、もう一回死んでしまったら本当に死んでいる状態になっちゃう……」
「そうじゃな。で、今から少年に紹介する方法は、一時的に誰かの体を借りて、幽霊状態から脱却する方法じゃ」
「なんか聞いたことある様な……」
「そう、第一ゲームで星斗とmessiahが行っていた方法じゃ。ただ、あいつらはありえない奇跡を起こしているから、普通はあんなノリで行うものではないんじゃ、そこだけ知っといてくれ」
「なるほど……確かに意味不明な状況でしたね」
「で、この方法にはいくつか条件があってな。まず一つ目、身体を貸す側と借りる側がすでに亡くなっていて、両方幽霊状態になっていることじゃ」
「じゃあ、僕と同じく幽霊な人をこの飛行船から探せばいいのでしょうか」
「そうじゃ。まあみんなが外と呼んどる、死体安置所にでも行ってみれば見つかるんじゃなかろうか。そして二つ目、身体を貸す側の死体が原型をとどめていて、そこまで大きな外傷がないことじゃ」
「どのくらいだったらいけるんですか?」
「まあナイフで5発刺されましたみたいなレベルならいける。でも、多少血が減ってる状態から始まるかもしれんな」
「折角お体をお借りしても死んじゃったらヤバいですね……」
「三つ目、これは二人ともが死なないためなんじゃが、両方の死体が近くにある……というか同じ建物にあることじゃな」
「えっと?す、すみません、僕にはよく……」
「少年の死体と、身体を貸してもらう人の死体。両方とも飛行船にあったら、二人とも元の体に戻れるかもしれん。現に、星斗とmessiahが生き返ったのはそれが原因じゃ」
「僕の死体って……そういえばどこなんだろ。多分地上の病院、だと思うんですけど。その場合どうなりますか?」
「そうしたら、少年は本当の意味で死ぬ。幽霊状態を経ずに亡くなってしまう。ただ、身体を貸してもらっていた人は生き返るじゃろう。あとは、勿論じゃが、身体を貸してもらっている間に何らかの理由で死んでしまったら、二人とも亡くなってしまうから気を付けるんじゃぞ」
「な、なるほど?結構難しそうですね、僕なんかにできるんでしょうか」
「いい感じの死体を見つけたら憑りついてみようって強く思え。そうすればまあ……いけると思うぞ」
「……まあ、頑張ってみます。今度こそは、何か成し遂げてみたいです」
「そうか。特等席から応援してるぞ」
*
「お早うございます、猫手さん、そして木更津さん」
「昨日は遅くまでお前の部屋で話し込んじゃったな、ごめん」「そもそも話を振ったのは私ですから」
「え、夜遅くまで女の子の部屋に年頃の男女が二人きりで……!?」
「……そういう意味じゃないからな?!俺未成年だからこいつに襲われたら強姦罪成立するからな!」
「私も未成年ですけど……別に、4浪のあなたがその場に居たら、きっと難しすぎて理解していただけないと思い、そうなれば説明しないといけなくて面倒だなと思ったからです」
「おおう……ぉおう……」「大ダメージじゃねぇか」「言いすぎてしまいましたかね」
「おぅ……それでぇ!結局今日は何するのさ!」
「威勢がいいですね……今日は花芽さんの部屋から続く階段を進もうと思っておりますが」
「ついに最下層に到達すんのか、いよいよだな」
「結構不安要素強いけど、もう行くしかないって感じだよねー」
「では向かいますか」
*
俺達は階段を下り始めた。
当初、階段はものすごく長く、果てしないように見えていたが、実際下ってみると意外とそんなことなく、2分位で最下層に着いた。
その場所は最下層の廊下のような場所だが、ネームド達と思われる人たちの部屋がずらりと並んでいる。
「ついに人類が最下層に到達した……!果てしない戦いだった……!」
「そんな階段長くなかったろ。でも、第一ゲームとかのなんも知らない頃と比べたら、俺達結構進歩してるよな」
「まあそうですね。……さて、これからどうしましょうか」
「部屋行ってみる?」
「行っちゃう?」
「……今回は偵察といった感じですし、もし下手にネームドに出会ったら殺されかねません。なるべく人気がなさそうな場所を行ったほうがいいかと思いますが、いかがでしょうか」
「まあ部屋の中でネームドとばったり会ったら言い訳できないね。イケメンの生着替えに突撃できるなら本望だけど」
「鍵閉めてる可能性を考えてみろよ」「考えてなかった……」「流石4浪」「さす4」
「でもなんかしたいだろ!折角無傷で最下層に来れたってのに……」
すると、指揮が口に人差し指を当て、
「あ、静かにお願いします」
といった。
どうした?と質問する前に、誰かの会話する声が聞こえてきた。
おそらくは、俺達でない限りはネームドだと思うのだが。
「え、、あんたなんでここいーー」
「ーーって……別に、普通」
「え、だってここ最下層ですよ?ただのーーがここに来ていいはずがーー」
「ーーだの参加者なら、の話っしょ。俺がただのーーのわけないってーー」
「マジで?……あ、もしかして同ーー」
「見りゃ分かるくない?ーー今誰か聞いてた?俺達の会話」
「確かに誰かいたっぽいけど……気のせいじゃないですか?」
「(小声で)やばくねこれ?」「ですね……」「とりまどっかに逃げよう」
俺達はなんとか来た道を引き返した。
話してた二人には気づかれなかったようで、とりあえず安心した。
監視カメラとかついてたら終焉だけど。
一旦休憩、といった感じでいつもの広場に集まり、各々飲み物を出している。
しばらくして指揮が話し出した。
「まずはお疲れさまでした」
「いやもう本当にびっくりした……ネームド二人に同時にバレたら死だよマジで」
「死ななくてよかったーっていう結論でいい……のか?」
「そうですね、最下層という場所はおそらく我々参加者が行ってはいけない場所ですし、生存できただけでもマシでしょう」
「でもさ、あの会話内容気にならない?気になるよね!!そうでしょ!!というわけで今回はあの会話内容について解説していくぜ!指揮ちゃんが!」
「はぁ……とはいえ、ここまでの短時間であれこれ考えるのは不可能でしたが、皆さんにも分かったことはあると思います。まず、所々聞き取れなかったとは思いますが、話していた二人についてですね。片方は参加者、もう片方はネームドでしょう。
そして、おそらくですがネームドの方はblossomさんでしたね」
「声がそうだったからな。逆に言えば、blossomじゃない方は参加者のはずなのに全然聞き覚えなかったよな」
「だよね。もしかして幻の参加者がもう一人とか!?」
「その可能性も実はあるんですよ。現に、私たちは第一ゲームの頃から参加者全員と話しているはずなのに聞き覚えが無い声をした方がいらっしゃるなんて、正直ありえません」
「でも参加者ではあるんだろうけど。あ、そういえばただの参加者じゃないって言ってなかったか?」
「ええ。ですから、多少特殊な方という場合もありそうですね」
「特殊って何、小指タイプ?」
「幽霊でしたら猫手さんにしか見えないはずでは?」「たしかし」
「特殊かあ……ネームドとは繋がってなさそうだったけど、輝煌グループの関係者とかか?」
「うわなんかそれありそう」
「そうですね……まあ、参加者とはいえ味方とは限らなさそうですし、あまり関わらない方がいいかもしれませんよ」
「うん、そだね……あ」
猫手は急に立ち上がり、辺りを見渡し始めた。
所々目を凝らしていて、何かを探しているようにも見える。
「どした?」
「あー、いや、またすぐ戻ってくると思うんだけど……えっと……」
「誰か探しているんですか?」
「う、うん。その、小指がいなくなってる」
「……え?」
「普段はちょっと遠い所からソーシャルディスタンス保って私たちの方見てるんだけど、急にどっかいなくなってて、ちょっと心配だなーって思っただけ」
「いつもは、その遠い所から動いたりはしていないんですか?」
「そう。でもいなくなっちゃってて」
「まあ確かに不安だな」
「……私、ちょっと探してくる」
そう言って、猫手は部屋の方に行った。
そして、偶然にも見えてしまったのだが、
猫手が開けたドアは、猫手自身の部屋でも、小指の部屋でもなく、
花芽の部屋だった。
「え、あいつ花芽の部屋行ってるんだけど」
「……もしや、最下層に?」
「嘘だろあいつ、あんだけ怖い思いしたのに今度は一人で最下層?」
「そこに小指さんがいるという確証もないでしょうに……。何か妙ですね」
「追いかけるか?」
「ええ。ただ、猫手さんより少し離れた位置から行きましょうか」
「つまり?」
「猫手さんを尾行しましょう。なるべく気づかれないように」