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まみか
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小豚ちゃん
帳が新宿の空を覆い、雨すらも静止したかのような重苦しい沈黙が戦場を支配した。その巨大な「何か」の気配に、乙骨憂太は瞬時に術式の出力を抑え、刻への追撃を止めた。だが、刻の瞳からは紅い光が消えず、彼女は自身の限界を超えた呪力循環により、鼻腔から絶え間なく血を流し続けている。
「……悠仁、下がって」
刻は虎杖を庇うように一歩前に踏み出した。天眼が捉えたのは、帳の向こう側から迫る、圧倒的で冷徹な「最強」の気配。五条悟の不在を突いた上層部の謀略が、いよいよその全貌を現そうとしていた。刻の万物創造の術式は、強大な力をコピーし再構築できる一方で、対象の呪力が格上であればあるほど、その解析の負荷は倍加する。今の彼女の脳は、すでに焼き切れる一歩手前まで追い込まれていた。
虎杖は刻の肩を掴んだ。その体は、結界越しに感じていた以上に冷たく、そして限界まで張り詰めている。
「もういい、刻! 頼む、これ以上はお前の体が壊れる!」
「壊れてもいい。……悠仁の未来と引き換えなら、安いものです」
刻の答えはあまりに淡々としていた。彼女にとっての「自分」という存在は、実験室で廃棄されたあの日の夜から、ずっと虎杖という光のための付属品に過ぎなかった。だが、その狂気とも呼べる献身に、虎杖の心は引き裂かれそうな痛みを覚えた。彼は、呪術という理不尽な世界で、自分だけが救われることを拒絶した。
その時、刻の視界が歪んだ。未来視の演算回路に過負荷がかかり、現実と幻影の境界が消失する。彼女の視界に映ったのは、次に起こるはずの「死」の予兆。それは乙骨からの攻撃ではなく、彼女自身が「天の羽衣」を強制終了させることで発生する、凄まじい呪力の逆流だった。
「……っ!」
刻の口から鮮血がこぼれ、彼女の膝がガクりと崩れる。乙骨は状況の変化を察知し、里香の気配を霧散させると、静かに剣を下ろした。
「……君、名前は」
「……水乃、刻」
「水乃。……君のその『天眼』、君自身を殺すぞ。これ以上使えば、君の脳も心も、二度と戻らない」
乙骨の警告は、敵に対するものではなく、かつての自分と同じように「力」に食い殺されようとしている者への憐憫だった。しかし、刻は血の滲む唇を歪め、ふらつきながらも氷の剣を杖代わりに立ち上がった。彼女の背後で、天の羽衣の結界がパリンとガラスのように砕け散り、その光の破片が雨のように降り注ぐ。
「戻らなくていい。……悠仁が生きているなら、それでいいんです」
刻は再び天眼を赤く発光させた。今度は相手を倒すためではない。彼女は未来視の焦点を、この先の運命から「虎杖が生き残る唯一のルート」だけに絞り込んだ。万物創造の術式が、彼女の血を燃料にして暴走を始める。彼女の肌から銀色の光が漏れ出し、それは周囲の空間を改変し、新宿という戦場そのものを虎杖を守るための「聖域」へと変えようとしていた。
虎杖は叫んだ。彼女の手を掴もうと伸ばしたその指先を、刻は微笑んで避けた。
「悠仁、忘れないで。……私は最初から、あなたの傍にいることが、一番の幸せだった」
刹那、刻の体がまばゆい閃光に包まれた。彼女が全呪力を開放し、禁忌の術式である「天の羽衣」の真の形態――全範囲・完全無敵の結界を、自分の命と引き換えに展開しようとしたその時、帳の向こう側から影が一つ、音もなく舞い降りた。
それは、虎杖の知る誰よりも傲慢で、誰よりも圧倒的な、五条悟の気配を纏った影だった。
コメント
1件
うわああああ刻ちゃんの自己犠牲が美しすぎて涙腺崩壊した😭💦「壊れてもいい」のセリフと最後の笑顔がエモすぎるよ…!虎杖くんが必死に止めるシーンも切なくて胸がぎゅーってなった。五条先生の登場でこれからどうなるの!?続きが気になりすぎる…!!✨