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騒がしい声を聞きつけ、長男の秋斗がキッチンから現れた。
頭に攻撃を受ける雪乃は秋斗に助けを求める。
「お兄ぃ、助けて、脳細胞が、脳細胞がぁ」
「春、雪ちゃん痛がってるでしょ」
「待て、これを見てくれ兄貴」
春翔が秋斗にぐしゃぐしゃのテスト用紙を見せる。
「あぁ、ゴミ集めてきてくれたんだ、ありがとう」
「違う、そうじゃない」
「ゴミ!?お兄にもゴミって言われた、もう生きていけない」
えんえんと泣く雪乃に首を傾げる長男。はぁ、とため息をつく次男。
「ちげぇよ、俺は兄貴に頼まれて家中のゴミ集めてたんだよ。で、兄貴。これはゴミだがそうじゃなくてこいつの悲惨なテスト用紙だ良く見ろ」
ぐしゃぐしゃのそれを手渡され「あぁ」と納得する秋斗。
秋斗の顔色を伺う雪乃。
「…すごいじゃん雪ちゃん!こんなのも分かるようになったんだね!」
「しまったこいつ極度の天然だった」
えらいね、と頭を撫でられ嬉しい雪乃だったが、少し複雑でもあった。
秋斗はもちろん天然で言っているのだが、聞く人によれば煽りに聞こえるかもしれない。
「…とにかく、兄貴が許しても俺が許さねぇからな」
「ふーん、そんなに自分の名前に傷がつくのが嫌なんだ」
春翔は秀才だった。誰よりも頭が良くて学園トップの成績保持者だ。
だからこんな頭が悪い妹がいるのが恥なんだ。
フン、とそっぽを向き少ししょげる雪乃に、「は?馬鹿か」と春翔は答える。
「名前なんかどーだっていい。それより、お前に来年高校進級してもらわないと困るんだよ」
「え?」
何故?と雪乃は春翔を見る。
「来年からお前をこき使わなきゃならねぇんだから、卒業してくれなきゃ困る」
「おい」
ふざけんなよ、と雪乃はキレる。もっと嬉しい理由かと思ったらこれだよ。
「あのなぁ、中学でも散々こき使われたのに、まだやるつもりか!」
「あたりめーだろ、人手が足りてないんだよ」
「私が風紀に入ったのだって春翔が無理矢理入れたからでしょ!そっからどんだけこき使われたことか…」
「結果良かっただろ」
「いや、悪いとは言わんが」
結果友人ができたり知り合いが増えたりいいこともいっぱいあった。
けど言いなりは腹が立つ。高校はもっと自由に過ごすんだ。
「まぁまぁ、春は雪ちゃんと一緒に高校に通いたいんだよ。だからちゃんと卒業してほしいんだよね?春」
「そうそう、そういうこと」
「適当に流すな馬鹿春翔」
「ほら二人とも、ご飯にするよ」
長男の一声に各々散り散りになるが、春翔の鋭い視線に平和が遠ざかるのを感じた。
リビングから何も知らないイワンコが「ワン!」とご飯の催促をした。