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夕方。真冬の海。
誰も冬にこんなところいないはずなのに君は一人でいた。
冷たい波が砂と一緒に貝殻ををうばっていく。
「どうして、ここにいるんですか?」
僕は彼女に聞いた。
彼女はこう応える。
‘’海が見たかったので‘’
と。彼女の足が海水に触れていた。
空は橙色から紺色に変わり始めていた。
神秘的な景色を背景に、白いワンピースの裾を風になびかせる彼女は綺麗だった。
こんな真冬に水に浸かっていて風邪をひかないか心配だ。
「冷たくないんですか?」
何も言わずに首を振る。
それなら辞めればいいのに、と思う。
「なぜ、ここにいるんですか?」
黒く綺麗な髪をふわりと浮かせ君はこう言う。
「もう何も期待してないので」
僕はこの言葉ですべてわかった。彼女がしようとしていることが。
何故こんなことをするのか。
凄く気になった。聞くことなんてできないけど。
ただ、何を言っても彼女は自分の決意を変えることなんてないだろう。
でもなぜかはじめて会ったはずの彼女に、「生きていてほしい」と思った。
「まだ、諦めないでください」
気づけば僕は、君にそう声をかけていた。
君は少し驚いたように目を見開いて、靴を履いた。
「それじゃあ、明日にします」
家に帰っていく、今にも消えてしまいそうな君を僕は静かに見送った。
上着を脱いだ。靴を無造作に放り投げる。
僕はもう諦めている。