テラーノベル
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部屋の隅から、実習時特有のフェロモン抑制剤がシューッと噴出され始める。
ファンの低い回転音が静かに響き渡り、本格的に実習が始まったのだという冷たい緊張感が一気に押し寄せてきた。
(どうしよう……自分から何かするべき? ルシアンさんに迷惑をかけちゃいけない、でも私の不出来さを知られたくない——)
頭の中をぐるぐると邪念がよぎった後、私の口から零れ出たのは、あまりにもみっともない予防線の言葉だった。
「っ……あの、私……」
——全然できないから、期待とかしないでほしい。
そう言い切るよりも早く、ルシアンの身体がぎゅっと私に飛び込んできた。
背中に腕を回され、お互いの実習着越しに胸がぶつかって柔らかく潰れる。
「まだ緊張してるね。余計な事は、なーんにも考えなくていいから」
触れ合っている肌から、じんわりと心地よい熱が伝わってくる。
行き場を失った両手でぎこちなく抱き返していると、頭の芯がふわりと痺れて、ぼーっとしてきた。甘いバニラのような香り——ルシアンのフェロモンだ。
体の奥がポカポカと温かくなっていく。
「上手にやろうなんて思わなくていいよ。ボクだけを見てて?」
囁きとともに、首筋へちゅっと軽い接吻が落とされた。
ちゅ、ちゅ、と甘いリップ音が何度も肌の上で繰り返される。そのたびにくすぐったさと恥ずかしさ、そしてじゅわっと溶け出すような快感が胸の奥へ広がっていき、思わず身悶えしそうになる。
二人の距離がさらにゼロになり、触れ合う吐息で前髪が揺れた。
至近距離で顔を見上げると、ルシアンの淡い青色の瞳が、魔力を帯びるように鮮やかな彩度を増していく。
「集中して……もっとよく見て、感じて」
ルシアンがするりと伸ばした尻尾が、まるで愛撫するように優しく私の頬を撫でた。
そのまま首筋を滑り、鎖骨のくぼみから胸元へと繊細な軌跡を描いていく。肌をなぞる冷たい感触にぞくぞくと背筋が震えるのに、私の視線はルシアンの瞳からどうしても離せなくなっていた。
——ちゅっ。
「ん……っ!?」
重なった唇の熱さに驚き、咄嗟に身を仰け反らせてシーツへ両手をついた。
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
唇を離されて初めて、自分がずっと息を止めて見惚れていたことに気がついた。激しく上下する胸を押さえながら、必死に息を吸い込む。
そんな私の姿を見て、ルシアンはくすくすと柔らかく目を細めた。
「あはは、魅せすぎちゃった? 大丈夫?」
「ご、ごめんなさい……私……」
また、ルシアンの瞳がふわりと彩度を上げていく。
のそりのそりと近づいてくるルシアンに何の拒否感も抱けず、私は仰向けにシーツへと身を任せ、されるがまま覆い被された。
「リルティ、目つぶって?」
言われるまま静かに目を閉じると、ひんやりとした感触が頬を滑った。
段々と熱を帯びていくそれがルシアンの手だと、遅れて気づく。頬を優しく撫でられながら、何度も柔らかな接吻が繰り返された。
両手でシーツをぎゅっと握りしめていると、片方の手にルシアンの指がするりと滑り込んできて、恋人のように指を絡め、強く握りしめてくれる。
自分でも表情がとろんと崩れ、発情して蕩けていくのが分かった。
接吻のいやらしい水音は、次第にねっとりと粘り気を含んだものへと変わっていく。
舌を絡め合うディープキスへと変わり、互いの唾液を介してフェロモンが混ざり合っていく。
トロトロとしたルシアンの甘い唾液を通じて、熱が濁流のように身体の奥へなだれ込んできた。
——いつの間にか、私の方からも舌を伸ばしていた。
その蜜を、熱を、ルシアン自身を強請るように、絡めた手を強く握り返す。息をすることすら忘れ、ただ彼女の存在を確かめようと必死になっていた。
口内から広がった熱はゆっくりと下腹部へと降りていき、私の『Φ』としての本能を乱暴に叩き起こしていく。
私はみっともなく腰をくねらせ、無意識に揺らし、太腿の内側に伝う蜜の滑りを恥じらいながらも、求められるまま舌を伸ばし続けていた。
——けれど、その時。
強烈な絶頂の予感が背筋を駆け上がり、頭がサーッと冷たくなった。
咄嗟に唇を離し、顔を横へと背ける。
必死に押し寄せる快楽の波を抑え込もうと、シーツとルシアンの手をちぎれんばかりに握りしめた。
「大丈夫だよ」
不意に、耳元で優しく囁かれた。
ルシアンの甘く低いハスキーボイスが耳朶を震わせた瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れた。
「あっ……ぅ、」
熱が下腹部へと一気に収束し、全身が弓なりにしなる。足先までピンと伸び、静かに全身が痙攣した。
ルシアンの手を力任せに掴んだまま、私はかつてないほど深くて甘い絶頂へと堕ちていった。
『——ピピピピピピ。規定時間を満了しました。生徒は速やかに成果物を提出、及びキューブから退出してください。この放送をもって、第68回ペア実習を終了します』
無機質なアナウンスが響く中、私はルシアンの腕の中で、絶頂の余韻の中ぼんやりと天井を見上げていた。
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