ある日、俺は友人である吉木の家へ行った。
彼は天才的な数学の論文をいくつも残し
賞まで取っている。故に、彼には敵わないと
自分でも自覚していた。
──ピンポーン
インターホンを押した直後、ドタドタという
走り回るような音が響き、扉が開く。
「ごめん、入って!」
成人男性より少し高い声でそう言うと、
俺はすぐ玄関へ入り、扉を閉めた。
「焦ってるようだが、どうした」
明らかに汗ばんで呼吸を乱している吉木を
普通だとは一ミリも思わない。
『異常』そのものだった。
「……ごめんねぇー!
色々あってさ……。とにかく、論文なら
もうあるから見といてよ!」
「は? お前は?」
「海行ってくる!
いやぁ、暑いからねぇ……ハワイは」
そう言って、放り投げられたタオルで
汗を拭くのだ。俺は内心、可笑しいとしか
思えずフクロウのように首を傾げていた。
「……そうか」
「何? 悲しかった?」
「どうだろうな?」
「へー?」
ニヤニヤと吉木が口角を上げると
「ま、入ってよ」と部屋に入れられた。
このとき、部屋一面が真っ白なことに
気がつく。
「白っ……」
「真っ黒な君はよく目立つね〜。
なんで黒いPシャツなの?」
「黒しか家にないからなぁ……」
我が家に黒以外の衣服がないのは
寒がりだからだ。冬なんて全身真っ黒で
カイロを一面に貼っている。
「さすが金持ちぃ。俺はサングラスに
白のシャツで日焼けしてくるよ!
精々論文読んで頑張るといいさ!」
「こいつ……」
明らかに煽った後、嵐のように
部屋から消えてゆく。俺の目の前にあるのは
分厚いプリントされた論文で
それを初めて手に取り、読んだ。
コメント
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吉木……、吉木ってあのスト晴に 出てきた吉木なんか…?(?) ニヤニヤしてる顔って 大好きなんすよねぇ……(唐突)