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予兆─
ただ、ただぼうっと曲を聴いていた。
『君が居なくなった日』。
ピアノは美しく奏られ、儚く優しく音を出していく。
ねぇ、…………あなたに、この思いは伝わるかな
そうおもいながら、今日も聴いている。
ふと、こんなことを思い立った。
『弾きたい 』。そう思った。
ピアノの蓋を開け、優しく手を乗せる。
この曲は難しい。だけど、これが弾けた時、楽しい。
軽快なステップの入っているこの曲に、惹かれたのは私だから、責任もって最後までやろうと思った。
〜♪ 〜〜〜♪
女の子は、それを奏でた。見事なまでに、完遂してのけた。
卒業式の日。
卒業式が終わって、余韻に浸る春。
悲しむ者、泣く者、別れを笑顔で終わらせようとする者。
そこをすすっと通り抜け、音楽室へ足を運ぶ少女が独り。
「音楽室、空いてますか。」
「弾きたい曲があるのです。」と、彼女は言う。
音楽室の先生は、それを聞いて鍵を持って来、音楽室を開けた。
彼女は椅子に腰掛け、ピアノをひらいた。
卒業式の日。
あなたに、この想いは届くかな?
、、、 〜♪
音楽の先生は、ドアを閉じ、その前でじっと聴く。
彼女は、学校でピアノを満足に弾いたこともなければ、家でも少ししか弾いてこなかった。
それでも、君に捧げたくて。彼女は指を弾ませる。
〜♪
外まで、軽快な音が鳴り響く。儚く優しいその音は、周囲の者を惹き付けた。
「誰か、弾いてるんですか?」
部活の顧問に、別れを告げようとした子が複数。
いずれも、彼女の友達である。
「……さんが弾いていますよ。」
それを聞きびっくりする友達達。
そして、すぐ音楽室の前へ立ち、静かにその音を聴いた。
〜♪ ーーーー♪
凄いね、綺麗だね、弾けたんだ、と静かに。ざわめくのは友達達。でも、彼女はあの人が来るまでそれを弾き続ける。
〜〜〜♪
顧問に挨拶をし、ピアノの演奏へ耳を傾けた。
「誰が、弾いてるんですか?」
そう、告げた。その目は、誰かを探している様で。
友達達は答えた。「……」だと。
それを聞いた彼は驚く。と同時に、笑った。
優しい笑顔だった。
〜♪
まだ演奏は続く。軽快なステップと共に、彼女も頬が緩む。
ドアを少し開け、彼は中の様子を見ていた。
彼女は気付かない。
水紋が広がるようにし、彼の耳に留まっている。
今日は、伝えたいことがあってきていた。
友達たちはほっこりとする。なぜなら、彼こそが”あの人”だと知っていたから。
ピアノは、予想外だった。
だが彼女は、楽しそうにそれを弾く。
それを見て、彼も…………笑う。
曲は終盤にのしかかっている。
彼女は思いを馳せる。今日で、お別れなのだ。
楽しかった日々は、消えゆくのだ。
あまり、実感はしたくないもの。だが、彼女はピアノに夢中になっている。
吹奏楽部はその美しい音に感嘆を上げ、彼は、じっと聴いている。
〜♪ 〜〜〜〜♪
ーーー♪〜〜〜───………………
ぱちぱち、と小さな拍手。
彼女のピアノのお陰か、かなり、ふんわりとした空気が漂っていた。
静かに、その友達たちは褒める。
彼女は、あの人に届かなかったかと落ち込んでいる様子だ。
先生にも感謝を告げ、友達も帰り、さあ。彼女も帰ろうとした。
「待ってよ。」
その聞き覚えのある声。1番、聞きたかった声。
なによりも美しい、その声。
『見てて、くれたんだね。』
彼女は言う。嬉しさに堪えきれず、涙が出るのを抑えて。
「凄かったよ。あんなに綺麗なピアノ、俺には無理かな笑」
『……ありがとう。でも、きっと…「 」ならできるよ。』
「えっ。そんな事ないよww」
本当なら、彼女は聴いて貰えるだけで嬉しかったのに。褒められ、話せて、すごく、すごく幸せだ。
この曲の通り、高校は同じではなく、離れ離れになってしまう。
と同時に、この恋も、諦めようと思っていた。
少し、悲しそうな表情をする彼女。下に目線を落とす。
「話したいことがあるんだ」
そう、優しい笑顔の彼。彼女は、胸がドキドキした。
「ずっと……………………────────」
夜。彼女は1人でピアノを弾く。
『君が居なくなった日』。その曲を、ずっと弾いている。
スマホには、通話の画面と、嬉しそうなノートの投稿。
「相変わらず、綺麗。」
その声は美しく、なによりも聞きたい声。
居なくならないで。そういうようなピアノの演奏が、今日も始まる。
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