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里穂は達也には知らせずに独りで子供を育てる決心をし、出産に
臨んだ。
両親へも恥ずかしかったけれど赤裸々にどうしてこのような形で子供を
出産することに決めたのかという経緯を詳らかに説明していていた。
もちろん、達也と別れることになった経緯も、全て身から出た錆だと話していた。
それは達也に迷惑をかけたくない一心からだった。
そして、自分たちの共通の友人から聞いていて、達也には結婚を考えている恋人が
いることを知っていたからでもある。
◇ ◇ ◇ ◇
だが、娘の出産が難産で命を落としかねない状況になったため、娘から
固く口留めされていたにも関わらず、母親は達也に連絡を入れた。
そんな風に里穂の母親から連絡をもった達也は、青天の霹靂でこのとき初めて
自分の子がこの世に生を受けたことを知ることとなる。
『あの娘からいろいろ経緯は聞いています。
達也くんは1mmも悪くない。
妊娠のことも騙したような形になっているから、絶対知らせないようにって
言われてたの。
だけど、娘が死の淵を彷徨うことになってしまって──
そうなると話は違ってくると思ってあなたに連絡したの。
迷惑だってことはわかってるんだけど、娘と産まれた娘に
会いに来てやってくれないかしら。お願いします』
『わかりました』
電話を切ったあと、俺はしばらく放心状態だった。
避妊に失敗してたんだ。
十月十日、自分ひとりでこんな大事を里穂は抱え込んでいたのかと
思うと──
彼女のことも、父親に認知すらしてもらえないかもしれない状態で産まれてきた
我が子のことを想い、俺は涙が零れた。
里穂が淋しく不安な気持ちで過ごしていた頃、俺だけが幸せの絶頂にいて……
そんな想いが涙へと変わっていく。
突然こんな大変な話を聞かされたというのに、不思議と俺の中で迷いはなかった。
里穂が生き延びたとしても、また敢え無く命を落としたとしても、俺は子の
父親として生きようと決めた。
美並の大切な3年間を無駄にしてしまうことに対しては本当にすまないと思う。
ここは、誠心誠意謝罪をして──
謝罪をするしかないだろう。
小さな命の重みが俺の胸の内にじわりと沁み込んだ。
◇その後のてんやわんや
1か月後に控えた挙式を反故にするということ。
世間や常識を鑑みて、どえらいことである。
そんなこともあんなことも、知らぬはずのない本田達也。
その後のさまざまなことを1つずつ対応し片付けていき、産後無事生還できた里穂と子と
四苦八苦しつつ、3人の生活を始めた。
コメント
1件
うわあ…読んでて胸がぎゅっとなりました。里穂が一人で決断して出産に臨んだ強さと、母親が娘を想って約束を破って連絡する切実さが両方刺さりました。達也が涙を流すシーン、彼の後悔と「父親として生きる」という決意が静かに響いてきて——読み終えたあと、しばらく動けませんでした。この先3人の生活がどうなっていくのか、すごく気になります。
AZ

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