僕達は近くのファミレスで腰を下ろした
Cside
案内された席に着くなり互いに口を開かなかった
開かない代わりに僕は周りを見渡した
時間帯が夜だからか昼にあるような賑わいはなく静かに食事を楽しむ人達が数名、カップルらしき人達が2組程度だ
何も頼まずただ黙り続ける2人組
傍から見たら異様な光景だろう
周りに移していた目線を彼の方へと向ける
彼は僕に対して申し訳なさそうな表情で
俯いていた
彼と遭遇してから彼の姿をやっと見ることが出来た
前と同じカッコ良さは健在だったが
ウルフカットかと疑うくらい伸びた髪
このように絶望したようにハイライトのない目
筋肉質だった身体は痩せて以前の身体とは別人のようだった
貴方は貴方で何があったの……?
そう思っていた矢先
彼は少しずつ口を開け喋りだした
『ごめん、傷つけて…………』
『ころの望むように出来なくて………………』
それから彼はこうとも言った
『今の俺が聞く資格なんてないって……分かってるけど………………今までどこでどう生きてたんだ……?それと……………どうして援交紛いなことしてたんだ…?』
僕は生唾を飲んだ
僕が援交をしていた理由
どう過ごしてきたか
それらを話す…………?
それを知ったら今度こそ幻滅される
言える訳が無い
でも言わなかったら?
また僕は彼から逃げるの…?
彼はさっきから意を決して話しているのに?
『言いたくなかったら良いよ…元々俺にそんな資格もってないし…………』
『今はなんでもない”他人”………だし…』
他人という言葉は何故か僕の心に強く突き刺さった
そう発している彼の手や身体は震えていて
いつも強がってばかりの彼が
滅多に怯えなんか見せない彼が
震えている
あぁ言うのは勇気がいることだろう
なら
僕も
彼の勇気に
答えよう
S side
『ごめん、傷つけて…………』
『ころの望むように出来なくて………………』
2人が無言を貫く中、俺はそう彼に告げた
怖かった
でも俺が何かを発さないと
また
彼が逃げてしまう気がして
案外口を開いてしまうと他の言葉も出るものだった
出るものだがあまりにも喉から絞り出すように
『今の俺が聞く資格なんてないって……分かってるけど………………今までどこでどう生きてたんだ……?それと……………どうして援交紛いなことしてたんだ…?』
彼に俺はそう問いた
聞きたいこと、思っているものの箇条書きだ
告げた通りに俺には聞く資格なんてない
あればとっくの前に彼に聞いて問いつめているだろう
彼を傷つけた俺に聞く資格なんて無いけど
でもこのままこの彼との時間を終わらせたくなかった
たとえ答えてくれなくても
罵詈雑言が飛んできたとしても
何も言わずに引っぱたかれたとしても
万が一に答えてくれても
俺はなんでも良かったんだ
『答えてくれなくても』
当たり前だ、いきなりにデリケートな話題だ
答えれないのも無理は無い
『罵詈雑言が飛んできたとしても』
これも当たり前、”あんなこと”をやらかして彼がいなくなって見つけたと思ったら無理やり連れ出して、終いには「なにをしてた?」だ
怒りが湧き出るに違いない
でも声が聞けるなら…それでもいいと思えた
『何も言わずに引っぱたかれたとしても』
君のしたいようにやりたいように俺を叩けばいい
君にはそれをする資格がある
俺はそれを黙って受けていよう
君にしてしまった大罪からの罰なのだから
『万が一に答えてくれても』
例え君が答えてくれたとして
俺は
どういう思いをしながら聞けば
良いんだろうか
俺がそんなことに思考を巡らせている間
彼は戸惑って口をはくはくとさせていた
白く透き通っているが血色の悪い肌からは玉のような汗がぽたぽたと流れていた
「どうしたらいいのか」
迷っているようだった
そんな彼に俺は
付け足して
「今はなんでもない”他人”………だし…」
と告げた
苦しかった、こう伝えるのが
好きだったから
それが見て取れるように
体が震えていた
彼も”他人”という言葉が刺さったのか
余計の顔を強ばらせた
大きな目は更に見開かれて
薄い唇を噛んでいた
しばらくの沈黙の後
彼は
心を決めたように
こちらを向いて
ぽつぽつと喋りだした
本人関係なし
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