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それは、覚悟を決める間もなくガタガタと動き出し、後ろ向きのままどんどん上に登って……
心拍数ヤバいかも。
「手、繋ごうか?」
希良君は左手を差し出した。
私は……そこに右手を重ねた。
その温もりに、ちょっと安心できた。
うわ、うわっ、頂点まで登りきった?
その瞬間、コースターはものすごいスピードで背中から遥か下に向かって滑り落ちた。
両耳から入ってくる軽快な音楽と共に、クネクネと曲がりくねったレールに沿って、体があちこちに振り回される。
もちろんすごく怖いのに、気づいたら何だか笑っちゃってる自分がいて、ちゃんと目も開けていられた。
すごく楽しくて興奮した。
きっと……
希良君が手を握ってくれてたからだね。
それから、私達は、映画の世界さながらのアクションシーン満載のショーを観た。
火薬をふんだんに使った爆発シーンがすごい迫力。
高いところから水の中に飛び込んだり、ハラハラドキドキのスリルいっぱいのエンターテイメントに興奮が抑えられなくて……
まるで本物のストーリーの中に入り込んだような気分になった。
その素晴らしいショーに感動したあとも、私達はいろいろなところを回って、休憩もしたりして、最後は夜のパレードと花火を見ることになった。
空を見上げると、お月様が出てすっかり暗くなっていた。
でも、色鮮やかな光が散りばめられたテーマパークの中だけは、夜になっても無限の美しさを放っていた。
本当に、夢の世界だ。
素敵過ぎて、帰りたくないって思った。
「パレード楽しみだね」
「うん。だけど……それが終わったら、今日が終わる」
ポツリとつぶやくように希良君が言った。
「そんな、おおげさだよ」
「でも、雫さんともうすぐお別れだから」
真っ直ぐ私の目を見る希良君。
「ま、またいつでも『杏』に来て。若い君には美味しいパン、もっとたくさん食べてもらいたいから」
「『杏』にはまた必ず行きます。メロンパンも塩パンもすごく美味しかったから……」
「うん。待ってるね」
「雫さん……今日、僕、本当に楽しかったよ。こんなに楽しかったのは人生で初めてだった。また、こんな風にあなたとデートしたいってすごく思います。だから……」
希良君の瞳、本当に綺麗。
その曇りのない瞳をじっと見つめてたら、私、何だか吸い込まれそうになるよ。
希良君は、深く呼吸をして、ゆっくりと息を吐いた。
「雫さん……」
「……」
「僕は……あなたが好きです。大好きです。僕と、付き合って下さい」
えっ……希良君……?
少し……声、震えてる。
泣きそうな顔をグッと堪えて、希良君は、私に一生懸命言ってくれた。
今のって……告白なの?
無理して作った笑顔が可愛くて、すごくキュンとして胸が熱くなった。
「あっ、あの……」
「僕のこと嫌い?」
「ち、違うの。でも、どうして? どうして私なのかなって……希良君の周りには、大学とかバイト先にたくさん若くて可愛い女の子がいるでしょ? なのに、なんでこんな年上の私なんかにそんなこと言ってくれるの?」