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47 - Ep40 正義執行

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2024年02月02日

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 ルビーは、動揺しながらも笑みを浮かべさせた。

「やる気になったみたいだな……クイナ……!」

「この国は、もう正義の国なんかじゃない。本当に正義だと誇れる神に、戻って欲しいから……!」

 そして、ルビーは武器を上げ、声を上げた。

「海洋隊全兵士に告ぐ! 今この時を持って、私たち海洋隊以外の全ての兵士たちを、『反乱者』とし、正義の名の下に全員捕えろ!!」

 その合図と共に、バラバラに兵士たちは武器を構えて突撃しに行った。

「どうする……? 異郷者……剣豪……! これを放ってでもお前達は神の元に行くか?」

 クソっ……!

 確かに、こんな状況見過ごせるわけない……!

「大丈夫だよ、ヤマトくん」

「ヴェンドさん……!」

剣豪殿が色々荒らしてくれて頂いている間に、縄はクイナちゃんに解いてもらいました」

 少し後退するが、まだルビーは声を上げる。

「お、お前が私を止めたって、コイツらはここに留まるしかないんだ! こんな人数が乱闘して……」

 しかし、乱闘は全く起きていなかった。

「君が相手にしているのは誰か分かってるかい?」

 中央にただ一人、立っていたのは

「正義執行」

 守護神のブルーノさんだった。

「僕の雷神の加護の魔法は、剣豪さんには効かなかったみたいだけど、『相手を気絶させる風』を放つんだ」

 そして、全兵士はその場に気絶させられていた。

「僕の魔法はただの『気絶』に過ぎない。暫くしたら起き上がり、再び乱戦の火蓋が上がってしまうだろう……。ロズ……雷の神を、頼んだよ……。ヤマトくん」

 いつになく真剣な顔を浮かべ、僕をまっすぐ見遣る。

「そう言うことだから、俺の大切な妹の足止めは、俺一人に任せておいてくれ」

 ニッコリと笑みを浮かべ、ルビーに近寄った。

 ルビーは既に諦めた姿を見せていた。

剣豪さん……雷の神の元へ、連れて行ってください」

 僕が言葉を掛けた瞬間、目を合わせたと同時に、

「うわぁ!!!」

 僕の腕を掴み、遥か上空に飛び上がり、五重の塔の最上階の部屋をぶち壊して中へと入った。

「ちょちょちょちょ!! えぇ!? 連れてってって行ったけど、行き方があるでしょ!?」

「だって、この方が一番手っ取り早い」

 そこには、誰にされたのか、鋼の岩盤に両手両足、そして首までも固く閉められた大柄の男がいた。

「あなたが……雷の神、ロズさんですね……」

 すると、大柄の男は笑う。

「ふふふ……随分と乱暴な侵入だな。ホクト異郷者を殺すんじゃなかったのか?」

「死にたくないって言った。だから殺さない」

「そうか……お前は単純でいいな……」

 この乱戦を引き起こした張本人である、雷の神は、大柄な男なのに、どこからも恐怖心は感じなかった。

 僕は近付き、炎魔法 ラグマの熱で拘束を全て解いた。

「これは、“自分への戒め” ですか……?」

「そうだ。異郷者にはなんでも分かるのか……?」

「違いますよ。あなたが、悲しい顔をしているから……」

 雷の神、ロズさんは、全く動きはしなかった。

ロズさんにとって、“正義” とはなんですか?」

 ロズさんは何も答えなかった。

「ふふ、ここまで来られた褒美だ。雷の加護を授ける」

 諦めた様な顔で、僕の腕に手を当てられた。

 このビリビリ流れるエネルギーは、間違いない。

 雷神魔法のエネルギーだ。

 そして、ふわっと意識が飛ぶ。

 この感覚は……岩の神 カズハさんと同じ……。

 目の前には、笑顔のロズさんがいた。

「なあなあ! バベル! 俺も岩の神みたいにかっこいい名前にしてくれよ!」

「うーん、君は臆病で優しい男だからなあ。固苦しい名前より、綺麗な名前を付けたかったんだが……」

 白髪の男、前に見たあの男が唯一神 バベル

 バベルは、赤い薔薇の花を持っていた。

ローズ、これじゃあ気に食わないか?」

「女みたいで嫌だ!」


「じゃあ、ローズを少し変えて、ロズなんかどうだ? ゴツくてかっこいい名前じゃないか?」

「まあ……それなら……かっこいい? かも!」

 ロズさんは、大柄な男だが、バベルと話している時は、純真無垢で、笑顔を絶やす様子は見られない。

「君は雷の神になる。は尖ってしまうイメージだから、敢えて臆病な君にしてみたんだけど、君は考え過ぎてしまうから、薔薇の棘になってしまわないか心配だ」

大丈夫だ! バベル! 俺は『正義の国』を作って、人に優しく、悪を許さない国にするんだ!」

「そう言うところが、少し危ういんだよ」

 そう言うと、バベルに鼻先を小突かれた。

「君は優しい男だ。優しくあるべきは、他人だけじゃなくてね、自分にも優しく出来る人を指すんだ。君には、そう言う神になって欲しい。一途が薔薇の花言葉だからね」

 その言葉を幕切れに、僕の視界は薄れた。

「優しくあるべきは……他人だけじゃなく、自分にも優しく出来る人を指す……」

 僕は、バベルの言っていたことを復唱していた。

 素直に、頷いてしまったからだ。

「どうして……その言葉を知っているんだ……?」

 やはり……今見ていたのは、ロズさんの記憶。

「僕は、七神から加護を渡される時、記憶を覗けるみたいです。最初は出来なかったんですけど……」

 すると、ロズさんはボロボロと泣き出した。

バベル……正義ってどうすればいいんだ……」

 この人は、本当に優しくて、危うい人なんだ。

 僕の身体は、自然と動いていた。

「自分にも、優しくしてあげてください」

 そうして、座り込むロズさんの肩に手を置いた。

「君の手は……バベルに似ている……」

「どうやら、バベルさんとは同じ星出身らしいので、似ているのかも知れませんね」

 僕は、ロズさんの手を取り、立ち上がった。

「さあ、ブルーノさんがずっと待っています。あなたの力で、この国を守っています。あなたの番ですよ」

 ロズさんは、またも泣き出してしまう。

ブルーノ……ごめんよ……」

 そう言うと、剣豪 ホクトの開けた穴から飛び上がり、の様な光を放ち、戦場に降り立った。

 僕たちもそれに続く。

「おかえり、ロズ。泣き虫は相変わらずだな」

 ブルーノさんは、優しく微笑み掛けた。

 暫くすると、兵士たちは立ち上がり始める。

ロズ……様……?」

「おい……ロズ様がいるぞ……!!」

 これで一安心……だと思った。

「神の前で恥を晒すな!! 正義執行ー!!」

 雷の神 ロズの姿に、海洋隊たちは更に活気付き、更なる戦闘を巻き起こし始めてしまった。

 動揺するロズさん。

 きっと、他のたちと同様に、膨大な戦う力しかないのだろう。

 正義執行……危うい言葉だと思った。

 ロズさんから託された想い……信じたい。

 “雷神魔法 サンス=プリード”

 僕の詠唱と同時に、僕の身体全体から、細い雷の光がバチバチと広がった。

「今度は……何魔法なんだ……?」

 活気付いていた兵士たちも、構える兵士たちも、ルビーヴェンドさん、クイナさんまでもが静止していた。

 そして、全員が一斉に武器を下ろし、泣き崩れた。

「な、何が起きてるんだ……?」

「それは一種の洗脳魔法です。雷が伝播し、周囲の人間に想いを強制的に伝えることが出来たみたいです」

 僕にも分からない中、背後から聞き覚えのある声。

「アゲル……!!」

ヤマトは、何を考えていたんですか?」

「沢山だよ……。ロズさんが自分を戒めて悩んでいたこととか、クイナさんの気持ちとか、本当は戦いなんてしたくないルビーさんの気持ちとか……! 沢山!! 僕にだって正義なんか分からない! 何を伝えればいいのかなんか分からないよ!!

「その “沢山の想い” が、“沢山の人” に届き、“沢山の感情” を揺さぶったのかもしれないですね」

 そう言うと、アゲルはニコッと笑みを浮かべた。

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