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 水平線の向こうに完全に姿を消した太陽を追いかけて月が昇り、青白い光が海面に道を作っているかのようだったが、その光景をバスタブに浸かりながら見つめていたウーヴェは、己の足の間に座り込んで同じくその光を見ているリオンに小さく名を呼ばれてその顔を覗き込む。

「どうした?」

「さっき食ったパエリア、マジで美味かったよな」

「ああ、そうだな」

 念願のパエリアを食べた感想はと笑うと最高だったと繰り返され、タコやエビのアヒージョや生ハム、ブルスケッタも美味しかったと頷き、バスタブの横に置いたワゴンから細身のシャンパングラスを手に取ると軽く口を付けてそのまま頭を反り返らせてウーヴェの目を見つめたリオンは、そっとキスされた後にグラスを奪い取られて不満そうに見上げる。

「むー。俺の分なのに」

「代わりにチーズを食べたらどうだ?」

 何が一体代わりなんだと不満を零しつつもウーヴェから離れるつもりがないリオンがワゴンを引き寄せ適当につまんだチーズを美味しそうに食べるが何かが物足りないと感じてそっと別のチーズを後ろに差し出すと食べられる感触が伝わってくるが、そのまま指を舐められたくすぐったさに首を竦める。

「オーヴェ、くすぐってぇ」

「でも美味しい」

「でもじゃねぇって」

 美味しいから食べさせろ、後で食べるから今は俺が食うと顔を見ずにそれでもクスクス笑いながら言い合った二人は、最終的にお互いの指を舐めてキスをしワインを飲み干す。

 チーズを食べた時に感じた物足りなさが何に起因するのかを考えようとしたリオンは、ウーヴェに舐められてキスされた指を見つめつつその向こうに広がる黒い水面と青白い月の道も見つめるが、その指をそっと握られて手を重ねられ、指を組み合わせるように手を握られると物足りなさが何であるのかを唐突に納得してしまう。

「……オーヴェ」

「どうした?」

「うん。手ぇ、そのままが良い」

 顔を見ることなく照れたような笑いに混ぜ込んだ本音をウーヴェがしっかりと受け取って手の甲にキスをする。

「何かさ、海と月がすげぇ綺麗だからずっとこのまま見ていたいなぁ」

「そうだな」

 昨日は眠り込んだお前を抱きながらずっと夕日が沈むのを見ていたが、今思えばやけにセンチメンタルな気持ちになっていたのだろうと笑うリオンの頭にキスをしたウーヴェは、今はそうじゃないのかと囁き頷きで返事を貰う。

「さっきさ、一人にしないでくれって言ったけど……」

 多分、もう、大丈夫。

 その呟きに混ざるのが仄かな確信で、それをもっと明確にしても良いと伝える代わりに顎を後ろから回した手で持ち上げると、言葉とは裏腹に自信に満ちた蒼い双眸が見上げてくる。

 本心と口から出てくる感情が裏腹なことがある伴侶の癖を思い出し、やられたと思いつつもにやりと笑みを浮かべると、組んだ手はそのままにもう一方の手が後ろに回されて頭を抱き寄せられる。

「一人にしないよな、ダーリン」

「……どうだろうな」

「あ、何だよ、それ!」

 一人にするなって言ってうんって返事くれたのはお前なのにと湯が零れるのも気にしないでバスタブの中で勢いよく振り返ったリオンだったが、ウーヴェの顔がリオンが落ち込んでいる時に見守ってくれる表情と同じだったため、照れた子どもの顔で笑ってウーヴェの首にしがみつくように腕を回す。

「俺のダーリンはマジで最高。世界一格好いいけど、でも世界一悪趣味だ!」

「ふぅん。でも、そんな俺でも好きなんだろう?」

 さっきと同じ言葉を繰り返しながら子どもみたいに笑い合った二人だったが、リオンがウーヴェの耳朶を舐めてオトナの時間に進まないかと囁き、背骨に沿って指を這わされてくすぐったさに身を捩る。

「くすぐってぇ!」

「……リーオ」

 背中を撫でた手が湯の中で悪戯っ気を込めて動き尻を撫でられてウーヴェの耳朶の下を舐め返したリオンは、ベッドまで抱き上げていって良いかと許可を求め、返事の代わりにキスをされて淫靡な笑みを浮かべ合う。

「世界一のダーリン、愛してるから……」

 同じだけ愛してくれと囁き心身共にそうしようと囁かれて頷いたリオンは、ウーヴェがバスタブから立ち上がる手助けを当然のようにした後ワゴンをベッドルームに移動させ、次いでバスローブを肩に引っかけたウーヴェを抱き上げてベッドルームに大股に向かうのだった。



 深い海の中に沈んでいるような部屋の中、床に置いたキャンドルが仄かに周囲を照らしてフットライトのように光っているが、ベッドの上ではリオンが無理と言いたくても言わせてもらえない強い快感の中にいて、時折悔しそうにウーヴェの腕に爪を立てていた。

「……オーヴェ・・っ……も、無理……だって……!」

 ウーヴェの背中の傷の存在を、例え思考回路が吹っ飛びそうな快感に溺れていても決して忘れることはせず、代わりにその腕に爪を立てるリオンを宥めるようなキスを繰り返すウーヴェだったが、その腕を掴んで握りしめられた掌を開かせると、いつもリオンがするように掌を重ねて痛いほど手を組み合わせる。

「……もう、ダメか?」

「無理……って言ってンだろ……っ!!」

 何回イカせれば気が済む、このままだとタマの中が空になると、悪戯な笑みを浮かべるウーヴェを赤い顔で睨み付けるリオンは、あぁ、悔しいと吼えて唇を噛み締める。

「何が?」

「あー、もー! オーヴェのくそったれ!」

 悔しい理由を聞けば更に罵る声が聞こえ、誰がくそったれなんだとウーヴェが瞼を平らにした後、何度も熱を吐き出したために白濁したものが乾いた腹や勃っているものをウーヴェの手が軽く握り、先端を指の腹で強めに撫でるとリオンの頭が仰け反って顎が上がる。

「────っン!」

「誰がなんだ、リーオ?」

「オーヴェ! 今俺のモン握って腹立つぐらい綺麗な顔して笑ってるオーヴェ!」

 あぁ、本当に腹が立つと快感の中で必死に空気を求めて顔を上げつつもウーヴェに対する文句を垂れ流すリオンに一瞬呆気に取られたウーヴェだったが、唇の両端を持ち上げたかと思うとリオンの腰を掴んでグッと引き寄せる。

「ァ……ア! オー……っ……!!」

 中と前とで同時に感じる快感にリオンが頭を擡げて歯を噛み締めるが、ウーヴェが顔を寄せると快感の中でも何とも言えない笑みを浮かべる。

「オーヴェ……もっと……!」

「もう無理なんじゃなかったのか?」

「ちが……っ……、」

 もっとというのは俺の中を埋めているものでもっと奥を突いてくれと言うのではなく、俺が好きなその顔を見せてくれと言う事だと、例えどれほど悔しさを感じたとしても遙かにそれ上回る情愛の思いを伝え口角を上げたリオンにウーヴェが一瞬目を瞠るが、綺麗な形に持ち上がった唇にそっとキスをすると、俺もお前の顔を見ていたいとリオンの好きな顔で笑って覆い被さるように身を寄せる。

「……ンッ……オーヴェ……」

 与えられる快感に眉を寄せ、それでもその顔を見たいと笑みを浮かべるリオンに何度目かのキスをしたウーヴェは、次は俺の番だからと太い笑みを浮かべられて目を瞬かせる。

「次?」

「そう! ……つぎにオーヴェがイッたら、今度は俺が突っ込む!」

「ふぅん」

 そんな元気がまだ残っているのかと笑うウーヴェに意地でも抱いてやるから覚悟しろと吼えるリオンに、どんな状況であっても目にした瞬間に顔を赤くしてしまうような男の顔で笑ったウーヴェは、呆然と見開かれる蒼い目にキスをして出来るものならやってみろと笑いかけ、リオンからやる気を完全喪失させるほどの激しさで抱き、リオンの口から文句と嬌声と熱い吐息を吐き出させ続けるのだった。



ウーヴェが失神することならばままあることだったが今夜はどうやら立場が完全に逆転したようで、意識を手放したリオンを片腕で抱き、ガラス張りのバスルーム越しに見える星空と海面に伸びる月の道を肴に少し温くなったスパークリングワインを飲んでいたウーヴェは、酒を飲むならチーズかオリーブも食えと不満を訴える掠れた声に気付いて顔を向けて苦笑する。

「……飲むか?」

「うん、飲む。ビール無かったっけ」

 ウーヴェの腕の中で大きく欠伸をしたリオンが腕を突き上げて伸びをし、ソファ横の小さな冷蔵庫にビールが入っていないか確かめるためにベッドを降り立つと、腰が痛い背中も痛いでも一番痛いのはケツだと吼えてウーヴェを呆れさせるが、ルームサービスの食事の前に慌てて買いに行ったローションが身体に合わなかったのかもと腰を押さえて不満を訴え、冷蔵庫を開けて顔を輝かせる。

「オーヴェ、チョコ入ってる!」

「ああ、食べればどうだ?」

 好物のチョコが入っている事に気付きビールとそれを出して満面の笑みを浮かべたリオンは、ウーヴェの足に跨がるようにベッドに座ると、ワイングラスを取り上げて驚くウーヴェの口の端にキスをし取りだしたビールを差し出す。

「温くなったワインなんか美味くねぇだろ?」

「ああ」

 常温より少しだけ冷えたビールの方が良いだろうと笑うリオンに頷いて受け取ったウーヴェは、チョコを食べて満足げに頷くリオンの頬に手を宛がい、小首を傾げさせる。

「……リーオ。愛してる」

 突然の告白に一瞬リオンの蒼い目が左右に泳ぐが、ウーヴェの額に額を重ねて笑みを浮かべ、俺も愛してると同じ思いを返して抱きしめる。

「明日はどうする?」

「んー、ファウストともメシ食いたいなぁ」

 ここ、青い楽園を支配している悪魔に魂を売り渡した学者と同じ名を持つ男との食事の約束があったことを思い出し、明日の夜は彼と一緒に食事をするがそれ以外は別に予定は考えていないと返すと、ウーヴェがリオンの背中を撫でてビールが飲みたいと苦笑し隣に並んで座れと枕をぽんと叩く。

 ウーヴェの手に導かれてベッドに座り、ベッドヘッドにもたれ掛かって二人並んで月の道を見つめつつビールを飲んでいると、明日の予定は明日になって決めれば良い、今回の旅行の土産やあるいは土産話を持ち帰れば喜んでくれる人達への思い出の品々は帰る直前に購入しても構わないと笑いあい、ウーヴェの肩にリオンが頭を傾げてもたれ掛かる。

「……オーヴェと一緒にプールで泳ぎたい」

「そうか」

「うん、そう」

 プールで泳ぎ眠くなったら昼寝をしよう、何しろこの国はシエスタの国なのだからと笑うリオンの頭に手を回して髪を撫でたウーヴェは、それも良いなと笑い、明日以降の予定はその時々に決めようとも笑う。

「うん」

 誰にも何にも邪魔をされることのない新婚旅行先で、二人きりで部屋に閉じこもっていても、ホテル内の散策程度の出歩きでも、ホテルに戻らないほど島内を観光したとしても、誰にも何も言われないし咎められないと笑うウーヴェにリオンも賛成の声を上げる。

「周りが何か言ってもさ……俺達が満足してたら良いよな」

「ああ」

 誰かに何かを言われても自分たちが満足する事を優先させても良いはずだとも笑ったウーヴェは、リオンが覆い被さるように抱きつき、そのまま唇を重ねてきたため、それを受け止めて目を閉ざす。

「……イイか、オーヴェ」

「……明日のランチでワインを飲ませてくれるのなら」

 覆い被さるリオンがウーヴェの腰を抱えてベッドに背中を沈ませたあと一応了承を求めるように囁くが、明日のランチでワインを飲ませてくれればと条件を提示されてもちろんと頷き、もう一度キスをするとウーヴェの手がリオンの背中に回され、負傷していない足が太ももに絡められて先を許してくれるのだった。

 

 床を仄かに照らすキャンドルが総て消え深海を思わせる部屋の中、人の目に触れない場所でひっそりと生きる深海魚のように二人身を寄せ合い、太陽が高く上ってシエスタの時間が訪れる頃まで眠り続けてしまうのだった。




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