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「……っ、あ……あ、……ぁ、……っ!!」
中也の掌が、じわり、と離れていく。 その瞬間、太宰の全身を駆け抜けたのは、安堵ではなく絶叫を伴うほどの凄まじい「波」だった。
出口を塞いでいた最後の砦が失われ、極限まで圧縮されていた熱い液体が、堰を切ったように一気に押し寄せる。太宰は白目を剥き、ソファの背もたれに後頭部を激しく打ち付けた。
「……あ、……ああああああぁぁっ!!!」
最早、止める術などどこにもない。 熱く、重く、濁流のような感触が、太宰の感覚をすべて支配した。 膝を揃えて耐え忍んでいた時間は終わり、自身の意思とは無関係に、すべてが吐き出されていく。
バシャバシャと、無慈悲な音が静かな部屋に響き渡る。 上質なソファの布地が瞬く間に色を変え、重みに耐えきれず、床へと雫が滴り落ちた。
「……ぁ、……あ、……っ、……ぅ、……っ……」
太宰は力なく口を開け、焦点の合わない瞳で虚空を見つめたまま、ただ激しく痙攣し続けていた。 あれほどまで自分を苦しめていた激痛が、ドロドロとした快感に近い解放感へと変わっていく。だが、それと引き換えに、彼が積み上げてきた「太宰治」という男の自尊心は、足元の水溜まりへと溶け落ちていった。
どれほどの時間が経っただろうか。 すべてを出し尽くし、ただの抜け殻のようになった太宰は、涙と汗にまみれた顔を中也の膝に沈めた。
「……全部、出しちまったな」
中也の低い声が、頭上から降ってくる。 中也は拒絶することなく、ぐったりとした太宰の頭を、大きな掌でゆっくりと撫でた。その手つきは、先程までの悪魔のような冷酷さが嘘のように、ひどく穏やかで、慈愛に満ちていた。
「……ぅ、……ちゅう、や……っ、……ごめん、なさい……っ」
太宰は子供のように、中也の服を掴んで咽び泣いた。 無様で、汚れて、救いようのない姿。それでも、中也は逃げようとはしなかった。
「……分かったら、もう二度と俺のワインを勝手に飲むんじゃねえぞ」
中也はそう言いながら、太宰の体を軽々と抱き上げた。 濡れた衣類を剥ぎ、新しいタオルで、震えの止まらない白い体を包み込む。
「……ねえ、ちゅうや……嫌いに、なった……?」
震える声で尋ねる太宰に、中也は呆れたような、それでいて深い熱を孕んだ瞳で鼻を鳴らした。
「……手前がどんなに無様でも、俺から逃げられると思うなよ」
その言葉は、どんな甘い愛の囁きよりも、今の太宰を深く、優しく溶かしていった。 ヨコハマの夜の静寂の中、太宰は中也の腕の中で、ようやく本当の眠りにつくことができた。