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 目の前に広がる緑の絨毯に目を細め、ここで収穫されたワインが昨日飲んだスパークリングワインになったり試飲させて貰って随分とリオンが気に入った白ワインになったりするのだと感慨深そうな顔でベンチに腰を下ろして見ていたウーヴェは、ワインに合うお菓子やおつまみを探していて何やら良いものを発見したのか、嬉しそうな顔で近寄ってくるリオンに気付いて顔だけを振り向けてふわりと笑う。

「良いものがあったのか?」

「うん、あった」

 リオンが手にしていたのはドライトマトとオリーブのボトルで、これとチーズの組み合わせを以前ウーヴェが用意したことがあったから探していたら試食させてくれたと嬉しそうに笑ってウーヴェが腰を下ろすベンチの横に座って同じように葡萄畑へと目を向ける。

 新婚旅行先でまでケンカを経験してしまった二人だったが、そのままではいけないと自ら考えて歩み寄るための思いを正面から伝え合いまた一つ理解し、その上でこれからもずっと一緒にいようと誓いのキスを二人だけで再び交わした翌日、太陽が真上に来た時間に目を覚ました二人だったが、ブランチを食べるのに良い店はないかとベッドに腹ばいになったリオンにウーヴェが楽し気な顔で覆い被さったため、寝起きなのにと笑いながらリオンがある意思を持ってウーヴェの耳朶を舐め、それを受け取ったお返しに青いピアスにキスをした結果、目を覚ました後に一汗掻くような時間を過ごし、またシャワーを浴びる羽目になったと文句を言いつつも子どものようにシャワーを掛け合ったり互いの身体を洗い合いしたりと、いつも以上に仲の良い時間を過ごしてしまったのだ。

 その後、ホテルのコンシェルジュにランチとワインのお薦めの店としてここのワイナリーを紹介され、レンタカーを借りてリオンの運転でこのワイナリーにまでやって来たのだ。

 そして、ワイナリー裏にある素朴な家族経営のレストランでランチにしては結構なボリュームの食事を済ませ、土産にするワインをリオンと二人で色々探していたのだが、少し疲れたから休んでいるとリオンに伝え、ワイナリーの入口横のベンチに腰掛けてブドウ畑を見ていたのだ。

 そんなウーヴェの横に腰を下ろしたリオンが指の背でウーヴェの頬を撫でたため、お返しだと言うように短くなったリオンの髪を撫でてピアスが填まる耳朶を軽く引っ張るが、お互い顔を見るわけでもなく、そこにいて当然のものの温もりを当然のように感じているかのようだった。

 ただ、互いの右手の薬指のリングを填める前に巻き込まれた凄惨な事件を乗り越えた今、全ての事が当然だとは思えないようになった二人だったため、視線を合わせずに互いに重ねた手で会話を楽しむように指を絡め手の甲を撫でたりと、文字通りの手遊びをしてしまう。

 二人並んでベンチに座り葡萄畑の上を風が渡っていく様を木々の葉が揺れることで感じていたが、不意にリオンが風の足跡が見えると笑う。

「風の足跡?」

「風が通った跡が見えるだろ? それは風が残したものだから足跡だって」

 小さな頃、広大な畑を見ていたときにマザー・カタリーナが教えてくれたと笑ったリオンだったが、お前と違って学もない俺が言うのも変だなと肩を竦めて忘れてくれと口早に告げるが、気持ちの良い言葉だなとウーヴェが穏やかに笑みを浮かべて頬を指の背で撫でたため、嬉しそうに目を細める。

「さっき試飲した白ワインさ、土産と家で飲む用に買って帰りてぇ」

「そうだな。もし無理なら送って貰おう」

 十日間の新婚旅行と言っても男二人だし形式張った場所に出入りするわけではないために荷物は少なく、スーツケースには十二分に空きがあった。

 だからワインを買ったとしても持ち帰ることは可能だと笑い、先ほどのワインが気に入ったのかと問うと、リオンが素直に頷く。

 ウーヴェと違って酒に対する意識はチーズへのものと比べれば低いリオンが気に入ったのだから買って帰ろうと内心で決めたウーヴェは、気持ちいいなと呟きながら葡萄畑を見つめ、その横でリオンも同じような顔で遠くを見ると、リオンの手がウーヴェの腿にそっと重ねられ、その手に手を重ねる。

 ただ手を重ねてワイナリー自慢の畑を見ている二人は特に言葉を必要とせずにいたが、考えていた事は同じだったらしく二人同時に顔を寄せたかと思うと、少しだけ遠回りでホテルに戻り、誰にも見られる事のない場所で二人好きなだけ手を繋いでお日様の下で寝転がろうと囁き、同じ事を考えていたと笑い合う。

「オーヴェ、自宅用のワインさ、他にも選んでくれよ」

 お前のように酒に詳しくないからどの酒が良いのか分からないと笑って立ち上がったリオンは、ウーヴェに向けて手を差し伸べてほらと促すと、ウーヴェも素直にその手を取って逆の手で家族から贈られたステッキをつく。

「赤と白、スパークリングにロゼ、どれが気に入った?」

「んー、白とスパークリングかな」

「じゃあそれを探そう」

 このワイナリーで購入できる気に入ったワインを購入し、自宅に戻るまでにホテルで飲んでも良いと笑うウーヴェにリオンが一瞬呆気に取られるが、それもそうかと笑ってウーヴェの手を己の腕に回させると、周囲の目などまったく気にすることなく二人揃ってワイナリーの案内をしてくれるスタッフに声を掛けるのだった。



 ホテルの部屋に戻った二人、土産ではなくホテルで飲むためのワインを冷蔵庫に入れ、リオンが望んだように二人でプールに入る準備をすると、水着に着替えたリオンが一足先にプールに飛び込み、それを楽しそうに見守るウーヴェがプールサイドのカウチに座ればリオンが一緒に入ろうと水生生物のような顔で誘いかける。

「……」

「傷が心配か?」

「……少し」

 言葉通りに本音を少しだけ零すウーヴェにリオンが考え込むように空を見上げるが、プールから勢いよく上がったかと思うとそのまま室内に駆け戻り、ワイナリーからの帰り道に購入したものを持って戻ってくる。

「オーヴェ、そこに俯せになって」

「?」

 言われるままに俯せになるウーヴェだったが、その前にと止められて上着を脱がされ、白日の下に傷に覆われた背中を曝してしまい一瞬だけきつく目を閉じてしまう。

「大丈夫、オーヴェ」

 この傷はお前が生きていくことを決めた証のようなものであり決して恥ずかしいものでも何でも無いとキスをしながら囁くリオンに頷くが、軽く肩を押されて俯せになるとウーヴェの顔の傍にリオンが見せつけるようにオイルのボトルを置き、今から塗っていきますねーとエステかマッサージをする人のように宣言し、オイルを垂らした掌をウーヴェの肩に当てそのまま傷をなぞるように撫でていく。

 ボディオイルのぬめりが意外なほど気持ちよくて緊張を覚えていたウーヴェの身体から余分な力が抜けていくが、背中を照らしていた太陽の力が弱まった気がして振り仰ぐと、少し離れた場所のカウチに立てかけられていたパラソルをリオンが運んできていた。

「日焼けすると傷に良くないって聞いたことあったからさ」

 傷の手当てのマッサージをするのに良くない事をする必要は無いよなと笑うリオンに驚いたウーヴェだったが、背後に手を伸ばしてリオンの頭を手招きすると、近寄る頬に小さな音を立ててキスをする。

「ダンケ、リーオ」

「……そんな顔でそんなことすると興奮するでしょー」

 それでなくても今大好きなお前に触れているのにと笑うリオンに同じ顔で笑ったウーヴェは、俺も大好きなお前の手に触れられているから興奮しそうだと太陽よりも月明かりの下の方がふさわしい声音で囁くと、背中に一つキスが降ってきた後に愛しい重みがのし掛かる。

「重いっ」

「うそだー。いつも気持ちよさそうな顔してるくせに」

 今まで数え切れないほどこうして互いの重さを感じあってきたが、一度たりとも本気で重いと不満をぶつけられたことがないと笑うリオンにウーヴェが口を閉ざして効果的な反論はないかと思案するが、昨日のお前は随分と可愛かったのにと太い笑みを浮かべて振り返る。

「~~~オーヴェのイジワル! トイフェル! 悪魔!」

 昨夜の醜態-リオンにしてみれば愛するウーヴェであっても見られたくない醜態-を思い出すだけで真っ赤になれるリオンが一声吼えてウーヴェのうなじに噛みつく様なキスをするが、ウーヴェの口から悲鳴じみた声が流れたことに気付いて宥めるようなキスに切り替える。

「オーヴェ、このままここで抱いてもいいか?」

「……さっき買ってきたワインを飲ませてくれるなら考えようかな」

 噛みつくようなキスが連想させたものを早く忘れさせたくて囁くリオンの気持ちをしっかりと読み取ったウーヴェが密やかに笑い、リオンの手を引き寄せてその手に頬を重ねる。

「むー。俺のダーリンはホントにワインが好きなんだからな!」

「ワインよりもお前の方が好きだぞ、リーオ」

 リオンの手の甲に頬を載せて楽しそうに笑うウーヴェが本当に珍しくてついつい見惚れてしまったリオンだったが、笑み混じりに告げられた言葉の真意に気付くと、さっきのオイルで大丈夫だろうと呟きつつウーヴェの水着をずらし、背中と同じように日にさらされた尻にオイルを垂らして掌で伸ばす。

 不意に感じたぬめりと尻を撫でられる感触にくすぐったいと肩を揺らしていたウーヴェは、リオンの指がぬめりを借りて中に入ってきたことに気付いて短く息をのむ。

「……ん……っ……!」

 痛くないよなと囁きながら指の数を増やすリオンに頷き頬の下の手にキスをすると、嬉しそうな吐息が零れ落ち、中の指が大きく動き出す。

 ウーヴェを日差しから守ると言うよりは吸い付くような肌に触れていたい気持ちから背中に覆い被さり片手で中をかき回していると、ウーヴェの好きにさせている左手の指を舐められてリオンが背筋を震わせる。

「気持ちいいからもっと舐めて」

 背中に覆い被さりながら声を潜めて囁くと返事の代わりに子犬か子猫のようにリオンの指をウーヴェが舐めるが、男でもあると教えるように爪に軽く歯を立てたため、舐めてくれと言っただけなのに噛まれた不満をリオンも言葉ではなく行動で示し、ウーヴェの中を指で蹂躙するとびくりと腰が揺れる。

「舐めてって言ったのに何で噛むかなぁ。俺の陛下は乱暴だっ」

 それがただの言葉遊びである事を証明するようにリオンが楽しそうに笑いながら囁き、顔を振り向けたウーヴェもにやりと笑みを浮かべるが、噛んだお詫びのキスを間近にある顔にすると、尻の間にオイルが垂らされる感触が伝わり頭を軽く持ち上げる。

「……痛くねぇよな?」

 ウーヴェを気遣う問いを投げかけるリオンだったが、返事よりも先にウーヴェの尻を両手で割って先を宛がうと、オイルのぬめりを借りて一気に挿入する。

「……ン、ァア!」

 深い場所にまで一気に進んできた熱にウーヴェの喉が曝け出され、リオンにだけ聞かせる甘い声が溢れ出す。

 その声をもっと引き出したくてウーヴェの足を庇いつつリオンが膝をついて尻を上げさせると、ウーヴェが円筒形のクッションを抱き枕のように抱え込んで顔を押しつけたため、大丈夫だと判断したリオンがお互いが気持ちよくなれる場所を突き上げて擦ると、ウーヴェが声をかみ殺そうと唇を噛んだことに気付き、先ほどとは違って今度は自らウーヴェの口を開けさせて指を口に突っ込む。

 リオンの指のせいで口を閉ざせなくなったウーヴェが動きに合わせた荒い息を吐き、それを熱と甘さを含んだ声へと昇華させるとリオンの顔にじわじわと満足そうな笑みが浮かぶが、それ以上に獰猛さが滲み出したものへと変化していく。

「悪ぃ、ガマンできねぇ」

「……良……い」

 ガマンするなと途切れる声で伝え口に突っ込まれた指を吸って舌を絡めたウーヴェは、直後に訪れた快感に身体を震わせクッションを片手で抱きしめるが、リオンの荒くなる息に気付くとクッションを投げ出して合図を送る。

 いつも枕を抱いたりシーツを握りしめて快感を堪えているウーヴェにリオンが伝えていた言葉を思い出したのか、ウーヴェの手が枕の代わりに抱きしめたいものへと伸ばされ、それに気付いたリオンが己に向けて伸ばされる手にキスをし、ウーヴェの体勢を入れ替えるように寝返りを打たせると熱を持った手が背中に回ったのを確かめてから再度ウーヴェの中へと推し進む。

 リオンにしがみつくように腕を回し、中を満たす熱と質量に頭を仰け反らせるウーヴェにリオンがキスをすると、鼻から抜ける甘い吐息が二人の間に溢れ出す。

 その後はどちらも雄の貌で抱き合いながらも、それだけではない事を伝えるように何度もキスをし、白熱する瞬間を迎えようとするのだった。



 互いに上がった息をカウチで寝そべりながら整えていた二人だったが、ウーヴェが起き上がると同時に身体がオイルや何やらでべたべたして気持ち悪いからプールに入ると宣い、リオンが何も今入らなくても良いのにと不満を口にしつつもプールに入る気になってくれたことが嬉しくて、水着の存在を遙か彼方に忘れ去った顔でウーヴェを抱き上げるが、鼻を摘まんでいろと命じてキスをした後、あろう事かウーヴェを抱いたままプールに飛び込んでしまう。

「!」

 咄嗟に鼻を摘まんだウーヴェだったが、たった今までパラソル越しに感じていた陽光が消えて水の膜が全身を包んだことに目を白黒させてしまう。

「ぷはぁ!」

 ウーヴェを抱いたまま飛び込むという暴挙を平然と行った後に水面から顔を出して息を継いだリオンは、己の肩に顔を寄せて咳き込むウーヴェの背中を撫でて笑い声を上げるが、耳を思いっきり引っ張られて悲鳴に変化させる。

「痛い痛いいたいっ!」

「う・る・さ・い!」

 いきなり飛び込むなバカたれとウーヴェが顔を赤らめつつ目尻をつり上げるとそんなに怒るなよーと暢気な声をリオンが上げるが、水が気持ちいいだろうとどんなときであっても惚れ惚れするような笑顔で言い放ったために何も言い返せなくなったウーヴェは、腹癒せだとばかりにリオンの頭を両手で掴んだかと思うとそのまま水中に押しつける。

 がぼっという声とも呼気ともつかないそれが水中から空気の塊と共に浮上して弾け、直後に理不尽な暴力に打ち震える水中生物のようなリオンが飛び出したため、ウーヴェが本当に珍しいことに大声を上げて笑い出す。

「ははは……リーオ、おかしいっ……!」

「人を沈めておいて何を笑ってるんだよ!」

「だって……!」

「だってもクソもねぇ!」

 笑いのツボに入ったようにウーヴェが笑い続けリオンが憤慨の声を上げ続けるが、それが更にウーヴェを笑わせていることに気付くと憤慨しているのもただのフリであり本心からではないことを伝えるようにウーヴェに水中で抱きつき、涙を流して笑う顔にぶちゅっとキスをする。

 ウーヴェがこんなにも声を上げて笑うことは珍しく、また腹の底から笑うことが事件以来だと思い出したリオンがウーヴェの首筋に頭を押しつけて一瞬だけ鼻を啜ると、何かに気付いたウーヴェが笑い声を小さくすると同時にリオンの頭に腕を回して濡れた髪を撫でる。

「……笑えるようにしてくれてありがとう、リーオ」

「……へへ」

 事件の最中もその後のリハビリの時間も心の底から笑える日が来るなど考えられずただ暗い空の下を俯き加減に歩いている印象しかなかったが、こんなにも明るい太陽の下でこうして愛する人と笑っていられる、その幸せを取り戻し与えてくれたお前に心からの感謝をと照れながらもしっかりと己の思いを伝えてくれるウーヴェにリオンが唇を噛んで頷くが、ウーヴェが愛して止まない笑みを浮かべたかと思うと額を重ねて笑い合う。

「オーヴェ、オーヴェ。お前は俺の全てだって言ったけどさ……」

 そんな言葉じゃ物足りないくらい俺の中はお前で満たされていると囁き、ウーヴェが水中でリオンの背中に腕を回して抱きしめると同じ強さで背中を抱く。

「……俺の太陽」

 お前の存在は絶望に囚われていたときでも名を呼ぶだけで感じられ、力を分け与えてくれていたと囁き髪を撫でたウーヴェは、プールサイドに座らせる為にリオンが抱き上げたことに気付き、大人しく従って腰を下ろすとその横にリオンが水をしたたらせながら上がってくる。

「な、オーヴェ、まだ満足できないから続きしようぜ」

「……ここじゃなくて部屋の中でなら」

 リオンの囁きに同じ声で返してくるウーヴェに笑みを浮かべ、昨日は海を連想させる部屋だったが今日はどうする、晴天を連想させるメインのベッドルームにするかとも問いかけて返事を待つと、濡れた前髪を掻き上げながら笑うウーヴェにリオンが息をのむ。

「空の上や海の底も良いけれど……俺が見ていたいのはこの世に一つしか無い蒼だ」

 この、青の楽園との名にふさわしいホテルの象徴的な部屋が二つもあるが、そのどちらにもない唯一無二の天上の蒼に包まれていたいとリオンの胸を締め付けるような顔で笑って手を伸ばしたウーヴェは、震える手が手を掴んで引き寄せた先にあった分厚い胸板に身体ごとぶつかってしまうが、しっかりと受け止められた安堵に溜息を吐く。

「リーオ……俺の、俺だけの……」

 太陽と呟いた声はリオンの口の中に消えてしまうがリオンが立ち上がると同時にウーヴェを抱き上げ、昨日とは違う部屋に行こうと囁きかけると小さく頷いて自らリオンの首に腕を回す。

「……家にもあるけど……」

 お前がいる場所がきっと俺にとっての天国だとウーヴェが笑うのをリオンがキスで封じ、頼むから俺の心臓を止めるようなことをこれ以上言わないでくれと懇願しつつメインのベッドルームにテラスから入ったリオンは、ベッドが濡れるのも構わずにウーヴェをそっと下ろすと、そのまま覆い被さってしっかりとウーヴェに受け止められる。

「……愛してる、ウーヴェ」

「……俺も、愛してる」

 互いの目を見つめつつ伝え合った思いを溶け込ませたようなキスをしたあとリオンがウーヴェの首筋に顔を寄せてキスをするが、付き合いだした頃ならば緊張を覚えたそれもリオンならば素直に受け入れられるだけではなく間近で熱を感じられるからとウーヴェが広い背中に手を回し、肩甲骨の形に添って手を上下させる。

 いつかここに羽が生え神の元に返る日が来るかも知れないがそれまでは俺の傍にいてくれと囁き驚いたような気配を感じたウーヴェは、俺の、蒼い目の天使と笑みを浮かべ、見下ろしてくる蒼い双眸に笑いかけるのだった。

 

 その後、離れることが出来ずに何度も抱き合った二人だったが、荒い息を吐くことしか出来なくなったウーヴェをリオンが見下ろす度に腕や足を絡め、そんなウーヴェにリオンも飽きること無く何度もキスをする。

 キスの合間に細めた視界に飛び込んでくる蒼い双眸を脳裏に焼き付けたウーヴェは、己の言葉通りに全身をリオンの熱が包んでいる事への安堵と感謝の思いを名を呼ぶことで伝え、キスと同じように一つ一つリオンから返事を貰い、しっかりと手を組んで完全に意識を手放してしまう寸前まで望むように蒼い双眸を見つめ、同じように見つめられるのだった。




「……滞在中、色々と世話になった。ありがとう」

「こちらこそ、来てくれて嬉しかった。また来てくれ」

 島にある空港の出発ロビーで、ステッキをついたウーヴェが手を差し出し、ラフな格好で見送りに来てくれたホテルの支配人のファウストの手を握ると、彼も同じようにしっかりと握り返して二人の帰国が残念だと呟く。

 二人がホテルに滞在中、何度かファウストからの誘いで食事をしたり彼が所持するクルーザーに乗ってのクルージングを楽しんだりしたのだが、その最中にホテルの支配人と客ではなく、同年代の男同士意気投合した結果、二人の帰国日にわざわざ空港まで見送りに来てくれていたのだ。

 そのことに感謝の思いを伝えたウーヴェにファウストが本心から悲しんでいる事を示すように頭を左右に振るが、リオンが休みが取れるのなら秋にあるビール祭りに来ないかと誘いかけ、ファウストの目を大きく見開かせる。

「リーオ?」

「ん? 今年もヴィーズンに行くだろ、オーヴェ?」

「……どう、しようかな」

「行くの。で、ファウストとメスィフも招待してさ、皆で酒を飲んで盛り上がろう」

 そろそろ二人が暮らす街にはビール祭りの空気があちらこちらで醸造されていくが、その祭りに去年のように家族揃って出かけようと笑うリオンにウーヴェが一瞬口ごもるが、ぜひ案内してくれとファウストが期待に満ちた顔でウーヴェに頷いたため断れないと首を左右に振る。

「また連絡する」

「ああ。ぜひ連絡をくれ。ウーヴェ、リオン、うちのホテルに泊まってくれてありがとう」

「こちらこそ」

 そろそろ搭乗の手続きをしなければならない事に気付きいつまでもここにいれば別れが悲しくなると呟いたファウストは、再度二人と握手を交わすと再会を約束して踵を返す。

「チャオ、ファウスト」

 リオンの声にファウストが肩越しに手を挙げるだけで決して振り返らなかったため、二人もこの島で過ごした十日間を決して忘れないようにしようと笑い合い、搭乗手続きをするためにカウンターに向かう。

 二人を乗せた飛行機が二人が暮らす街に向けて飛び立つのをホテルに戻らずに空港の展望デッキから見送っていたファウストは、リオンが誘ってくれたビール祭りのスケジュールを確認し、繁忙期ではない為に休暇を取りやすいことに気付くと、友人を誘って一緒にドイツに行っても良いなと笑い、知己を得て意気投合したウーヴェとリオンが暮らす街を案内して貰おうとも決めるのだった。



 新たな友人を得る事と今まで以上に互いの内側を見せ合って理解を深めた二人が滞在先の空港を飛び立った数時間後、街の外れにある空港に到着した二人は、土産を詰め込んだスーツケースを受け取ったリオンが来るのをベンチに腰掛けて待っていたウーヴェが名を呼ばれたことに気付いて顔を振り向け、スーツケースを引っ張りながらやってくるリオンに苦笑した後、労いの言葉とキスを頬に届ける。

「ダンケ、リーオ。家に帰るまでもう少し頑張ってくれ」

「うん」

 二人分の荷物はさすがに量が多い為に疲労の色が見え隠れするリオンだったが、帰ったらお前の好きなチョコを一緒に食べようとウーヴェが囁くと、一気に力を取り戻したかのように元気になる。

「タクシーを使うか?」

「……そうしてくれると嬉しいな」

 ウーヴェも飛行機での移動で足が疲労を覚えていた為に多少の出費は仕方が無いと二人で笑い合い、空港の待合所で止まっているタクシーに行き先を伝えて荷物をトランクに積み込み、二人後部シートに並んで座る。

「お願いします」

 ウーヴェが運転手に再度行き先を伝えた後はタクシーの中に流れるのは音量が控え目になったラジオから聞こえてくる歌声だけで、ウーヴェもリオンもどちらも口を開かなかったが、運転手が何かを問いかけると言葉少なにそれでも愛想よく返事をするだけだった。

 そして自宅アパートに到着した二人は、警備員にお帰りなさいと挨拶をされて頷き、旅行は楽しかったがやはり家が一番良いと笑ってエレベーターに乗り込む。

 荷物と二人を運んで上昇する箱の最終目的地に到着した事を音で教えられ、たった一つのドアの前に立った二人だったが、ウーヴェがドアを開けて先に中に入ると荷物を廊下に置いたリオンがウーヴェを後ろからそっと抱きしめる。

「どうした?」

「うん。……ただいま、オーヴェ」

「ああ……お帰り、リーオ」

 今まで幾度となく繰り返されたその言葉を今もまた伝え合い、旅行は楽しかったが家のベッドでゆっくりと寝ようと囁くリオンにウーヴェも同意の苦笑を零す。

「明日、ホームにお土産を持って行ってさ、親父と兄貴にも持っていこうか」

「ああ、そうだな」

 新婚旅行から帰ってきたが、日常生活に戻るのは明日からだと笑った二人は、飛行機はやはり疲れると言いつつ互いの腰に腕を回し、ベッドルームへ続く廊下をゆっくりゆっくり歩いて行く。

 リオンの再就職やウーヴェが足を悪くした事に伴う諸々の手続き、クリニックを再開する案内の手配など今までの日常に戻るための手続きは雑多とあったが、それら全ては明日以降だと笑い合ってベッドルームのドアを開けた二人は、広いベッドに二人同時に倒れ込み、心地よい疲労が連れてきた睡魔に負けたように目を閉じるのだった。


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