「……十二束三伏、弓は強し。」
小声で後ろからそう聞こえた。とても驚いている様子だった。
「……弓……すきなのか」
思ってもいない言葉が口からでた。焦って俺は、今のいった言葉を訂正しようとしていた
「ぁ、いや……」
「……えぇ、すきです。獲物を捕らえる目的で使われてしまうのは、少し残念に思います。わたくしは、弦音が大変気に入ります」
「「カン」や「キャン」といった高く短い音を出すんです。……いづれもいづれも素敵なものなのです」
頬を赤らめていた新之丞がいた。好きなものを好きといえる彼が羨ましかった。
「殿、こちらにいらしたのですか。」
「あぁ、素敵な人と出会えたんだ」
足音もせず、気付けば後ろには背の高い人が立っていた。
その人は俺をみるなり睨み付けるような顔をしていた。恐怖を覚えた
「殿、そちらは座敷わらしという妖怪です。早く離れになって下さい」
「……ミノルは、妖怪なのかい?」
驚いた表情をしていた。別に騙してなんかいない。
勝手にコイツが俺に近寄ってきたんだ…
「あぁ神様、こちらにおいでになられたのですね。」
俺は勝手に変な妄想をしていた。コイツが俺の事を手放すとか……そんなことするはずなかった。
俺の事を抱き締めて、新之丞はそう呟いていた
「殿……」
「わたくしの女房に見せたいのです。こんなにも、うつくし座敷わらしと出会えたのですと」
新之丞は、俺の事を最後まで手放さなかった。