テラーノベル
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今日は久しぶりのOFF。しかも、NAOKOとデート!
仲直りしてから初めての、ちゃんとしたデート。
楽しみすぎて昨日はほとんど眠れなかったし、朝からずっと落ち着かない。
普段は日焼け止めくらいしかしない私も、今日は特別だ。
鏡の前で何度も髪を整えて、お気に入りのリップを塗る。
服も三回着替えて、結局いちばん「頑張りすぎてない感じ」のやつにした。
「……よし」
深呼吸をひとつ。
「今日こそ、ちゃんとかっこいいとこ見せるぞ」
そう気合いを入れて家を出た。
待ち合わせの場所に着くと、有線イヤホンをして立っている、私の大好きなシルエットを見つけた。
(……あ、いた)
私に気づいたNAOKOが、イヤホンを外してふっと笑う。
「コハル〜」
……っ、眩しい。
その笑顔を見るだけで、朝から頑張って積み上げてきた「かっこいい計画」が早くも崩れていく。
「……おまたせ」
なんとかそれだけ言うと、NAOKOは私を見て目を輝かせた。
「……あれ?コハル、今日なんかキラキラしてる。……めっちゃ可愛い!」
ほらね。
この人は、息をするみたいにそういうことを言う。
「ありがと…ナオコも、大人っぽくてすっごく綺麗」
そう言いながら、思わず見惚れてしまう。
今日のNAOKOはなんだか、いつもよりずっと「お姉さん」に見えた。
普段はラフでかっこいい格好が多いのに、今日は肩の出た大人っぽいニットにロングスカートを合わせていて。
「珍しいでしょ〜。今日のために買ったんだぁ」
「どう?……似合ってる?」
そう言って、首を傾げながら笑うNAOKO。
無邪気な仕草はいつものままなのに、その姿は普段よりずっと艶っぽく、女性らしく見えて、心臓が変な音を立てた。
「……うん。すっごく、似合ってる」
本当は、綺麗とか可愛いとか、色っぽいとか、全部言いたかったのに。
口にしたら本気で倒れそうで無理だった。
NAOKOは嬉しそうに笑う。
……だめだ。
このままだと、きっと一日中、私はこの人に振り回されることになるだろう。
そんな予感を抱えたまま、私たちは映画館へ向かった。
映画館に着くと、平日の午前中だからか人はまばらだった。
ロビーも静かで、休日なら長く伸びているはずの列も今日はほとんどない。
(……よかった。)
人混みの中だと、どうしても周りを気にしてしまう。
でもこれなら、ちゃんとデートっぽい時間を過ごせそうだった。
チケットを発券して、ポップコーンとドリンクを買う。
「塩とキャラメル両方食べた〜い」
「いいね。じゃあハーフ&ハーフにしよっか」
「飲み物はコーラでいい?」
「うん!」
素直に頷くNAOKOが、なんだか妙に可愛い。
こういう何気ないやり取りひとつで、胸の奥がじんわりあたたかくなるから困る。
会計の列に並びながら、私は財布を取り出した。
「一旦立て替えておくよ。あとで半分ちょうだい」
「ありがとう!じゃあお願いしまーす」
会計を済ませて商品を受け取ると、NAOKOがポップコーンを覗き込みながら嬉しそうに声を上げた。
「やっぱ映画の醍醐味って、ポップコーンやんな?」
「花より団子精神すぎない?」
「のんのんのん。”HANA”には団子でしょ?笑」
NAOKOは人差し指を立てて、得意げに言う。
「……お? うまいねぇ」
「でしょ〜」
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ふふん、と満足そうに胸を張る姿があまりにも面白くて、思わず吹き出してしまった。
しばらくして館内案内のアナウンスが流れた。
「行こっか」
ポップコーンとコーラを抱えて、私たちは薄暗いシアターへの通路を進む。
今回観るのは、話題になっていたロマンスホラー映画。
恋愛と恐怖、感情の揺れ方の勉強にもなりそうだし、今後そういう演技をする機会だってあるかもしれない。
……まあ、建前はそれとして。
正直、NAOKOが恋愛の演技なんてしたら発狂するけど。
誰かと見つめ合ったり、抱きしめられたり、甘い台詞なんて言われたりしたら――
無理。
想像しただけで胸の奥がもやっとして、私はひとり眉をしかめた。
「コハル? なんか怖い顔してるけど」
隣でNAOKOが不思議そうに覗き込んでくる。
「……何でもないよ。ただちょっと、映画の内容想像してただけ」
「確かロマンスホラーだったっけ?コハル怖いん?」
そう言って、NAOKOは楽しそうに笑う。
「大丈夫!ナオが隣にいるから」
そのまま、私の空いている方の手を優しく握った。
暗くなり始めたシアターの中で、彼女の手の温もりだけがやけに鮮明に伝わってくる。
(……そういうことじゃないんだけどな)
そんな私の複雑な乙女心を知ってか知らずか、映画が始まった。
スクリーンに映し出されるのは、美しくも残酷な愛の物語。
愛しすぎるがゆえに狂っていく登場人物たち。執着、嫉妬、そして逃げ場のない愛……。
ホラー特有の重苦しい重低音が響くたび、私は無意識にNAOKOの手に力を込めた。
彼女もまた、時折ビクッと肩を揺らしながら、私に身を寄せてくる。
そして、物語が佳境に入った時、そのシーンは突然訪れた。
血まみれの部屋。
壁にも床にも、深い赤が飛び散っている。
そこへ追い詰められたヒロインを、男が狂気じみた瞳で見つめ――そのまま、貪るように唇を奪った。
「……ぇ」
スクリーンの中で、逃げ場のない愛が絡み合う。
生々しい息遣いと、湿った音だけが、静まり返ったシアターに響いていた。
気まずい。
あまりにも気まずくて、私はポップコーンを掴む手さえ止まってしまう。
ふと隣を見ると、NAOKOがぎゅっと目を閉じ、胸の前で手をぎゅっと握っていた。
(……あれ)
いつもはあんなに余裕があって、かっこよくて、なんでも平気そうなのに。
(……ナオコ、怖がってる?)
その姿が、妙に愛しかった。
映画が終わり、外に出る。
「……すごかったね、映画」
「……うん。ちょっと、刺激強すぎたかも」
ロビーを抜け、駅の方へ向かってゆっくりと歩き出した。
映画の感想を語り合おうとしたけれど、どうしてもあの「生々しい愛」のシーンが頭から離れなくて、会話が途切れがちになる。
「……あ。ねぇ、コハル」
「えっ、あ、なに?」
不自然に肩を震わせて返事をした私を見て、NAOKOが何かを言いかけた、その時だった。
――ポツッ、と鼻の頭に冷たいものが当たった。
「……え?」
見上げた瞬間、まるでバケツをひっくり返したような土砂降りの雨が、空から叩きつけられた。
「わわっ! すごい雨……!」
「コハル、こっち!」
NAOKOに手を引かれ、近くのビルの軒下に滑り込む。
ほんの数十秒雨に打たれただけなのに、二人ともかなり濡れてしまった。
「ふぅ……びっくりした。コハル、大丈夫?」
自分のことより先に、私の顔を覗き込むナオコ。
濡れて雨を含んだ髪が細い束になって頬へ貼りつき、肩口の覗くニットも少しだけ肌に沿っていた。
冷えたのか、ナオコは小さく肩をすくめる。
その仕草ひとつで、いつもは「かっこいい」が先に立つ彼女が、今は別人みたいに無防備に見えて、息をのむほど綺麗だった。
ふと周りを見ると、同じように雨宿りしている人たちが、ちらちらとナオコへ視線を向けている気がする。
(見ないで……ナオコは私のなのに)
胸の奥で、じりじりと熱い感情が燃え上がる。
映画の主人公みたいに、大切なものを誰の手にも触れさせたくないという、剥き出しの純粋な独占欲。
「……ねぇ、コハル」
雨音に消されそうな小さな声で、ナオコが私の袖を引いた。
「……ん?」
「……あの、さ。さっきの映画、ちょっと怖かったから。……なんか、今日このまま一人になるの、嫌だなって……思っちゃって」
上目遣いで、少しだけ潤んだ瞳。
オフショルダーのニットから覗く濡れた肩が、寒さのせいか微かに震えている。
「じゃあ、今日うち来る?うち、すぐそこだから」
「え?いいの?」
「もちろん、ナオコが怖くなくなるまで、ずっと一緒にいるよ」
私の言葉に、NAOKOは一瞬だけ驚いたように目を見開いたけれど、すぐに安心したように、ふにゃりと笑った。
「……ありがとう」
そう言って、私の手を握り返したナオコの熱が、雨で冷えた肌にじんわりと心地よく広がる。
私たちはどちらからともなく視線を交わし、
雨のカーテンを突き抜けるようにして、私の家へと走り出した。
ちょっと新しい物語を書きたい欲が溢れてしまったので、このお話はいったんここでおしまいです!
続きはまた気が向いたときに出しますね。ここまで読んでくださってありがとうございました!
ゴールデンウィーク中に新しい物語を1〜2本出す予定なので、そちらもぜひよろしくお願いします!
コメント
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なおこはペア好きです!続きみたいです!