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ずっと、今のクラスでは馴染めていた方だと思っていた。“おはよう”と喋りかければ笑顔で返してくれる友達が居たし、良くも悪くも賑やかで騒がしく、居心地のいい暖かい雰囲気のクラスだった。

卒業までずっとそう過ごしていくのだと信じて疑わなかった。

─…それなのに、


『…おはよう、ございます。』


震える声でそう言葉を落とし、自身の教室へと足を踏み入れた瞬間、それまで騒がしく慌しかった教室がピタリと時が止まったかのように静かになった。クラスの半分以上の子達の軽蔑を含んだ鋭い視線が、小刻みに震える自身の体にチクリと突き刺さる。床を踏み進める足が鎖を引きずっているように異様に重くなる。


「うわ、よく来れるよねぇ…。人の彼氏奪ったくせに。」


「なにあの自分被害者ですみたいな顔。こっちが被害者だっつーの。」


互いの耳に口を近づけコソコソと嫌味の籠った言葉を垂れ流すクラスメイトの唇の端には、微かな冷笑に似た奇妙な笑みが浮かんでおり、その顔を見た瞬間、両足が床に吸いついて動かなくなった。足には確かに力が入っているのにも関わらず、何か重いものを引きずっているかのように前に進めない。冷汗だけが自分の意思とは逆にダラダラと全身を流れる。



─人の彼氏を取っただなんて、そんなことしていない。

被害者面をしているつもりも、全て。



違う。作り話だ。ときちんと否定できたのは最初の頃だけ。

だけど必死に伝えた私のその言葉はクラスメイトには信じてもらえず、いつの日かこんないじめにまで発展してしまった。

今ではクラスメイトたちと目を合わせることすらも怖く、未知の不安に足が竦んでしまう。

誰が言い始めたことなのかも、どうしてそんな噂がたってしまったのかも分からない。





「なんかずっと突っ立てるんだけど。きも…」


こんなことになる前までは他の子と変わらず仲良くしていたクラスメイトたちは、今は侮辱の籠った瞳で私を睨みつけて、罵倒の言葉を口にしていた。

数週間前までの変わりように、額に脂汗が滲み出る。


『…ふ、ぅ』


呪いをかけられたみたいに自由がきかない自身の身体と、クラスメイトの冷たい視線と声にとうとう我慢が切れ、つい唇の間からするりと嗚咽が零れ落ちる。涙が、声が、我慢していたすべての感情が突然爆発し、透明な水滴が瞬きとともに弾き出された。

私のその様子にさらに苛立ったのか、クラスメイトたちの罵詈雑言と視線の数がどんどん増えていく。聞きたくないのに無意識に入ってきてしまうその言葉に、瞼に涙を滲ませて顔を隠すように俯く。カバンの持ち手を握る手に無意識に力が入った。




「来い」



その瞬間、カランという聞き馴染みのあるピアスの澄んだ音と男子高校生特有の低い声が私の鼓膜に触れた。途端、声の主である褐色の腕が私の手首を掴んで、ぐいっと腕を引かれる。そのままクラスメイトから野次を入れられるよりも先に素早く教室から廊下へと引きずられた。









数分後

静かな廊下に硬い靴音を響かせ、規則的な歩調で足元に映る影を動かすように歩く。


『イザナくん…?』


私の手首を握ったまま一言も喋らず何処かへ向かう青年の名前を、掠れた声で呼ぶ。

彼……イザナくんとは親の居ない子達が過ごす児童養護施設と呼ばれる場所で出会い、一緒に育ってきた。謂わば幼馴染に近い存在。

小学校、中学校、高校。どの学年でも何故だが根も葉もない黒い噂を植え付けられ、気付いたらいじめにまで発展してしまっていた私のことをなにかと気にかけ、こうやって教室から遠ざけてくれたりして助けてくれるイザナくん。

手首から感じる力加減と出来るだけ合わせようとしてくれる歩幅に、流れていた涙が頬にくっついて止まる。ぬかるみの中を歩いているみたいに重かった足が不意に軽くなった。


『…ありがとう、イザナくん。』


私の少し前を歩く背にそう告げ、ピタリと立ち止まるとそれと同時にイザナくんの足も止まる。そのままくるりとこちらを振り返った紫色の瞳と視線が交わった瞬間、はぁと彼の口から呆れの吐息が零れ落ちた。その拍子に握っていた手がゆっくりと離され、目元に溜まっていた生渇きの涙を彼の褐色の指に拭われる。


「オマエまたいじめられてンのかよ」


『…今回のクラスは仲良くできると思ったんだけどね』


呆れたという風に肩をすぼめるイザナくんのため息が耳を右から左へ抜けていく。

自分一人では何も解決できない私をいつも助けてくれるそんなイザナくんに言葉では表せられないほどの感謝とともに同じ量の罪悪感が沸き上がる。

毎回この事実無根な噂の製作者はいったい誰なのかも、どういった理由でこんな悪意たっぷりの噂を学校全体に流したのかも何一つ分からないし、心当たりすらも浮かばない。

考えれば考えるほど疑問が浮かび上がって、困惑の気持ちが薬の苦味のように残る。


『なんでいつもこうなっちゃうんだろう…』


クラスから離れたおかげでいくらか楽になった気持ちの間に、またもやため息がうまれる。


「…さあな」


そうポツリと声を落とすイザナくんの表情は、俯いていてよく見えなかった。






続きます→♡1000


今日大阪めっちゃ雪降ったよね❕⛄

12年間生きてきて初めてあんなに雪降ったの見た😺💖

Contrived Love【黒川イザナ】

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