「もう一人の仲間は、老人だった
もう70いくぐらいの立派な老人だ。だけど……
『武』を求める心は、誰よりも熱いヤツだった」
「なあユカ。俺たち山ん中まで来ちまったけど、案内できっか?」
「できないな。遭難しちまったみたいだ」
「はあッ!?カンベンしてくれよ~!!」
「アタシに言うなよ!山が悪いんだろ!?」
「いーや、元はと言やぁ、お前が『こんな山余裕で行けるぜ!!』なんて言ったからだ!」
「ウッ…。ダ―――――ッ!!考えたって何も変わんない!前進あるのみ~!!」
「お、おい!待てよ!」
会話の通り、二人は山で遭難してしまった。二人はそれから、あてもなくさまよい続けた。
すると、
「おいティエラ!山小屋だ!あそこに山小屋があるぞ!!」
「本当だ!よし、ひとまずじゃあそこで休もう!」
二人は山小屋の扉まで来たティエラは扉を開けようとする。
が、
「開かない…。鍵がかかってんのかな?」
「いや、さすがにこんなところで住んでるヤツなんて…」
「誰か、そこにおるんか?」
「「!?」」
山小屋の中から老人の声が聞こえた。老人といっても60代後半ぐらいだろうか。
「おるんやったら返事せ」
「いるぜ!アタシ入れて二人!!」
「お、おい!」
「?なんだよ」
「中のヤツが特籍軍だったらどーすんだよ!」
そのとき、老人が扉を開けて出てきた。
ジャージにさみしげな頭頂部と白髪が特徴のごく普通の老人に見える。
「何そこでずっとしゃべりよるんか?はよ入りぃ」
二人は老人に頼ってみることにした。
「じーさん、名前は?」
「H・タイゾウ」
「!特殊能力者なのか?」(特殊能力者のほとんどの世界国家市民はアルファベット+名の名前である)
「おう。そーゆーお前もそうやないんか?」
「まあな」
「アタシもだ!」
「お前はちょっと黙ってろ」
「チェ~ッ!!」
「まあいいやないか。しゃべらしちゃりぃ」
「だってよ。タイゾウに感謝しろよ」
「おう!サンキュー、タイゾウ!」
「お前ら、名前は?」
「ティエラ。そんでコイツが…」
「T・ユカだ!!」
「そーゆー訳だ」
「なんでこんな山ん中来たんか?」
「この山を抜けて樺太に渡るためにな」
「樺太に?目指すは大陸っちゅうことか」
「ああ」
「そんで世界国家にケンカ売ってやんだ!!」
「まあ、ほとんどはソイツの言う通りだ」
「世界国家に?ワーッハハハ!!やっぱ若いもんはいいなぁ!夢が輝いちょる!」
「そうだな。立派な夢だ」
「「「!?」」」」
いきなり見知らぬ男が割って入ってきた。
「フッ…、フフフッ…、ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャア!!立派…立派、立派、立派、立派、立派ァ!!」
「なっ、なんだよコイツ!?」
「俺はK・ナガミツゥ!!テメーを殺すゥ!!」
狂っている。
次の瞬間、強風が吹き始め、二人はK・ナガミツにひきつけられ始めた。
「コイツ…まさか…。おいティエラ!!」
「ああ!間違いない!!ヤツの能力は『旋風』だ!!」
そう、K・ナガミツの特殊能力は、『旋風』。自身を中心とした旋風を起こすことで、その近くのものを引き寄せる。
「ユカ!こうなりゃ、お前の風穴形成で…」
「でも、アイツ包丁持ってるぞ!多分アタシらをひきつけた後めった刺しにする気だ!!」
何とか抗おうとする二人。しかし、そんな努力もむなしく、どんどん二人はK・ナガミツのほうに引き寄せられている。
その時だった。
H・タイゾウが旋風の範囲内に立った。H・タイゾウはそのまま二人と同じようにK・ナガミツへと引き寄せられ始めた。
「お、おい!!何やってんだよ!!死にてぇのか!?」
「お前らの夢…若門の夢はいつだって輝いちょる。なら老いぼれの俺のやるべきことは、その夢を手伝うこと!!やけどなぁ…ティエラ、俺もこんなヤツに殺されて死ぬのはゴメンばい…」
「だったらなんで…!」
「勝てるけに決まっとろうが!!一発、ぶちかます!!『空槍拳(くうそうけん)』!!」
H・タイゾウは突然拳を勢いよく前に突き出した。
数秒後、K・ナガミツが突然吹っ飛んだ。
「ウグォォ…。な、何だァ?今のはァ…。ウザァ~~~イ!!死ね!!」
「もう一丁!!」
H・タイゾウはまた拳を、今度は2回突き出した。すると、K・ナガミツは顔面に二発攻撃を受けたような動きをした。
H・タイゾウの能力。それは「真空波」である。
彼は独自にこの能力を活用し、「空槍拳」という拳法を編み出した。
正拳突きの真空波を放ち、遠距離から攻撃を仕掛ける。その威力は、K・ナガミツの旋風をも、ものともしない。
「まだまだぁ!!」
H・タイゾウはどんどん真空波を飛ばし、攻撃を続ける。
そして、気づいたころには、K・ナガミツは気絶してしまっていた。
「す、すげぇ…」
「まだまだ衰えちょらんな!ちょっと安心したばい!」
その後、二人はH・タイゾウの案内で無事山を抜けることができた。
そして、岸まで来たその時だった。
「どうする?船」
「素材なら任せな!!」
「よし、じゃあ俺が造る!」
「なあ、お前ら」
「?どうしたんだよ、タイゾウ」
「俺も連れてってくれんか?山籠りも、もう飽きたばい…」
「いいのか?超危険だぜ?」
「たまにはスリルもいいやろ!それに、俺の真空波なら超スピードで樺太まで行けるばい!あとな…ここまで年を取ると、こう、デッカイことをするチャンスも減ってくるとよ…。人間死ぬまでに一回はデッカイこともしたいもんやからな!!」
「アタシは大歓迎だぜ!ティエラ!!」
「…分かった!!それじゃ、これからよろしくな!タイゾウ!!」
こうして、H・タイゾウが新たに仲間に加わったのだった。
一方その頃…、世界国家東部地方では臨時の地方議会が行われていた。
議題はもちろん、ティエラだ。議会は混乱状態にあった。
「ついにヤツは樺太まで来たぞ!それも二人も特殊能力者を率いている!」
「このままでは大陸に来る日もそう遠くはない!」
「全く…!ヤツは一体何を考えているのだ!?」
「記憶喪失と言われているようだが…」
その時だった。
一人の男が席を立った。
議員一同はその男に注目し、「首相!!」と言った。
この男の名は、ソン・リマイ。東部地方の首相である。
各地方は、議院内閣制をとっているため、地方の代表は首相ということになるので、ソンは東部地方の代表ということになる。
「首相!!ご決断を!!」
「皆、落ち着きたまえ。対策は既に済んでいるのだろう?」
「しかし…!」
「確かに、ヤツなら突破しかねない…。しかし、このまま我々が議論を重ねたところで、我々は直接戦闘には参加しないのだから、この議論は何の意味も為さない。だとすれば、我々にできることは『彼』に”託す”ことだけだ。そうは思わんかね?」
こうして、議会は終結した。
再び場面は移り変わる。
樺太、最北端の岸…、「彼」はそこで独り、立っていた。
世界の命運を託されたその背中を、地平線に向けて….。